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演劇と人 空風ナギ-002 2023/10/25

このインタビューは、俳優空風ナギさんがブランクを経て俳優に復活する前後を追いかけた連続インタビュー企画です。全4回を予定しています。今回は、第2回になります。
前回。

このインタビューがどういうものになるのか、というのはインタビュアーの私qbc自身にも謎だったのですが、第一回をやってみるにつけ、なんとなく概観はつかめた感じがしておりまして。
「演劇と人」には、下記のような関係性があって、
 ・日常があって、日常の私がいて、非日常である演劇空間がある。
 ・日常の私は、非日常である演劇空間に入って、非日常の役割を演じる。
  ┗そして、日常の私自身も、非日常である演劇空間、役割を通して非日常を体験する。
  =「自分ではない自分でいられる」感覚を味わう。
この「自分ではない自分でいられる」感覚が重要なキーワードのように思っています。
まえがき:qbc(無名人インタビュー主催・作家)

冒頭

——前回のインタビューから何か変化はありましたか?

そうですね。
ちょっといろいろな変化が。
大学の方でも、他の生活の方でもありまして、何から言っていいのやらという感じもあるんですけども、でも健康には過ごせていると思います。はい。

9月から大学が始まったんですけども、そこから生活にだんだん慣れてきて、リズムが整うようになってきたなっていう感じはありますね。

あとはなんだろうな。全然演劇と関係ない話になるんですけど、「キングオブコント」見たり、「空気階段の踊り場」っていうラジオがあるんですけど、それを聴いたりして、ちょっと元気を取り戻してきたなという感じがあるので、前回のインタビューよりも、もしかしたらちょっと元気かもしれないです。はい。

——前回は元気じゃなかったんですか?

いや、元気がなかったわけじゃないんですけど、さらに元気になってきたような気がします。
後は、変化、なんだろう。

でも日によって、人って誰でもそうだと思うんですけども、日によって人格が変わるので、その場その場とか、その日の気分とかで人格が変わるので、何とも言えないですね。
今日だけちょっとインタビューだからテンションが上がってる可能性もありますね。はい。

虚実

——引越演劇は楽しかったですか?

引越演劇、楽しかったです。
こんなにゆるゆると演劇をやったのは、もしかしたら人生で初めてなのではないかというくらい、あの、緩い演技でした。

——上演時間はどれくらいだったんですか?

時間は、何時間だろう。ちょっと測っていなかったな。1時間ほどですかね。ちょっと間違っていたら申し訳ないです。
でも、1時間ほどだと思います。荷物を運んだり引っ越しをしたりする時間を含めて、1時間ほどだと思います。

——かんたんにで大丈夫なんですが、筋書きを教えていただいてもよいですか?

ちょっとネタバレを含むんですけれども、まず、ロミオがジュリエットを探していて、Dんの古いお家にあるバルコニーの上に、ジュリエットがいるのを見つけて、そこで愛の言葉を叫んだりするわけなんですね。

それでそこから夜逃げをしようという話になりまして、ロミオがバルコニーのお家にあがり、お客さんも一緒になってあがりました。
夜逃げなんですけども、荷物が多すぎるんですね、あまりにも。
そこでちょっとお客さんに協力してもらって、荷物を運んでもらおうという話になりました。Dさんの古いお家から新しいお家まで、20分ほど歩いて、荷物を運んでもらいます。
新しいお家に着いて、それでもう僕たちは幸せに生きていきますという感じで、ええ、ロミオとジュリエットはハッピーエンドになるかと思いきや、ロミオ殴られます、ジュリエットに。
殴られてロミオが倒れて、神父に起こされたロミオが立ちあがり、「ジュリエット?ジュリエット……!」と叫びながら、ジュリエットを探し求めて去っていくというお話でした。

それで観客もそれを眺めているという。はい。そういうお話でした。

——ナギさんがロミオだったんですよね。

はい、私がロミオです。パンダ🐼さんがジュリエットです。Dさんが神父です。
すみません、最初から神父さんは出ていました。最初に神父さんがお客さんに挨拶をしました。

荷物を運ぶお客さんですか。正確には足りてないんですけれども、大方の荷物を運ぶことはできました。
何人ほどだったかな。ちょっと人数が数えきれてなくても申し訳ないんですけど、10人ほどだと思います。

——ナギさんは2020年9月の公演以来、約3年の間、演技のお仕事をお休みされていて。11月に正式に俳優に復帰するということで、今回の引越演劇はその復帰前のプチ復活という位置づけだったということですが。
久しぶりの演技はいかがでしたか?

