マイノリティ性を持たない人ってこの世に1人もいないと思う人
むかしむかし、ある山里に、見つめ(みつめ)という名の若者がいました。見つめには不思議な力があり、人々の心の中にある「小さな違い」を見ることができました。
見つめはいつも言っていました。「この世界に、まったく同じ人なんていない。誰もが何かしらの違いを持っているんです」
ある日、村で「普通」を決める会議が開かれることになりました。村人たちは「普通の暮らし方」を決めようとしたのです。
見つめは立ち上がって言いました。
「待ってください。私が見たものをお話しさせてください」
そして見つめは、村人たちの話を始めました。
「大工の健さんは、左利きだから特別な道具を使っています。
お料理上手な梅さんは、実は匂いに敏感すぎて困っています。
元気な太郎くんは、夜になると一人でいるのが怖いんです。
いつも笑顔の花子さんは、人混みが苦手なんです。
村長さんでさえ、字を読むのに苦労しているんです」
村人たちは驚きました。誰もが何かしらの「違い」を持っていることに気づいたのです。
「私は早起きができません」と、ある人が言いました。
「私は数字が苦手なんです」と、別の人が告白しました。
「実は私、暗いところが怖いのよ」と、また別の人が打ち明けました。
すると不思議なことが起こりました。村人たちが自分の「違い」を話し始めると、お互いを理解し、助け合うようになったのです。
左利きの大工さんは、同じように左利きの子どもに道具の使い方を教え、
敏感な梅さんは、同じように敏感な人のために優しい料理を作り、
夜が怖い太郎くんと、人混みが苦手な花子さんは、お互いの気持ちを分かち合いました。
後に見つめは村人たちにこう語りかけました。
「誰もが何かしらの違いを持っている。それは弱さではなく、その人らしさなのです。その違いを認め合い、支え合うことで、私たちはより豊かに生きていけるのです」
そして「違いは個性、違いは宝物」ということわざが、この村から広まっていったとさ。
めでたし、めでたし。
と思う2024年10月14日16時54分に書いた無名人インタビュー915回目のまえがきでした!!!!!
【まえがき:qbc・栗林康弘(作家・無名人インタビュー主宰)】
今回ご参加いただいたのは きのコ さんです!
年齢:不詳
性別:ジェンダークィア(ノンバイナリー)
職業:場づくり屋/株式会社Luna広報
現在:あさっての方向に頑張って時間を無駄にしちゃうのはすごくもったいないよなって思う。でも自分1人で正しい方向性に考えたり、何か行動したりできると思ってないので
いまじん:
きのコさんは今何をしている人でしょうか?
きのコ :
何をしている…なんだろう。最初から難しいですね。
いまじん:
(笑)
きのコ :
いろいろやってる人ですけど、一つが物書きですね。文章を書くことを、なりわいの一つにしてます。
いまじん:
それ以外には?
きのコ:
それ以外だと、”場づくり屋”って名乗ってるんですけど。イベントの企画運営をしたり、あとは住むための場づくりってことで、シェアハウスの運営をいくつかやってますね。
あともう一つ、会社員としての軸もあって、LunaっていうSMが好きな方向けのマッチングサイトの会社で広報を務めてます。
いまじん:
それ以外はあったりしますか?
きのコ :
大体こんな感じかな。あとは結構、旅人とかノマドワーカーって自己紹介をすることも多いですね。
いまじん:
この中で一番時間的に使われているのはどれになるんですか?
きのコ :
物書きが一番長く使ってる肩書きかなって思います。場づくり屋も結構長いですけど、物書きが一番、アイデンティティとしては長い気がしてますね。
いまじん:
具体的にはどんなことを書かれてるんですか?
きのコ :
本を出したりもしてて、ポリアモリーやLGBTのこととか、ジェンダーやセクシュアリティのことをテーマにしていることが多いですね。あとパートナーシップとかコミュニケーションをテーマに文章を書いてることも多いです。
いまじん:
これってのはいつ頃からやられているんですか?活動として。
きのコ :
もう10年以上になると思うんですけど。自分が物書きとしてデビューしたのが、cakesってプラットフォームで連載のオファーをいただいたタイミングだったので。それが確か2016年で、そこから物書きをしてますね。
いまじん:
どんな本を書かれたんですか?
