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短歌と人インタビュー 安野ゆり子-006 2023/11/09

前回。
安野さんの魅力は、なんでも受け入れがちなところですね。
これやっていいですか? あれやっていいですか? っていうのをなんかオッケーオッケーしてくれる空気がある。
なので、今回は勝手にサイトを作りました。ドメインもとりました。
Canvaで簡易的にですが、でもこれはもう公式サイトじゃないですかね?

引っ越しとコンカフェ

qbc:前回のインタビューから何か変化はありましたか?

安野:一番大きいのは引っ越しができました。まだ終わってないですけどね。
普通、引っ越し業者に頼んで1日で終わると思うんですけど、夫が引っ越し業者使うのは嫌いなので、レンタカーで引っ越しするんですよ。
とりあえず10月に大きめの乗用車で2往復して、11月入って日曜日に1回軽トラで1往復して、大体運んできたけどまだ前の家に荷物ある感じです。
暮らしはもう今の家なんですけど、荷物は前の家にもまだあるぐらいな感じですね。

その他は労働を2ヶ所でやってます。
スナックとコンカフェ。今、週に2回も労働してるんです。

qbc:引っ越ししたところは、どうですか?

安野:新居はすごく良いところが見つかって。広くて、都内なんですけど周りは落ち着いた住宅街のところなんで、安心感がある。

私は出身、群馬の割と田舎の方なんですけど、そのときの暮らしに近いような、感じです。
引っ越し初日からすごい安心感がありました。

qbc:労働のほうは、どうですか?

安野:スナックは、馴染んできました。来てくれた友達が言ってくれたのは、「普通にしてるのに輝いてるのがすごくいい」って言ってくれました。
頑張っててキラキラしてるんじゃなくて、いつもと変わらないのに輝いてるところがいいって言ってくれました。

お酒は作るけど、「この高いお酒飲みませんか?」とか営業もしないから、普段お店で飲んでるときとあんまり変わらないですね。喋ってることとかも。来てくれるのは友達ばっかりだし、今は。

常連のお客さんっていうのが、0時過ぎにならないと来ないんですよ。でも私、終電で帰っちゃうんで、ママのお客さんには会ったことなくて。
あまりにお客さんと会わないから、最初は「めちゃめちゃいっぱいお客さん入れないと自分の時給分が全然ペイできないんじゃないか」と恐れてたんですけど、聞く限り、結構ママの時間帯にお客さん入ってるっぽくて、時間が遅くて帰れなくなっちゃったような人が来るらしくて。

qbc:コンカフェを始めた経緯はどんな感じで?

安野:スナックの帰りに、その日お客さん全然来なかったから、ちょっと早めに帰ったんですね。
それでお客さん捕まえるために、「ちょっと違うとこで飲んで開拓しようかな」とか思って歩いてたら、「おい着物」って声かけられて。

安野:着物の人って私しかいないから、振り向いちゃったんですよ。
そしたら、お金払うから一緒に飲もうよみたいな感じで、立ち飲み屋さんに連れてかれて。
ま、いっかと思って。どうせ飲む気だったからいいやって思って飲んでて。そしたら立ち飲み屋さんが1階で、2階がコンカフェなんですけど、そのコンカフェやってる社長と、「着物」って声かけてきたそのビルを持ってる不動産屋さんのおじさんと、その人たちと仲良しのすごく志の高いおじさん、3人のおじさんたちとすごい盛りあがっちゃって。
「君面白いね、ここで働けば」ってなっちゃって。私もそのお店の名前だったりとか、いろいろな会話から「この人たちについてっちゃってもいいや」って思ったんで、「働きます」とか言って。次の週から働くことになって。
コンカフェでみんなはメイド服みたいなの着てるんですけど、私だけ着物で働いてるんですよ。

qbc:場所は、どちらなんですか?

安野:中野でやってます。スナックもコンカフェも。

qbc:セクキャバで働いたご経験はありましたけど、セクキャバの売りはセクシーじゃないですか。なぜ今まで、面白さや喋りで売れる系の夜のお仕事はされてなかったんですか?