今回は役を作りこんでいたわけではなかったので、ものすごく思い詰めて演じるっていう感じではなかったんですけれども。
でも、パンダ🐼さんをジュリエットとして見て、ジュリエットを愛しているという気持ちで演じていましたね。

恋をしてるってすごく楽しい状態じゃないですか。
だから、とても楽しく演じられたと思います。

全体的にも楽しかったですね。ストーリー全体としては、お客さんが荷物を運んでくださったってことが、一番ストーリーとして良かったですし、面白かったですね。
お客さんが協力してくくださったっていう事実が、まずほんとに嬉しかったですね。
なんていうんでしょう、「どうしよう、荷物が多すぎて運べないよ……」ってロミオがなってたら、パンダ🐼ジュリエットさんが、ごにょごにょと私に話しかけてくださって、「この人たちが荷物を運んでくれるんだって!」「ええ!? ありがとうございます!」といった感じで、荷物を無理矢理運んでいただいたんですけども。

お客さん、全然嫌がらずに、皆さんニコニコとすごく協力し合って、Dさんのうちの荷物を運んくださって、行列して、みんな2列ぐらいになって、そのまま道路を歩い歩いて、Dさんのお家まで運ぶっていう。
その20分間の時間が、一番楽しかったですね。そこが一番楽しかったし、嬉しかったです。

——荷物を移動中も、芝居は継続しているんですか?

移動中の芝居はそのまま、神父さんは神父さんで、ロミオはロミオ、ジュリエットはジュリエットで、もうそのままの気持ちで演じながら移動するというような感じでしたね。

お客さんも、劇中の協力してくれてる人物の1人というふうに見なすので。
お客さんを劇世界に連れ込むっていうような形で演じていたので、芝居は継続したままだったと私は解釈しています。

——こういうパターンは、初めてですか?

こういうパターンは、いや、平原演劇祭という演劇企画に参加していた時は、なくはなかったんですけれども。
お客さんを道から道に誘導したりっていうのは、荷物を運んでもらってだとか、もうちょっと一段ハードルが高いようなことは、今回が初めてだったような気がしますね。

例えば2020年の2月に上演した平原演劇祭の「谷底演劇『野良犬』」という芝居だと、私が崖の下でまず演じてるんですけども、崖を上るっていう場面がありました。
そこから崖の上から観ていたお客さんを連れて長い道を移動するっていうのを、やりました。
他にも、お客さんを引き連れた演劇っていうパターンは、平原演劇祭では多かったとは思います。

——今回の引越演劇のお客さんは、どういう感じでしたか?

なんだか皆さん、ゆるゆると楽しんでいただいたような感じがありましたね。なんていうんでしょう、運んでいる最中はみんなニコニコ、「よし、運ぼうね!」っていうような感じで協力し合って運んでくださったんですけども。
終わった後のTwitter(X)の反応とか見てると、「ロミオとジュリエットを見に来たのに引っ越しの手伝いをすることになった」とか、「引っ越しを手伝ってきました」っていうような感想が結構多くて、演劇の感想っぽくないのが面白かったですね。
自分も体験したっていうような意識をお客さんも思ってくださっている方が多かったのが印象的でした。

お話に出てきた「谷底演劇『野良犬』」の動画です! 貴重映像だと思います!
前回のインタビュー記事でもご紹介しましたが、今度はフルバージョンで。

非・日常

——あらためて、プチ復帰の舞台は、いかがでしたか?

がっつり戻ったなっていう感じはしなかったですね。
なんだろう。自然と、すっと。
今回は、同人活動的演劇ごっこっていう感じだったので、一般の舞台だって気負わずにやっていたようなところもあったので。
でも、演じるっていう意識はそれでも持っていたかな。楽しく演じさせていただいたなというような感じではありました。

——演じる前の気分、直前の状態というのは、どうでしたか?