きのコ :
ポリアモリーに関する本を『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』ってタイトルで書きました。
いまじん:
今は特に何か執筆されたりとかはされてないですか?
きのコ :
今も執筆は何件かしていて。LGBT向けのメディアで連載をしてます。あとはライターとして、マーケティングとか仮想通貨のメディアに記事を書いたり、そういうこともしてますね。
いまじん:
なるほど。そのきっかけとかってちょっと聞いてみてもいいですか?
きのコ :
ポリアモリーってテーマで本を書こうというか、そもそも発信しようと思ったきっかけ…。自分はポリアモリーの当事者としての発信を、それこそ10年以上してるんですけど。その発信内容の集大成的に本が出せた感じで。
ずっとポリアモリーに興味がある人の交流会をやってたんですけど、それがcakesってメディアの目に留まって。イベントにcakesの編集長さんが来てくれて、それで連載のお話をいただいたので。
ポリアモリーであることについて、交流会をやっていろんな人と恋愛について語り合ったり悩み相談したり、そういう会をずっとやっているので。その中で考えたり調べたり、話し合ったりしたことが本にまとまったという流れでした。
いまじん:
なるほど。ちなみにもう一つの会社員についてもちょっと伺ってみたいんですけど、広報とおっしゃってたと思うんですが、会社のLunaさんというのはどういった会社なんですか?
きのコ :
Lunaっていうのは、SMとかKinkyって言われる特殊な性的嗜好の人たち向けのマッチングサイトです。マッチングって言っても、恋愛のマッチングだとか、一対一の男女だけの出会いとは限らなくて、コミュニティ作りみたいな。友達を作ってもいいし、みんなで交流して仲間同士になるみたいなことまで含めたマッチングサイトというかコミュニティサイトの運営をやってる会社ですね。
そこに2024年2月ぐらいから関わるようになって、今は社員として広報をやってます。
いまじん:
この会社に入ったのはどういったきっかけだったんですか?
きのコ :
うちの会社の代表でひのさんって方がいて、その方からそもそもこの「無名人インタビュー」ってメディアを知ったんですけど。
そのひのさんが、前に「令和の虎」ってYouTube番組に出演していて。その中で「SMとは、Kinkyとは」みたいな話や「Lunaってこういう会社です」みたいな話をするとともに、彼自身がポリアモリーとして生きているって話もしていたので「私と同じような属性の人がいるんだな」って気になって、そこからSNSで繋がって話したりするようになって。
そのLunaって会社が、定期的にLuna Barっていうイベントをやってるんで、そこに行って実際にご挨拶して。そこからご縁が繋がって採用まで至った感じです。
いまじん:
ご自身で実際に携わられてみてどうですか?
きのコ :
大変なことも難しいこともあるけど。基本的には、私はそのポリアモリーがどうとかLGBTがどうとかってこととはまた関係なく、SMやKinkyの世界が好きで、そういう世界でもずっと遊んできたんです。でもそういうのって、あんまりオープンに人とお話できるようなことじゃないと思っていたので。
そもそも、SMやKinkyってテーマの会社を作って、ちゃんと真正面から事業としてやってることに結構びっくりした。すごい真面目にちゃんとビジネスをやってるんだってわかって、そういうところもめっちゃ面白いなって。
テーマがテーマだけに、みんなから理解や共感を得られる事業ではないと思うんですけど。それだけに、やりがいがあって面白いって感じがしますね。
いまじん:
実際に、広報っていうとどういったことをされてるんですか?
