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短編

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空山非金の短編をまとめたものです。
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#詩

詩〈こぼれた球〉

詩〈こぼれた球〉

   こぼれた球

 いくよ。
 合図と共に投げた球。
 放物線を描き、五指の中。

 いいよ。
 合図で戻る投げた球。
 放物線を描き、五指の中。

 繰り返し。繰り返し。
 今度は続くと信じてた。
 呼吸が合うと、感じてた。

 何度目かに、遠く彼方で落ちる球。
 もう見向きもされない球。
 いつからか、自分で自分に返してた。
 壁に打ち、軌跡だけを追いかける。
 あの日に見た、それだけを。

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詩「太陽の餓獣」

詩「太陽の餓獣」

  太陽の餓獣

 血肉を浴び飽きた獣は地獄を出た。己だけを頼りに。
 世界を狩らなければ。確固たる意志を抱き、不敗の爪牙を立てる。
 憤怒の赴く儘に鏖殺す。引き千切り、叩き潰し、命を断つ罪悪が、獣の心を揺さぶる。
 ――生きる。力ある者は、他者を統率する知恵者は、全に尽くさなければならない。
 ――殺す。力無き者は、他者を貶める愚者は、全の前に首を差し出さなければならない。
 身内から湧き出す感

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詩「蒼月の孤狼」

詩「蒼月の孤狼」

  蒼月の孤狼

 意志薄弱な狼は群れを逐われた。歳若い獣と共に。
 彼らを守らなければ。不透明な義務を抱き、研いだ牙を剥く。
 獲物の首筋に歯を突き付けて、皮を裂き、肉を切り、骨を砕く食感が、狼の脳を揺さぶる。
 ――甘い。強さは、力を誇示する事は、余りにも甘美。
 ――苦い。強さは、命を冒涜する事は、余りにも苦渋。
 身内から湧き出す感情は平行線を辿り、自己を二分した。
 周囲が前者を望むのな

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短編集・詩集「あなたへ」

短編集・詩集「あなたへ」

  はじめに
 本作「あなたへ」は、計二十三作品の短編小説と詩をまとめた、文章作品集となります。
 各作品ごとに異なる題材を選んではいますが、全体を通してのテーマが「読者に訊ねたいこと」である為、この様な題名に致しました。
 中にはこれを読むあなたが苦手とする表現が含まれている恐れもありますが、悪意の無い問いかけとして受け取って頂けたら幸いです。

  読書家なあなたへ

 ふ、と。夢中になってい

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