休止前の3年前とかだと、チョコラBBを二、三本は買って飲んで挑むっていうような、ちょっと戦いに行くっていうような気持ちでやることが多かったんですけども。
今回は、本当に開演10分前くらいになっても、Dさん、パンダ🐼さんと喋っていたりだとか、ゆるゆるとした気持ちでやっていた感じがありました。

それでちょっと、Dさんの方が先にお客さんの前に出ていって、パンダ🐼さんとまた喋って、どのタイミングで出ていくんだろうねとか、LINEで連絡したりとかとかそういう感じのことを話し合いながらやっていたので、なんかぬるっと始まってぬるっと終わったっていうような感じが。
何か、日常の地続きでいってやったというような感じがしましたね。

普段の野外劇だと、日常の延長にあるけども、日常の中にポツンと私という非日常がいる、というようなイメージですね。
今回もそれはあんまり変わらなかったような気がします。

日常の地続きにあるけども、でも非日常なものがある。
見ているお客様を、日常の地続きにある別世界へといざなうっていうような、ちょっと変わった演劇の面白いところかなと思います。
劇場の芝居だとこうはいかないと思います。

——野外劇と、劇場の芝居って、どちらがお好きなんですか。

野外劇の方が好きですね、断然。俳優のスタートは劇場でのお芝居なんですけども。

劇場での演技も好きではあるんですけれども、ちょっと緊張感が高かったりとか、あとはスポットライトの光も眩しかったりとか。演じる環境が違うんです。

劇場で演じるときは、お客さんへ声を響かせやすいという利点があります。野外劇は、風だったり雨だったり、演劇を阻害すると言っていいのかわからないんですけれども、演じる用の場所じゃないので、そもそも自然というのは。俳優にとってリスキーな中で演じるっていう、そういう環境に対抗していくっていう意味で、従来の劇場での演劇に比べて、気合いが入りやすいというか。
俳優の対抗意識が、刺激されるというか。そういった部分はあると思いますね。

——野外劇との出会いは、いつだったのでしょうか。

野外劇との出会いは、2018年6月に、平原演劇祭を始めて見まして。それが深夜の2時に開演する、無人駅での演劇だったんです。そこでソらと晴れ女さんという舞踏家がいるんですけども、この方の演技を見て、これはすごいものを観ていると感じましたね。
具体的に話すと、駅の中で、ちょっと暗黒舞踏的な、白塗りで白い服を着て、彼女が踊ってているんですけれども。
その状態が野外という空間に、自分の身体を開いているように私には見えたんです。

俳優の身体性というものにすごく惹かれて、野外で演じてみたらどうなるんだろう、と、わくわくしまして。
帰りに、平原演劇祭の主催の高野竜さんに、車で送っていただいたんですけども、その車の中で「自分も出してくれ」とお願いして。
そこから野外劇に出演するようになりましたね。

——なるほど。これまでに、何本くらい出られているんですか?

15本くらいだと思います。そんなにやってない可能性もあるんですけれども、気持ち的には15本くらいの気持ちです。

——野外劇と劇場の芝居って、どう違うんでしょうか?

そうですね。先ほど申し上げたことと重複するところがあるんですけれども。
野外劇は、とにかく雨だったり風だったり、外の車の救急車の音だったりとか、ノイズも多いし、俳優の体に対する負担も高くなるし、演じるには一見適さない環境だと思うんですね。

でもそうした環境等に対抗するというか、対抗というより対話といった方がいいかもしれませんね、過酷な環境と向き合って演劇をする、演技をすることで、俳優の力が引き出されていくものだと私は思っています。

一方で、劇場での演劇は、演じる用に作られた舞台の中で演じるので、観客にとって観やすくはあると思います。スポットライトもちゃんと当たっているし、客席も整っていて。野外だと、立ち見で見なくちゃいけなかったりするところもあると思うんですけれども。
私がひとつ、劇場での演劇に対しての不満があるとすると、ちょっと閉塞感を感じるなって思うところがあって。閉塞感という言葉が正しいかどうかはわからないんですけれども、ある種の緊張感だったり、閉ざされている感じが、劇場の弱点かなというふうに私は思っています。
そういったことから私を救ってくれたのが、野外劇だと思ってます。

——野外劇と劇場の芝居について、周囲の人たちとお話されたりはしますか?

いや、ないですね。いや、どうなんでしょうね。何気なく話したことはあるかもしれないんですけども。
でも、きっちりと野外劇と従来の劇場での演劇の違いについて話しあってみたことはないですね。

あと私は演じたことはないんですけれども、テント劇のような演劇、半野外劇的な演劇だとか。
私がやったことがあるものだと、古民家での演劇がそれに当てはまるような気がするんですけれども。何というか、ちょっと窓や障子を開けると、外の光だったり風が入ってくるだとか、テントだったらもうテントの幕が薄いので、音がすぐ近くで聞こえるとか。
そういった野外劇的な演劇っていうのも存在するので、そういうものも面白いかなとは思っていますね。

(リンク先でインスタのリール動画が見られます!)