きのコ :
会社とメディアを繋げるのがメインの仕事です。プレスリリースを書いてメディアからの取材を募集したり、あとは直接メディアの方々に連絡を取って、うちの会社を取材してくれませんか?とか。そういった繋がりを作って情報発信してますね。
そういう意味では、十数年やってるポリアモリーとしてのいろいろな情報発信と、似てる部分があると思ってます。
いまじん:
お気持ちというか感情としてはどうですか?それを仕事として、会社でやっているっていうのって。
きのコ :
不思議な感じというか。プライベートでずっとポリアモリーやLGBTについて発信してきたときって、自分が当事者で自分のことを語るのが中心ではあったんですけど。
今、Lunaとして事業の話をするとか「Lunaのユーザーってこういう人で、Lunaはこういう人向けにやってます」みたいなことって、自分自身の気持ちだけ語ってもしょうがない。それより「SMが好きな人たちやKinkyな人たちは、こういうことに困っていて、マッチングに関してこういう悩みがあって、そこにLunaはこういうふうに答えようとしてます」みたいな、自分以外の話をたくさんする必要がある。
いわゆるLunaのユーザーを理解するとか、代表のひのさんの思いを理解するとか、そういう、当事者として語る以上に「代弁者になる」ところが仕事として求められてるんで。それは何か取材を受けて話をするのは同じでも、誰のどんな話をするのかっていうのは違うところもある。
まだまだ完璧にできてるとは言えないなって思ってますね。
いまじん:
何か仕事を始められるようになって、新しく気づいたこととかってありますか?
きのコ :
単純に「取材を受ける」ことって、10年以上の経験があるし、慣れてるんですけど。
でもポリアモリー当事者としての取材って、やっぱり全部もらった取材だったんで、正直「こういう取材をしてください」って言いに行って取材をしてもらうことは、全然違う話だなって。それはまだまだ難しさを感じてますね。
仕事として「テレビに出たいです」とか「取材を受けたいです」みたいなことって、どういうふうに言うと取材してもらえるのか、興味をもってもらえるのか、まだまだわからなくて、難しいなって思ってます。
いまじん:
ちなみに、きのコさんご自身の性格のこととかも聞いてみたいんですけど、ご自身はどんな性格の人ですか?
きのコ :
一言で言うと「好奇心旺盛」。他人によく言われるのが「クソ真面目」かなって思います。
いまじん:
どんなところがですか?
きのコ :
好奇心旺盛というのは、とにかく何かやったことないこととか、見たことないもの、会ったことない人、行ったことない場所とか、そういう自分の知らないもの全般にすごい興味があるというか。
もちろん好き嫌いもあるし、経験してみたらつまらなかったこともいっぱいありますけど。でも、知らないことを知ること自体に、ものすごく価値というか、人生が豊かになっていく感覚があるので。それが、良い悪いというより「知らないことっておもろい」みたいな感じで、好奇心ドリブンで動いてますね。
いまじん:
うんうんうん。
きのコ :
あと、クソ真面目ってところに関しては、決めたことをコツコツ続けるみたいなことが割と得意で。努力が苦にならないタイプなので、筋トレも好きだったりしますし、本を読んで1人で勉強したりとかも。
考えることも基本的にすごい好きなので、1人で思考を掘り下げたり。ときどき「物事を難しく考えすぎ」みたいに言われることもあるんですけど。あんまり自分では自覚してたわけじゃなかったけど、みんなからクソ真面目と言われるうちに「あぁこれがクソ真面目ってやつなのか」みたいな感じで、人から言われて理解してきた、みたいな認識です。
いまじん:
ちなみに最近考えてたことってどんなことですか?
きのコ :
やっぱり今どうしてもLunaの仕事が生活の中心なので。「ユーザーを理解するってどういうことだろう、どうしたらできるんだろう」みたいなことは、寝ても覚めても考えてるって感じですね。
基本的に、他人とはわかり合えないとか、みんなそれぞれ違う人間だとか。自分がいろんなマイノリティ性をもってる人間なので、わかり合えなさや、共感できなさをとても強く感じながら生きてきたので。なので、ユーザー理解って言われても「いや他人を理解って無理でしょ」みたいに、反射的に思っちゃうんです。
でも、仕事だからやらなきゃいけないし、理解っていうのは同じ気持ちになることじゃなくて、もっと、観察と分析みたいなことだって思ってはいるんですけど。
そうは言っても、どうしたらいいんだろうっていうようなことは、めちゃめちゃ考えてますね。
いまじん:
それを考えることっていうのは、結構自分の時間、1人で考えられることが多いですか?
