unknown.-誰も知らない答えを探してる-⑧-
自分「どうしてムスリムになったんですか?」
直球に質問した。
するとAさんはすぐに回答してくれたが、
それは、思いもよらないものだった。
A「ん〜今言葉で説明しても多分分からないし理解できないと思う。」
なんだこの回答。
逆に気になる。
自分「何か奇跡体験をしたとかですか?」
A「逆に聞くけど…」
そう言ってAさんは私に質問を投げかけてきた。
A「君は説明されて納得できる?」
自分「それは…」
確かに誰もが納得できる説明があるなら、
世界中の人が納得できるはずだし、
宗教が分かれること自体がおかしくなってしまう。
何も言えなくなっている自分の頭の中では、
今までの体験を思い起こしていた。
奇跡体験をしたと言ってきた人、
自分の親を親と疑わないように信じると言ってきた人、
聖書に書いてあるからと言ってきた人、
どの説明も自分には納得できなかったけど、
それでもその人たちにとっては納得ができている。
正直な話、
世の中の信者たちは深く考えずに人生の軸を、
どこかの宗教へ捧げてしまった安直な人が多いとも思うようになっていた。
ストレートに言えば、信者たちを馬鹿にしていた。
どうしてこんな不思議で有限で長く続く人生を、
そんなに気楽に扱うことができるのかと思ってしまっていた。
でもこの瞬間、なぜその考え方になってしまったことにも気付かされた。
自分は、世の中に何億人といる宗教の信者たちに対して、
いつからか嫉妬心を持つようになっていた。
自分がいつまで経っても納得できない人生最大の謎の答えを、
彼らは納得して信じて清々しく生きていることが羨ましいと思った。
悔しさが、嫉妬心へ変わり、妬むようになった。
私は、自分がいかに残念な人間になっているかを悟った。
あれ…?
私は暗い自分の足元一点を見つめながら、
急に鼻の奥に重さを感じ、目の前が曇り始めた。
自分「納得は…できないと思います。」
A「そうだろうね。」
Aさんは何かを察したように続けて話してくれた。
A「ムスリムの中にも大きく分けると2種類いるんだよ。」
自分「2種類ですか?」
A「そう、生まれつきムスリムだった人とあとからムスリムになった人。」
キリスト教にも確かにいた。
きっとどこの宗教にもいる。
A「つまり、自分がなぜそれを信じるのか考えずにその宗教になっている人は沢山いる。そういう人は、生まれた時から家族がムスリムだったから自分もムスリムだっていう人が特に多いね。そう考えると、君は宗教観のない日本に生まれ育って得してることがあるね。」
自分「得してるんですか?」
A「そうだよ、比較宗教ができる。日本の宗教観のなさって世界的に見たらかなり異質だよ。イスラム教だって改宗(宗教を変えること)を禁じられてるし、そういう宗教は少なくない。そんな中で自由にあちこちの宗教を回って、自分の知りたいように知れてるわけでしょ?そんなことができるなんてなかなかないよ。信仰の自由ってあると言われてるけど、比較宗教なんてなかなかできるもんじゃないし、実際にする人はもっと少ない。」
確かに。
自分は別にどこかの宗教に属したいわけではない。
ただ、納得のいく答えを知りたいだけ。
純粋なその気持ちだけをもって冒険をしている。
Aさんのおかげで自分がしてきたことは得なものだったと知った。
鼻の奥に感じていた重さはさらに重くなり、
涙がポロポロと溢れていたのに私は安心したように笑っていた。
なんだ、自分安堵してるじゃんか。
自分がしている冒険は面白いと思いつつも、
心のどこかで不安があったんじゃんか。
A「今度面白いところに連れてってあげるよ。」
私は、Aさんと次に会う約束をした。