——先ほどから、「俳優の環境に対抗する力」といった言葉を使われているのですが、それは、なんでしょうか。

何というか、なんでしょう。なんでしょうね。

例えばすごく無口で黙っていた子が、いきなり殴られて「痛いじゃねえかこの野郎」って叫ぶみたいな。そういう絵面が今、ちょっと浮かんだんですけども。

何か刺激されないと、引き出されないものっていうのがあると思うんですね。

言語化するのがとても難しいんですけれども、劇場にいるときとまた全然違う身体性が引き出されるってことは確かに言えると思うんですね。
雨にも負けず風にも負けずで、太陽の光にも石とか草とか木とか、そういったものにも全部負けず、そういったものと対話をするように演技をするっていうところで。

劇場にいると、劇場と、相手役と、観客と対話をするっていうことになると思うんですけれども。
野外演劇は、整った環境ではない分、対話をするものが増えるというか、自分が対抗しなくちゃいけないものが増えるので、その分エネルギーが引き出されるっていうようなところはあるかと、正直思ってます。

お客さんが観やすいかどうかとは、また別の話にはなってきちゃうんですけれども。
外で、例えば今回の引越演劇のように、ロミオのセリフをバルコニーに向かって言うシーンで、全然普通に風も吹いていたし、日の光も差していたんですけれども、そういった環境が、本物なんですよね。野外劇だと、そういうものが全部本物。
劇場だと、それが作り物です。だけど野外劇は、それが本物なので。本当の住宅地の中で、本物の場所でやるっていう部分での演じやすさが、違うなと思ってますね。

そういった本物、本当にあるものを用いてやるからこそ、俳優の力が引き出されるんじゃないかなと思っています。

——野外劇は、これからも続けられますか?

野外劇は好きなので、これからも続けていきたいですね。
でも室内でのお芝居も好きなので、室内で演じるという行為も続けていきたいなとは思っています。室内の方がお客さんが座って見られたりとか、セリフが聞こえやすい空間で演じられるので、そういった意味では室内の方が快適なのかなとは思いますね。

それから、野外は、自分が演劇をやる中での、強みの一つのようなものにはなってると思います。野外でこれだけ、滝に打たれて演じたとか、崖をよじ登って演じたとか、そういった経験は、私の強みにはなっていると思います。

これから私は、就職活動を続けたりだとか、就職したとして仕事があったりだとかして、ブランクができることもあるとは思うんですけれども、野外劇をずっと続けていきたいものだなとは思ってますね。

——え、就職するんですか?!

就職はしようと思っています。業界をまだ絞りきれていなくて、ちょっと今悩んでいる最中なんですけれども。障害者雇用で考えていまして、今のところ。
その方向でいろいろと会社を今見て、インターンの準備をしたりだとか、そういったことをしています。

——俳優一本の道ではないんですね。

考えてないですね。昔は、考えていました。今は考えていないです。

——就職はする。演劇も続ける。となると、兼業俳優ということですかね。

兼業ですね。例えば月曜日から金曜日まで働いて、土日だけ役者をやるとか。そういった生活になると思いますね。

——俳優一本は難しい?

難しいですね。ちょっと演じるとなると、すごくエネルギーを使うので。そこまでの覚悟が今の私には足りないような気はしますね。
ライフワークなので、演劇は続けていきたいとは思っています。

蛇足

——いやあ、そうですか。なるほど。演劇はナギさんから切り離せないんですね。
お芝居に出会われたのは、いつでしたっけ?

市民劇に最初に参加したのは、9歳の頃ですね。
知るのが遅れてたら、やってない可能性もあります。

何か別の、音楽だとか、漫画だとか。もっと夢中になれるものがあったら、そっちに進んでいた可能性も全然、ゼロではないなと思ってますね。
たまたま夢中になれるものが演劇だったということですね。

終わりに

日常の地続きにある、非日常の野外演劇。そこでは私は、「自分ではない自分でいられる」感覚を味わう。
無名人もこの感覚では、と思っています。
自分の現在過去未来を振り返ることによって、日常の自分にはない自分を発見するという非日常を味わう、と。
どうでしょうねー。引き続きインタビューロードを突き進んでいきますよ!

制作:qbc(無名人インタビュー主催・作家)

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