きのコ :
いや、割と私は自分の考えたことが正しいって思い込まないタイプなんで、できるだけひのさんや周りの人たちに壁打ちしてもらう。あんまり、1人で考えるにしてもずっと抱え込まずに、ちょっと考えては壁打ちしてもらって、もうちょっと進めたらまた壁打ちしてもらって。こまめに出していくようにはしてますね。
あさっての方向に頑張って時間を無駄にしちゃうのはすごくもったいないよなって思う。でも自分1人で正しい方向性に考えたり、何か行動したりできると思ってないので「この方向に頑張ってますけど合ってますか?」みたいなことは、聞くようにしてます。
いまじん:
うんうん、ありがとうございます。
過去:ポリアモリーって言葉は見つけたけど、ポリアモリーができるとは当時は思えなくて、その「見つけた」って感じをすぐ押し殺してしまった
いまじん:
そしたら続いて過去のお話を聞いていこうと思うんですけど、子供の頃、幼少期ってどんな子供でしたか?
きのコ :
幼少期もやっぱり好奇心旺盛でした。
みんなが想像もつかないことをたくさんやらかすというか、お母さんもびっくりしっぱなしだったみたいなんです。
お母さんが今でも「この子はすごく変わってたんだよ」みたいなエピソードとしてよく周りに話すのが、私が小学生に上がったぐらいですけど、お母さんに「お庭を綺麗にしたよ」って言って。お母さんが、庭を掃除してくれたのかなって思ったら、庭中に花びらを撒いて敷き詰めてて。
あと、庭木にめっちゃ毛糸をぐるぐる巻きにしてカラフルにしてた。お母さんはそういうのを別に怒ったりはしなかったんですけど、ひたすらびっくりしてた。何かが最初からみんなと違ったんだなみたいな気がしてます。
人見知りとかも全然しなくて。ほんと好奇心旺盛で「誰にでもついていって誘拐されそう」みたいなことはめっちゃ言われてましたね。
私の実家は歯科医院で、両親共に歯医者として働いてて。私がちっちゃい頃って、私を病院の待合室で遊ばせてあったみたいで。来た患者さんがみんなかわるがわる私を抱っこしてあやして。絵本を読み聞かせてくれてた。私もそれを当たり前って思って、知らない人に「絵本読んでちょうだい」って言うとか。そういう人懐っこい、人見知り全然しない子供だったってのは、お母さんから聞いてます。
いまじん:
どんなことが好きだったとか覚えてますか?
きのコ :
探検とか冒険って言っていろんなところに潜り込んだりとか。うちの実家あたりって田舎で、特に酪農とかイチゴ栽培が盛んで、ビニールハウスや牛舎がいっぱいあったりするんですけど。そういうところに潜り込んで牛を見たり、ビニールハウスに入り込んで苺で遊んだりしてましたね。
あちこちにチョロチョロ入り込んで。溝に入ってザリガニ取ったりとか、そういうことをやってましたね。
いまじん:
もう少し大きくなってからの小学校とかで、なんか楽しかった記憶とかってありますか?
きのコ :
小学校になってからは、めちゃめちゃ本を読む子供でしたね。あんまり友達いなくて。友達がほしいとかもなくて。学校の図書室でひたすら本を読んで。
偏食が激しいから給食の時間に全部は食べきれなくて、でも食べ終わらないと昼休み外に遊びに行かせてもらえないから、ずっと教室で残って食べてるんだけど、本を読みながらもぐもぐしてて。
あと、小学生のときからお母さんの意向で、塾とか習い事とかめちゃめちゃ行っていたので、友達の家に行くとか、友達が家に来るみたいなのが少なくて。ひたすら本を読んでるか、ピアノとか水泳とか習字とか英会話とか、いろんな習い事をしているか、という感じでした。あとは塾に行ったり。
いまじん:
本はどんな本が好きでした?