安野:元々、やったら向いてるだろうなってのはわかってたんですけど。でも飲み屋さんでは働いたことなくて。なんかついにこっち側来ちゃったなみたいな。抵抗があるわけじゃないけど。
労働を夫と主治医に止められていたっていうのもありますけど。

離婚するにあたって経済的な自立っていうのも必要になってきてますし。
あとはやっぱり、そういうところに集まる人って、いろんな人が来るから、私がミュージシャンになりたいとか、YouTubeで売れたいとか、そういうことのすごく助けになる場所なんですね。
コンカフェの社長も、音楽業界にいた人だったりするし、人脈的な意味では、自分が嫌になっちゃうまでやるかなって思ってます。

qbc:働くこと自体は、いかがですか?

安野:私、すごい「予定恐怖症」とか「時間恐怖症」なんですよね。予定が入ってるだけで怖くなっちゃうので、毎週何曜日とか固定で予定が入ってるの本当に嫌で。
例えばこのインタビューも、この日これがあるって思うと、その日はそこに向けて全集中しちゃうから、他のことできないなとか、何時に起きて何時までには準備してみたいな、すごい頭の中で計画立てちゃうんですね、細かく。
そうすると苦しくなっちゃって、そういうのが仕事だと毎日あるわけで、それがすごく怖かった。

バイト0日で辞めた話も、面接受かって「何日から出勤できますか?」って電話かかってきたときに、働き始めたら「今日休みます」って言えないのが厳しいなって思って。曜日固定制だったので、月曜の何時から何時までは絶対空けてくださいみたいな、その曜日は他の予定入れないでっていう感じなんで。
そう思ったら、毎週毎週私ちゃんと行けるのかな、体調も安定しないし、って思ったら怖くなっちゃって、「やっぱり辞めます」って言って。お店側からしたら「まだ1回も出勤してないから嫌なことだってあるはずないだろうに」って思ったと思うんですが。

「どうしてですか」って言われて、でも答えるとか説明もできなくて。もうすごい泣きながら、「無理ですごめんなさい」って言って電話切って。

そういう感じで、予定が入ってるのが怖いっていうのが働く上での障害として一番大きい。

あとは主治医に止められていたのもあるし。以前、就労移行にちょっとだけ通ってたことがあるんですけど、その時にこの人は就労していいかどうかっていう許可を主治医に取らなきゃいけなかったんですけど、「書類を書いて」って頼んだら「駄目」って言われて。就労移行を通じて就職する、手厚いフォローがあるような会社でも許可が下りなかった。
実際その後入院しちゃって就労移行にも通わなくなりましたが。

だから自分でも労働は無理って諦めてたし、元々、私あんまり働きたくないんですよ、基本的に。
子供のときからミュージシャンかファッションデザイナーになりたいと思ってて、でもそうじゃなかったら、なんかお母さんみたいに、そこそこ若く結婚して子供産んで家のことをやりたいと思ってたし。主婦で暮らしたいなと思ってたので、会社で働くとか、あんまり憧れたことないし。

短歌

qbc:今、時間の使い方の割合って、どんな塩梅なんですか? 日々の生活と、労働と、その他のこととかの。

安野:日々生活を回すのが80パーぐらいですけど、10パー短歌、8パー動画、2パー労働くらいですね。
でも短歌をちゃんとやろうっていう気持ちはあって、コンカフェでも今週の一首・一句っていうのを短冊で飾らせてもらうことになってて。

この無名人インタビューで、「短歌と人」っていうふうに取りあげてくれてるのもあるし、実際の歌壇での知名度より、遥かに外堀を埋められてる感じがあるんですけど。
だからなんかどんどん短歌をやんなきゃっていう感じ。

qbc:なるほど。そしたら、短歌に行きましょうか。今回はこちらの記事からピックアップしましょうかね。

(今回は時間の関係で、全ての短歌ではなく、気になったものを拾いました)

湯に入れた菖蒲四つに折り捨てる母になりたいかはわからない

qbc:あれ、菖蒲湯ってなんのイベントでしたっけ。

安野:菖蒲湯ってあれですね、こどもの日。

qbc:あーそうかなるほど。そうするとストレートな繋がりですね。子供のことを思わせる菖蒲があって、それを見て「母」について思いを致すと。
なんですかね、お湯って色っぽさと同時に、菖蒲のグリーンの鮮やかさが目に浮かびますね。でも、それを折り捨てる、母になりたくない、という落差が妙味になってますね。

