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生物から見つかった変な名前の物質:オカダ酸

どうも、無名博士の墓です。
先日VOICEPEAK小春六花開発版の配布が始まりましたね。
私も試しにインストールしていろいろしゃべらせてみたのですが、「折角だし今までお蔵入りしていたネタで解説動画でも作ってみるか」という気になって勢いだけで作ったのがこのオカダ酸の動画です。

https://www.youtube.com/watch?v=Pq7k6fMtjz0

記憶喪失性貝毒の解説動画のネタ集めの際に色々知ってそのうちオカダ酸単体で動画にしてみたいなとぼんやりと思っていたまま月日が経過していたのでした。


因みに他にもジャマイカ嘔吐症の原因物質ヒポグリシンやフグ毒のテトロドトキシン、知られている中で最大の分子量を誇るマイトトキシンなども候補として考えていましたが、最終的に名前のインパクトがあるオカダ酸に落ち着きました。

完成させてからふと「第二回理工サイド交流際に出す動画としてキープしておくべきでは・・・・・・」という考えも頭をよぎりましたが、こちらはこちらで別のネタを考えてあるのと、ボイスピ六花製品版が出る前に投稿しておきたいなという思惑もあったので、とりあえずこれはこれで完成してすぐに投稿することにしました。

それにしてもボイスピの六花の声は明瞭といいますか、発音がしっかりしていてすごく聞き取りやすいですね。CeVIOAIのやわらかみ(?)のある声色もすごく好みなのですが、ボイスピ版にはボイスピ版の良さがあるなという感じです。

今後ももう少し調声を色々やってみて、より使いこなせるようになれたら良いなと思っています。

さて、今回は変な名前の物質紹介ということで、オカダ酸を紹介しました。いかにも日本人が関わって良そうな名前ですよね。岡田さんが発見したのかなと。ところが発見した論文の筆頭著者は橘さん(先生)で、共著者の中にも実は岡田さんはいません。

新種の生物の命名とかだと献名といって、採集してきた民間の愛好家の方やその道の第一人者の名前を敬意を表して献名するということは割とあるのですが、オカダ酸は献名によってこうなったわけではありません。

実はオカダ酸という物質はクロイソカイメンという本州や九州の岩礁、潮だまりなどに生息する海綿から単離されたのですが、このクロイソカイメンの学名がHalicondria okadaiであったことから種小名のokadaiからとってオカダ酸となったのです。じゃあなんでクロイソカイメンの種小名がokadaiなのかというと、こっちは献名となっていて、動物学者岡田弥一郎氏に因んでいるとされています。そういう意味ではオカダ酸もまた間接的に献名だったと言えなくもないですね。ただ、天然物の命名の場合は大抵単離された生物の学名に因んだ名前となることが多いですね。トリカブト属(Aconitus)から見つかった毒成分からアコニチンといった具合です。中には和名から来る化合物もあって、エノキから見つかったセスキテルペンにエノキポジンと命名された例もあります(これ日本人以外分からんだろ・・・・・・)。

因みにクロイソカイメンは様々な海洋天然物が見つかっている生物としても知られており、特に有名なのがハリコンドリンBという物質です。言わずもがな属名のHalicondriaに由来しています。
抗がん剤エリブリン(商品名ハラヴェン)のリード化合物ですね。

さて、オカダ酸に話を戻すと、この化合物は後にクロイソカイメン以外の生物からも見つかることになります。それがムール貝などの二枚貝からなのです。そして、このオカダ酸が下痢性貝毒の原因物質であることが知られるようになります。

下痢性貝毒は宮城県旧本吉町で1976年に最初に報告された貝毒です。のちに日本各地どころか欧州など国外でも確認される訳なのですが。症状は腹痛、下痢、嘔吐、吐き気などいかにも食中毒って感じなのですが、基本的に死に至ることはないようです。

実はオカダ酸はある種の渦鞭毛草などの藻類によっても作られています。そのため、オカダ酸を持つ藻類が増えすぎると、藻類を餌としているムール貝などにオカダ酸が蓄積してしまい、貝毒の原因となるわけです。

貝毒には他にも麻痺性貝毒や記憶喪失性貝毒などもあるのですが、後者については以前解説動画を出しているので是非観て行ってくれると嬉しいです。

因みに、クロイソカイメンもまたオカダ酸を作っているのはクロイソカイメン本体ではなく共生している微生物だとされています。一部文献では藻類と書かれていますが、クロイソカイメンにおけるオカダ酸生産者は私が調べた範囲だとまだ確定していないようで、割と最近共生微生物に着目した研究に関する文献が出ていたように記憶しています。また、ハリコンドリンBも同様に共生微生物こそが真の生産者ではないかと考えられているようです。

なお、下痢性貝毒については自治体が定期的に検査をしているので、最近では市販品で中毒になったという報告は内容です。潮干狩りとかする人は注意した方が良いかもしれませんけどね。

今回は以上です。他にもいくつかネタがあるので気が向いたらシリーズ化するかもしれませんし、しないかもしれません。今後ともよろしくお願いします。

参考文献
Yasumoto T., Oshima Y., Yamaguchi M., Occurrence of a New Type of Shellfish Poisoning in the Tohoku District., Nippon Suisan Gakkaishi, 44, 1249-1255 (1978)

Tachibana K., Scheuer P. J., Tsukitani Y., Kikuchi H., Engen D. V., Clardy J., Gopichand Y., and Schmitz. F. J., Okadaic acid, a cytotoxic polyether from two marine sponges of the genus Halichondria., J. Am. Chem. Soc. 103, 9, 2469-2417 (1981)

秋久俊博, 小池 一男ほか, 資源天然物化学改訂版, 共立出版 (2017)

村田 道雄, 安元 健, 下痢性貝毒の構造解析と微量分析, 油化学, 38 巻, 815-822 (1989)

厚生労働省, 自然毒のリスクプロファイル:二枚貝:下痢性貝毒, https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_10.html, 2023/06/25閲覧

Chem-Station, アコニチン (aconitine), https://www.chem-station.com/molecule/2013/11/aconitine.html, 2023/06/25閲覧

Hirata Y., Uemura D., Halichondrins - antitumor polyether macrolides from a marine sponge., Pure Appl. Chem., 58, 701-710 (1986)

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