きのコ :
エッセイが好きだったかな。結構辞書や辞典を読むのも好きで。漢和辞典や国語辞典とか、ことわざ辞典や四字熟語辞典とか、そういうのをひたすら読んだり。
あとは、ちっちゃい頃から公文式に通わされてたんですけど、公文式が出版してる俳句のカードとか、そういう教材を読んでた覚えがありますね。だから、なんとなく俳句やことわざがたくさん頭に入ったりとか。
漫画ってあんまり読ませてもらえなかったんで。それこそ手塚治虫とか、本当に昔のクラシックな大御所の漫画家の漫画ぐらいしか家になくて。歯科医院の方ではジャンプとかマーガレットみたいな漫画の週刊誌とか月刊誌もあったんですけど、そういうのずっと読んでると怒られちゃう家だったので、あんまり漫画は読まなくて。
小説もちっちゃい頃はあんまり読まなくて。中学生以降になってからかな。小説をたくさん読むようになったのは。
いまじん:
お気に入りの小説とかありますか?
きのコ :
夏目漱石めちゃくちゃ好きです。
いまじん:
どれが好きですか?
きのコ:
ちょっとマイナーなんですけど「夢十夜」って短編集があって。すごくファンタジックでミステリアスな、ヤマもオチもないような、不思議な小説が10編入ってるんですけど、それがめちゃくちゃ好き。何回読んだかわからないですね。夏目漱石、擬音語とか擬態語の使い方が独特なので、そこがすごく印象的で。古い文豪なんだけど、斬新な表現をするなって思いながら、読んでいました。
いまじん:
もうちょっと大きくなって高校生の頃とかは、どんなことが困ってたり好きだったりしましたか?
きのコ :
中学校になってから、割と人生が変わった気がするんですけど。小学校まで公立だったのが、中学校受験をして、私立の中高一貫の女子校に通うことになって。
その頃いわゆる性の目覚めっていうか、自分のセクシュアリティやジェンダーが人と違うってことにだんだん気がつき始めて。だから女子校っていう独特の均一性の高い世界がすごいしんどくて。中高一貫の女子校に通った6年間って、今でも自分の人生の黒歴史だった気がしてます。
みんな同じセーラー服着て同じような髪型して。女子校あるあるな、一緒にお弁当をグループ食べるとか教室移動するとかトイレ行くとか、あの謎行動が全然合わなくて。めっちゃ気持ち悪いなって思って、いつも勝手に1人でいた。1人でいると後ろ指さされて、あの子ちょっと変だよね、みたいな感じで言われて。しょうがないから本を読んだり、あと絵を描いたりしてました。
小学生の頃から絵を描くのがめちゃくちゃ好きだったんですけど、中学校ぐらいになってからは同人誌作ったり、展示即売会で売ったり。そういう、いわゆる今で言うオタクみたいな生活を、中高はしてたかなって思います。
一方で、自分はもしかしたら女性が好きなレズビアンなのかもしれないと思って、本をいろいろ読んで勉強したり。
でも一方で、同人誌を書いたり読んだりすると「BLの世界と男性同姓愛の世界って、何か違うよなー」みたいな感覚があって。BLってファンタジーな感じだけど「実際の男性同性愛者ってどういうふうに暮らしてるんだろう」みたいなことに興味をもって、いろいろ本を読んだりとか。LGBTとしての自分のマイノリティ性にいろいろ気づいたり。
あと、いろいろ同人活動するっていうのも、今から比べるとはるかにオタクに市民権がなかった。オタクとしていろいろ絵描いたり、同人誌とか読んだり買ったりするのもマイノリティで、あんまりカッコいい趣味ではなかったので。そういうマイノリティ性を感じながら過ごしてましたね。
そういういろいろなことがやっぱしんどかったし、変だよね、変わってるねってずっと言われてはいたんですけど、進学校だったので、そうは言っても勉強さえできれば何となくリスペクトされて。勉強は国語系がめちゃくちゃできたので、変わり者だけど一目置かれてるみたいな、謎の立ち位置にいた気がします。
いまじん:
LGBTQとしての自覚っていうのは、どういうところから芽生え始めたんですか?