安野:「菖蒲湯」と「こども」でちょっとつきすぎの思想なんですけど、でもその瞬間にそういう迷いがあるよっていう感じの歌です。

私、22で結婚してるんで、25とかになると、子供どうしようかなみたいな。30過ぎてやっぱ欲しいとかなったときに、いや22で結婚したんだから、もっと早く産めばいいじゃんとか絶対なるけど。
でもその歳ぐらいから、夫のこと好きだけど、一緒に子育てするのはどうなんだろう、みたいなのがあって。
わかんないな。私の人生で子供は欲しいっちゃ欲しいけど、結構どっちでもいいかな。

なんか、相手に合わせる感じがあって。夫が「子供すごい欲しい、3人欲しい」みたいな。3人欲しいならもう産まなきゃまずいみたいな感じがあって、このときはそういうことよく思ってたんですね。
Twitterの鍵垢で、「子供がいないまま人生が終わってもそういう人生だったって思えるだろうけど、今産んだら絶対後悔する」みたいなこと書いてて、この時。なんか、そういう時期でしたね。

五月闇信号待ちにタクシーの空車ランプが左折してくる

qbc:ごがつやみですか?

安野:さつきやみです。

qbc:おお、なおさらかっこいい。まず「五月闇」がまず厨二病的にかっこよくて。
それで映像的に、暗闇からぬっとタクシーが迫ってくる情景があって。何気ない場面だけど、日常に潜む怖さっていうのがありますね。

安野:しかも空車ランプだから赤なんですね。

qbc:これは、意図的にホラーにしてる、という理解でいいんですかね?

安野:ちょっと怖いよというお化けチックな雰囲気に、意図的にしてます。
1首目がこどもの日で、五月闇でも五月と言っていて、4首目で夏がそこまで来てるって歌を入れていて、これは5月6月の雰囲気を出したくて、こういう並びにしてますね。
私、あんま連歌で作らないので、バラバラにある歌を、季節感が前後しない感じで、雰囲気が出るように並べたらこうなったって感じですね。

頬杖をついてマンゴーパフェをかき混ぜる彼女と向け合う嫉妬

qbc:これは、なんというか女性同士で話をしていて、そこにお互いに向けている嫉妬というのがあって、なんだかどろどろしている様相を思わせるのがいいですね。
マンゴーパフェによってイメージされる南国っぽい黄色も、その嫉妬と似つかわしくなくて良いミスマッチを感じます。

安野:マンゴーパフェなんか注文して、頬杖ついちゃって、愚痴とか人生相談みたいなことを言い合ってるんですね。なんかかわいくて良いご身分ですね、みたいな感じ。
この場面を切り取ってちょっと遠くから見たら、女のドロドロした嫌なところが見えるかなって思ってちょっと強めに創作した感じの歌です。
実際は、うちの夫に嫌んなっちゃったとか、相手は彼氏がどうのって、その程度の話なんですけど。

植物を愛でるくらいでいいのかもしれず生理は予定日通り

qbc:母から始まって、最後は生理の話と、植物を世話するという子育てを連想させるモチーフを入れて、きれいにおさめた感じですね。
何かを育てる欲求というのはあるんだけど、それは植物を愛でるくらいと言い表す上手さがを感じました。

安野:この歌の載っているnoteの画像がナスなんですけど、庭先で自分で育てたナスなんですよ。あとキュウリ作ったりバジルも育てたりとかして。
そういうことをしていた夏だったので、そういう生産みたいなこと、もの作りみたいのは畑くらいでいいのかなあ、みたいな。家庭菜園ですけどね。

無理したり悩むことはないかな、みたいな気分になってて。この夏はそういう結論に至ったんですよ。

(お写真お借りしました)

