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短編小説「愛の手紙」

口では伝えられないことを文にして相手に伝えるという手法を編み出した、誰かに「ありがとう」

僕は徹夜して記した愛の言葉を手に君のロッカーへ走った。贅沢だが、できれば君の笑顔が見たい。

錆びついて立て付けが悪くなった扉も今だけは愛おしく思える。周りに人気がないことを確認した僕は恐る恐る扉のノブに手をかけた。

ンギィィィィィィィィ!!!!!!

開いた。意外だった。鍵をかけ忘れたのか?
几帳面な性格だと思っていたが。
しかし、そんな考えも束の間、すぐにこのロッカーの異様性に気付いた。

どす黒い赤色で、なにやら落書きのように書き込まれた尋常でない量の紙が、無作為に詰め込まれており、その中に黒いゴミ袋でなにか包んだようなものが一つ。整理整頓が苦手な人ではなさそうなのに。

他人のロッカーを勝手に開けたうえに中身を漁るなんていけないこと。わかってはいるが好奇心に勝てなかった。そして心のどこかに確かめなきゃいけないという強い執念があった。

僕は黒いゴミ袋をゆっくりと開いた。その瞬間、呼吸が止まりかけた。袋の中からどす黒い血にまみれた青白い顔をした君が濁った目でこちらを覗いていたのだから。

しかし、君と目が合った瞬間に思い出した。
君に僕の愛が伝わらなかったってことを。


ー完ー

作者 : 脳溶け夫



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