きのコ :
中1のときから漫画や絵を描いてて、そしたら同じクラスにものすごい絵の上手い女の子がいて。その絵がすごく素敵で、その子を好きになっちゃって。結局、中高6年間ずっと好きだったんです。そういうときに「女性が好きってこの気持ちはマジョリティではないんだな」みたいな気はしてましたね。
そこは幸い、LGBTに関する本とか性教育系の『ぼくらのSEX』ってタイトルの本とか、そういうのが小5ぐらいのときからうちにあってお母さんが読ませてくれてたので。
早い時期から「LGBTってこういうものだ」とか「セックスってこういうことに注意してやるべきなんだ」みたいな知識を本で得られていたので、自分もそのLGBTの当事者なのかなって思ったときも、あんまり混乱はしなかった。「あ、本で読んだあれだ」みたいな。そういう感じはあったかなと思います。
いまじん:
最初の方で、ポリアモリーっていうことをおっしゃってたと思うんですけど、そこの考えに行き着くのは、やっぱり最初はそのLGBTQが始まりだったりしたんですか?
きのコ :
ポリアモリーって言葉を知ったのは18歳、大学1年生になってからだからもうちょっと後なんです。でもその言葉を知った後で自分の半生を振り返ってみると、そういえば小学生のときにも好きな人は何人かいたし、中学のときにも女の子を何人か好きみたいなことは確かにあったなと思って。
ポリアモリーって言葉を知らなかったから当時はわかんなかったけど、18歳になってポリアモリーという言葉を知って振り返ると、確かにそのポリアモラスな性質が自分の中にあったなってのは、後から実感しました。
いまじん:
そういう、いわゆるカテゴリーというか、名前がついているものだっていうのを知った瞬間ってどんな気持ちでしたか?
きのコ :
私は今、自分のセクシュアリティについて、パンセクシュアルだとかクワロマンティックだとか、いくつかのラベルが貼れるなって感覚でいるんですけど。自分がどういう属性の人を好きなのか、それは同性なのか異性なのかとか、そこに関してはあんまり悩まなかったというか。やっぱりちゃんとした本を小さい頃から読んでいたので「これがあの本で読んだ同性愛の世界の話か」みたいな感じで、自分がそれかもって思ってもびっくりはしなかったんです。
でもポリアモリーに関しては、別にそういう本が私の前にあったわけでもないし。自分の体験とか感覚とか実感が先にあって「これは何だろう」って困ってるところに後から言葉が来たので、ポリアモリーって言葉に出会ったときの衝撃というか「これだ!」と雷に打たれるような感じは強かったですね。
いまじん:
その衝撃って具体的に言う感情だとどういった気持ちになるんですか?
きのコ :
よく哲学とかの文脈で、エウレカ!って「見つけた」とか「分かった」みたいな表現をしますけど、その言葉がすごく当てはまるなと思って。「これだったんだ!」みたいな。
ポリアモリーって言葉を、18歳の時にWikipediaで見つけたんです。そのとき複数の人を好きになるって心の病気なんだろうかと悩んでいたので、ポリアモリーって言葉に出会って、本当に、エウレカ!みたいに「見つけた!これだったんだ!」って衝撃を受けたし、すごいって思ったんです。
でも次の瞬間「いや、でもこれはあまりにも理想的過ぎるし、高嶺の花というか、こういう生き方をできるはずがないよね。日本では無理だよね」みたいな気もして。見つけたけどそこにたどり着けるとは思えなかった。そういう感覚も同時にポリアモリーって概念に関してはあったので。ポリアモリーって言葉は見つけたけど、ポリアモリーができるとは当時は思えなくて、見つけたって感じをすぐ押し殺してしまったっていう現実がありました。
いまじん:
そこからこう本を書かれるとかっていうのは、どういったいきさつがあったんですか?
