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文章は「書き出し」で9割変わる

「マクラ」を持っているライターは強い──。

この一文を読んだ時に、「マクラって何?」「どういうこと?」「よくわからないけれど、知っておく必要がありそうだ」などと、いろいろな感想が頭に浮かびませんか? そして、後に続く文章を読みたくなりませんか?

じつは、これが今回、僕(安達)がお伝えしたいことです。

プロが「書き出し」に注力する理由

落語でもよく使われる「マクラ」という言葉。マクラとは、ご存知のとおり、本題に入る前になんとなく本題にリンクするようなことを述べる部分のこと。文章でいえば、「書き出し」にあたります。

プロは、この書き出しに非常にこだわります。読み手が興味を持ってくれるような言葉を選び、自分ごとと思ってもらえるような文章で書き出しをはじめることは鉄則です。

なぜなら、書き出しで読み手の心をつかめなければ、その後にどれほど素晴らしい内容の文章が続いていたとしても、読んでもらえる可能性はゼロだからです。

今は、いろいろな人がいろいろな情報を発信する時代。自分の持っている「時間」と、世間にあふれている「情報量」を天秤にかけた場合、圧倒的に「情報量」のほうが多すぎて、すべての情報をチェックする時間なんて全然足りません。

逆をいえば、僕たちは無意識のうちに、多くの情報を取捨選択して、その大半を捨てているのです。

ならば、よほど自分にとって必要だと思う情報でない限り、読み飛ばされても仕方がないと考えるのが自然でしょう。

「必要のない情報を読んでいる時間はない」。そんな読み手の状況を考えたら、書き手だって書き出しに工夫せずにはいられなくなるはずですよね。


スポーツ新聞の書き出しは読ませる文章の宝庫

では、多くの人が読みたくなるような書き出しは、どんなふうに書けばいいのでしょうか。

僕が編集者時代に先輩から教わったことに、「書き出し力をつけたいなら、スポーツ新聞を読むことだ」というものがあります。スポーツ新聞の記事は、多くの場合、「見出し」と「リード」「本文」という3つの要素で構成されています。

見出しでおおまかな内容をキャッチーに伝えつつ、リードの部分で本文を要約し、最後まで記事を読んでもらえるように興味をひかせる書き出しで本文となる文章が続いていく、という流れです。

僕たちが、見出しに惹かれ、つい最後まで読んでしまうような面白い記事は、決まって本文の書き出しも工夫して書かれているもの。

一般的な新聞よりエンタメ性の強いスポーツ新聞の書き出しは、より多くの読者に読まれる文章を書くうえで参考になることが多いのです。

これも一つの『田中効果』か。球界随一といわれる楽天投手陣の仕上がりの早さがキャンプ地で話題を呼んでいる。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の“失言癖”により、愛知県がとばっちりを食らっている。

これらは、とある日の東京スポーツ新聞から拾った書き出し部分です。どちらも、書き手が書きたいことというより、読み手の興味を優先させた書き出しになっていると思いませんか? 

こんなふうに、プロが工夫して書いている書き出しを研究するのも、読まれる文章を書くにあたって必ず力になることのひとつです。


名コラムの執筆者が考える「書き出しの三原則」とは?

1. 短い
2. 年月日から入らない
3. 会話文から入らない

これを「書き出しの三原則」としているのは、僕が何度も繰り返して読む本のうちの一冊、『「編集手帳」の文章術』の著者、竹内政明さんです。

この本では、読売新聞の看板コラム「編集手帳」の6代目執筆者である竹内さんが、名文の生まれる仕組みについて詳しく書いています。

ちなみに、この「書き出しの三原則」をクリアしている文章の好例として、作家の向田邦子さんのエッセイ集『眠る盃』(講談社文庫)から書き出しを紹介しています。

・仕事が忙しい時ほど旅行に行きたくなる。(「小さな旅」)
・いい年をして、いまだに宿題の夢を見る。(「父の風船」)
・一度だけだが、「正式」に痴漢に襲われたことがある。(「恩人」)

向田さんのこれらの書き出しについて、竹内さんは「身構えなくても自然に引き込まれていく文章」と評しています。でもこれって、新聞や文芸の世界だけでなく、僕たちにとっても大事なことだと思いませんか?

ということで、今日からSNSにアップする文章も、続きが読みたくなるような書き出しを心がけてみることをおすすめします。

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