北の大地に、満を持して
世間より早くGWに突入した私は、札幌で一人暮らしをしている祖母の元を訪れていた。
今日は柔らかな雨が降る大通公園を二人で散歩している。
地元ではほぼ感じられない草木の薫りに包まれて、心地が良い。
様々な花が綺麗に植わっており、歩くたびに景色が変わる。
それだけで充分楽しいが、祖母は物足りないらしい。
「桜も見せてあげたかったんだけど、あなたがここを発つ日から咲くっていうのよねえ。この雨で早まったりしないかしら」
「桜って雨で咲くのが早まるの?」
「この時期の雨を催花雨って呼ぶのよ。早く咲いてーって促してるの。ほんとに早まるかは分かんないけどね」
雨が降ってなかったとしても、数日すれば北海道でも開花宣言が出て、満を持して満開の春を迎えただろう。
だが、こうして雨が降っているのだし、折角なら――
「もう少し休み取れないか確認してみるよ」
そう言うと、祖母の顔が綻んだ。
日本で最後の催花雨が、桜の蕾を揺らした音がした。
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