きのコ :
やっぱり一度はポリアモリーという概念に出会ったけど「いや、こういうのはやろうと思ってもできないことだから」って自分を押し殺してしまって。やっぱり「一対一で付き合って夫婦になるべきだ、なので自分を矯正しなきゃいけない」と思って10年間ぐらい頑張ったんですけど。結局複数人を好きになることを止められなかったし、好きになったら片思いで済ませることもできなくて。
でも別にいわゆるポリアモリーとしてちゃんとカミングアウトしたり、パートナーに説明するとか合意を得ることもできないから、結局コソコソ浮気をし続ける生活になってしまって。止められないんだけど楽しくてやってるわけじゃない。
そういう感じで、このようにしか生きられない自分がめちゃくちゃ嫌いでした。自分を治そうとしても矯正しようとしても、どうにもならない感じがあって。自分が嫌いなんだけど、嫌いになるようなことを自分でしながら、何かそれでも生きていくしかないみたいな感じ。それが10年間ぐらい続いたんですよね。
最終的に「結婚すればこういう自分を治せるに違いない」と思って結婚したんですけど、やっぱり不倫してしまう自分を止められなかったので、3回不倫したところで「もう無理」ってなって離婚したのが、28歳のときですね。
離婚したタイミングで、もうその18歳ときから28歳まで10年間経ってたので。もう、自分のことを嫌いなのとかやめたい、こんなのは嫌だって思いながら。浮気をするたびに、自分も、本命の相手も、浮気相手も傷つく。それを繰り返して人を傷つけたり自分が傷ついたりしながら、でもそれを止められなくて生きていくのはもう嫌だと思って。
「もうこういう生き方は嫌だな」って思ったときに、やっぱり10年前に知ったあのポリアモリーって生き方に挑戦するしかない!みたいな。背水の陣じゃないけど「もうこれしか生きる術がない、じゃなかったらもう死ぬしかない」みたいなところまで気持ち的に追い詰められて。
そっから割と、やけくそというか破れかぶれというか「もうどうなってもいい」みたいな。
いまじん:
うんうん。
きのコ :
離婚したことで、自分の中ではいわゆるマジョリティに擬態しながら生きていくって人生から転がり落ちた気がして。マジョリティになろうっていうのは無理なんだなって、思い知った10年間だった。
離婚したことで、ついにそれを諦めた感じもあったんですね。このまま、自分を直そうとか矯正しようみたいなものが「10年頑張って駄目だったんだからもう駄目でしょ」みたいな。それよりはそういう自分を許して、受け入れて生きて行く方がいい、1回しかない自分の人生だし。
たとえそういう自分をオープンにすることで、人から嫌われたり誰とも付き合えなくなったりとかしても。もしかしたら孤独死するんじゃないかなと思ったんですけど、そうなるとしてももう誰にも嘘をつかない人生の方が、せっかく生まれた人生だしもうそういうふうに死ぬ方がいいやみたいな。
そっからポリアモリーとして生きていきたいですっていうのを当時のパートナーにカミングアウトして、すごく喧嘩したり話し合いをしたりもあったんですけど。
離婚してからはポリアモリーとして生きているってことをオープンに発信して、同じような人を探して繋がってきてる感じですね。
いまじん:
どうですか?今の感情というか、お気持ち。
きのコ :
やっぱり離婚したときの終わった感というか「あ、もう詰んだわ」みたいな感じって、今思い出しても「大変だったなぁ、あのときの私」みたいな感じなんですけど。なんか今うまくいって楽しく生きられているので、今振り返ると「そんなに思いつめなくても大丈夫だったよな」みたいな気はする。
でも、あのとき破れかぶれで「もうどうなってもしょうがない」みたいに、自分がやけくそになれてよかった。当時の自分を振り返るとそう思ったりしますね。やけくそになったり、パーンって突き抜けちゃって、もうどうなってもいいみたいになることができなくて苦しんでる人もいっぱいいるなって思うので。
いまじん:
うんうん。
きのコ :
あのとき、やけくそになって。それで今のどうにかなってる人生があるなって思ったりします。
いまじん:
なるほど。
未来:ポリアモリーとかSM、Kinkyって文脈じゃなくても、趣味でも何でもいいんですけど、それについて自分で発信して仲間集めしてコミュニティを作れる人が、増えていったらいいなって
いまじん:
5年後10年後、最後自分が死ぬというところまで見据えた上で、きのコさんは未来はどうイメージされてますか?
きのコ :
未来だと、少なくともポリアモリーとかSMとかKinkyに関しては、だんだん認知度も上がってきてるし、オープンに語りやすい社会を作ってこられたかなぁという気はしていて。
でも、マイノリティが安心して自分のことを話したり、誰からも否定されずにパートナーを見つけるというのはまだまだ難しいので、そこはもっと簡単になるように頑張りたいなって思ってますね。
いまじん:
もしもの質問っていうのをしてるんですけど、もしもポリアモリーっていう概念がなかったら、どんな人生を歩んでるか聞いてみてもいいですか?