一番興奮するもの

qbc:安野さんは、いろいろなことをされていますが、何を一番されたいんでしょうかね。

安野:好きな人と穏やかに暮らしたいのが1番で、2番目は音楽やりたい、3番目は短歌に貢献したい、4番は着物でお金を稼ぎたい、ですね。確か最初のインタビューで話したんだと思うんですけど。それは変わらないんで、その時よりもそれぞれが実行に移されてるだけですね。

幼稚園の時に「ファッションデザイナーになる」って言ってたんですよ。小1ぐらいでは、「やっぱりミュージシャンになる」って言ってて。だから、生まれついてから変わってないようなとこもあって、好きなことしかできないですね。

空手やったり英語やったりしたこともあるんですけど、休みがちだったり1年ぐらいでやめちゃったりとか。続かなかったんで。

中学生の時は、私はほとんど不登校みたいなもので、苦手な環境が本当に駄目なんですよね。
親もそれは諦めてたし、自分も開き直ってたし、ずっと音楽やってたんで、やっぱそれが一番好きだったから。だから今も自分の人生の計画2番目には音楽が来ちゃうし。
ファッションはずっとゴスロリとかが好きだったから今も変わらないし。
自分の人生で何が残らないと私じゃないかというと、音楽とファッション。

短歌はギリギリなくなっても何とかなりそう、みたいな。
この前、インタビューが終わった後に、すごいしょげちゃった時があって。自分が短歌が好きじゃなくて、得意だからやってるだけだってことに気づいちゃったんですね。元々は歌詞を書くためのメモとして短歌を始めたので。
でもなんか短歌のがうまいから、周りも褒めてくれるから、ここまで来ちゃったって感じ。

短歌が好きな人って、他の短歌アカウントとやり取りしたりとか、他の人の歌集を読むとか同人誌読むとかするんですよ。でも私は、それこそトップの俵万智さんとかじゃないと買う気しないんですよ。でもみんなは文学フリマとかに行って、手作りの本を買い合うわけですよ。なんか信じられなくて。
短歌を作ることは好き。自分の作品を作ることは好きだけど、短歌を大きなくくりで見たときには、そんなに好きじゃないんですよ。だったらカラオケ行ってる方が、全然好きって感じで。このインタビューをやってて気づいちゃったことですね。

音楽は、好きだからやりたいけど、プロになってお金稼ぐってなったら大変なことがいっぱいあるじゃないですか。周りの方針に合わせるとか、練習をすごいたくさんするとか。そういうのは、かえってやりたくない。だからプロにはなりたくなくて。
でも短歌だったら、ちょっと厳し目で評価されたり、この歌よくないと言われても、それはなんか平気ですね。

qbc:安野さんって、一番興奮するものなんですか?

安野:喋ってる時じゃないですか、周りの人と。みんなで騒ぐってよりは一対一で。
夫や、好きな人もそうだし。友達もそうだし。その人と共有できる話題で、「そうだよね」とかって言って、お店とかでね。
本当うるさいんです私、そう。そういう時がもう周り見えなくなっちゃってるし、何時間でも喋ってたくなっちゃう。
それが一番多分興奮してますね。

終わりに

いちおう私も今回、短歌作ったのね。これ。
「国立にレースしかない店がある蒸し器の中でなすがとろけた」
いちおうね。時間なかったからね。ここにね、のせておく。

(安野追記:なすのとろけた瞬間、あるいはとろけるまでの時間経過を言っているわけだが、蒸し器の中なのでその様子は実際には見えない。見えないけれど、確実にそこに存在しているなすの様子を詠んでいるのが良かった。レースは「レース編み」のレースなのか、競輪などの競争の意味なのかわからなかった。全体的に詠みぶりがこなれてきたと感じた)

なんというかますます今回は安野さんに興味をもった次第。
実は、インタビューを開始した3か月前は病み上がりのこともあってか、今ほどの元気さ、ハキハキさ加減はなかったのね。でも今は猪突猛進感あるのね。
心の病の人は、勢いありすぎてまたエネルギーゼロになったりするので心配ではあるんだけど、なるほど元気な時のこの人はこうなんだな、と思いました。
そして元気な時の安野さんはなんだか面白いなあと思って。
私の嗅覚の正しさに慢心する霜月のながながし夜なのであった。

制作:qbc(無名人インタビュー主催・作家)

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