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【感想】読書感想文「ベーシックインカムの祈り」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0017

2019年10月に出版された『ベーシックインカム』を文庫化したものが、2022年10月に発売された『ベーシックインカムの祈り』だ。
作者は井上真偽先生。
井上真偽先生の作品は『その可能性はすでに考えた』ですっかりドハマりし、以前は『ムシカ 鎮虫譜』の感想もnoteに書いている。
『ベーシックインカムの祈り』も抜群に面白かったので、以下、ネタバレありで感想を書いていく。

『ベーシックインカムの祈り』は本格ミステリの短編小説だ。
その本格ミステリのスパイスとして、近未来の技術や社会の制度を取り入れている。

AI、遺伝子改良人間、VR、人間強化、ベーシックインカム。
これらによって起こるであろう人々の価値観の変化が、本書の鍵だ。
さらっと読んでいると見逃してしまうような、近未来の常識で考えたときに違和感がある発言や描写を元にして、事件は解決へと導かれる。

近未来を描いているとはいえ、SFチックな、あっと驚くようなトリックはない。
だが、その世界の人々の暮らしを見つめ、細やかに違和感を積み上げて真相に辿り着く様は、まさに本格ミステリだ。

そして、その暮らしの見つめ方からは、小説内の世界と、私たちが暮らしている2022年の世界は地続きであるということも読み取れる。
過去も今もそして未来も、人は誰しも判断を間違ったり、すれ違ったりしてしまう。
いつの時代でもそうなのだから、だったら価値観が変わっていくことを恐れずに、むしろ受け入れながら暮らしていきたいなと、本書を読んでいて感じた。

短編の最後だけ、それまでの短編と比較して近未来感は薄い。
その分、それまでの短編を読んできたからこその思い込みと、それをガラッと覆す内容になっている。
これだけは本格ミステリであると同時に叙述トリック的なお話で、若干毛色が異なっている。
こういう騙され方も個人的には好みだ。

まだの方は是非読んでみてほしい。

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