きのコ :
その言葉も概念もなかったら、その言葉をよりどころにここまで来れなかったってことだから、多分「私は浮気性なんだ」とか「心の病なんだ」と、自分を嫌いで居続けたと思う。複数の人を好きになったら、もう「浮気するか、我慢するか」の2択しかないって思い込んだまま生きていて。多分私の性格的に浮気をしないで我慢するってことができなくて、でも浮気したら必ずばれてしまう、ってことを繰り返して、人を傷つけて自分も傷ついて人間関係を破綻させるってことを繰り返していたと思う。
結婚生活も、私の場合1年半で離婚したんですけど、離婚した後に突き抜けたり、やけくそになって「自分のことをオープンにしてみよう」みたいな方向性には全然行けなかっただろうなって気はしますね。
多分離婚するところまでは同じルートだったと思うんですけど、その後も自分を嫌いで自分を責め続けて、もしかしたら死んじゃってたかもしれない。今みたいに自分を受容するとか受け入れるってところには全然たどり着かなかっただろうなって気はします。ポリアモリーの概念がなかったら今生きてる気がしないですね。
いまじん:
なんか近い将来、こういうことやってみたいなとかっていうのって持ってたりしますか?
きのコ :
近い将来なのかわからないけど…ポリアモリーにせよSMとかKinkyにせよ、そのことを発信したいとかコミュニティを作りたいとか仲間を集めたいと思ってる人って、少しずつ増えてきてるなと思っていて。そういう人たちが自分でコミュニティを作ったり、仲間集めをできるように、お手伝いをしていきたい。
別にポリアモリーとかSM、Kinkyって文脈じゃなくても、趣味でも何でもいいんですけど、それについて自分で発信して仲間集めしてコミュニティを作れる人が、増えていったらいいなって思います。
いまじん:
他に何かあったりしますか?
きのコ :
自分の中で、ポリアモリーとかSMとかKinkyって、人が最初はびっくりするようなテーマってところが面白いなと思っていて。LGBTというテーマ全体に比べると、ポリアモリーとかSMとかKinkyって、人によってはショックを受けるテーマだったりするので、その難しさを語る面白さもあるなって思ってます。
いまじん:
ちょっとお時間も近づいてきたんで最後なんですが、これを読む人へのメッセージでもいいですし、何か宣伝とかでも大丈夫ですし、ご自身のことで何か遺書のようなものでもいいので、最後に言い残したことがあればお願いします。
きのコ :
これを読んでくれる人に伝えたいこととしては、マイノリティ性をもたない人ってこの世に1人もいないということ。別にジェンダーやセクシュアリティがどうでも、LGBTやポリアモリーじゃなくても、病気や障害をもってる人とか、変わった趣味の人、変わった仕事の人とか、家庭環境がニッチな人とか、いろんな意味でみんなマイノリティ性をもっていると思っていて。
でもそのマイノリティ性が、本当に世界であなた1人きりってことは、ある意味ないと思うので。
で、そのマイノリティ性のもとに人と繋がることって、今はSNSやネットもあるし、昔よりずっとしやすいと思う。匿名性を保って自分を発信することも今はしやすくなってるので。「こういうのって自分だけじゃないかな」とか「人と違うな」とか、それが誇りなら全然いいんですけど、それで困ってるとか悩んでるとか、誰かに相談したいけど誰に言っていいのか…と思ったら、ネットの海にそれを放流していいんじゃないかって思いますね。そうすると、意外に同じような人が見つかって繋がって、仲間ができたりすることがあると思うので。
そういうときに、発信して自分で仲間を見つけてコミュニティを作るって、昔よりはるかにやりやすくなってるので、いろんな人にコミュニティ作りに挑戦してほしいなと思うし。もしコミュニティを作りたいけどどうやっていいか分からなかったら、私に相談してもらえたら、何かしらお手伝いはできるのかなと。声をかけてほしいなって思いました。
いまじん:
ありがとうございます。
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あとがき
ありのままの自分を生きるって、すごく素敵だけど、同時にものすごく勇気のいることだよな、と思ったりする。まずは、そういう自分を大切にしてくれる人たちの近くにいることが大事なのかな。
【インタビュー・あとがき:いまじん】
【編集:mii】
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