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ライカとミノルタの結晶?MINOLTA MD ZOOM 35-70mm f3.5についての考察

MINOLTA MD ZOOM 35-70mm f3.5

ミノルタレンズを収集するとこのレンズを素通りすることはできないでしょう

言わずと知れたLeica VARIO-ELMAR-R 35-70mm f/3.5の兄弟レンズ
MINOLTA MD ZOOM ROKKOR 40-80mm f2.8の後継として登場したのが本レンズです

MINOLTA X-7と本レンズ

玉数も多く、安価、よくわからないけど、あのライカに認められたレンズなら凄いのかも?と私も早い段階で購入しました

ネット情報では「レンズ系はミノルタ、機構系はライカ設計」との情報を度々目にします
7群8枚 最小絞りf22 365g
最短撮影距離1m
1978年9月 当時価格66,800円

レンズ構成

当時は単焦点レンズが基本なので50mmを中心に広角側35mm望遠側70mmと3本分が1本で賄えるレンズで、当時1978〜1980年にかけ各メーカーから35-70mmマニュアルズームレンズが次々と販売されました

MINOLTAの35-70m f3.5は3種類、簡単に、
ロッコール銘の初期型(1978年)
ロッコール銘が無くなった2型(1981年)
マクロが付いた3型(1983年)で見分けます

左から初期型、2型、3型
初期型と2型の刻印位置
初期型だけ側面に刻印

外観上全く同じの様に見えますが、海外の比較サイトの評価では最終型の3型が一番シャープとの評価されています。

このレンズの欠点はなんと言っても1メートルという最短撮影距離です
3型だけ最短撮影距離0.8mでマクロ付きと欠点を克服しています
現在の市場価格も3型は他に比べ少し高いです

3型マクロボタンと刻印
左が初期型、右が2型
最少絞りロック
初期型
2型
3型

写真の通り、初期型と2型はグリーンとパープルのコーティングでMCレンズ群に見られるコーティング、3型のみシナバーとパープルでMDレンズ群の特徴のコーティングが施されています
2型、3型にはNewMDの特徴である、最少絞りロックと開放F値伝達ピンが装備されています

オールドマニュアルズームレンズについて

オールドマニュアルズームレンズはあまり人気のない分野です
コレは単焦点のキレイなボケや解像感に対して、過渡期のキットレンズやお手軽ズームレンズの描写がイマイチだった影響を受けているものと思料します当然古いズームレンズ推して知るべし、言わずもがな‥‥
私もMFズームレンズは守備範囲外でした
しかしコレは食わず嫌いで、この35-70/3.5を使用してからその印象は変わりました
シャープな写りでボケもキレイ、各収差も目立ちません。
何より当時の人気を裏付ける玉数の豊富さと安さ

先に述べたとおり、当時は単焦点レンズ基準なので、ズームレンズにも単焦点並の解像度や収差を求められ、当時の技術者はそれに迫る性能を満たすように苦労を重ねた様です

MC ZOOM ROKKOR 40-80mm f2.8
MINOLTA MD ZOOM 35-70mm f3.5(3型)
マニュアルズームレンズ

ライカと兄弟レンズの件

さて、ライカと兄弟レンズの話ですが、1959年誕生した初のズームレンズ“フォクトレンダーズーマー“は大きい上に性能が低く、ライツ社のトップたちはズームレンズそのものをユーザーに提供することは無いと判断しました

その後、日本メーカーはズームレンズを進化させ、ライツ社はこの分野で日本メーカーの後塵を拝することになります、また、カメラのシェアも一眼レフが普及し、世界的に日本メーカーが席巻することになりました

ライカのズームレンズは1969年フランスから供給を受けた“アンジェニューズーム(45~90mm F2.8)“とミノルタから供給を受けた“バリオ・エルマー(80~200mm F4.5)“から始まります。

当時ライツ社にはズームレンズの設計経験も、加工技術や設備もありませんでした。
低価格競争と一眼レフカメラ化という世界の潮流に乗り遅れたライツ社は業績が悪化し、その最先端を走る日本のカメラメーカーとの提携が必要と判断し提携先の模索を始めます
その結果ライツ社は1972年にミノルタと提携
技術相互提供、技術者の相互派遣、生産設備の相互利用による生産協力、新製品の共同開発が骨子の提携でした

ミノルタの黎明期はドイツ技術者に指導を受けて開業していたので田嶋社長を始め会社の首脳陣は恩返しができ、国内営業担当者もイメージアップになると乗り気でしたが、若い技術者や海外営業担当はなぜ今更ライカ?という反応だった様です(ミノルタかく戦えりより)

バリオエルマーR 35-70mm f3.5は1983年に登場したミノルタ製のE60型と1986年以降のライツ社製E67型があります
E60型、E67型とも最短撮影距離1mのままで終焉を迎えます
デザインを見るとミノルタの35-70/3.5の2型に似たデザインをしています

ネットには「光学系はミノルタ、機構系はライカ」等の情報を見受けられますが、この流布されている共同開発の情報には疑問符が付きます

一つ目の疑問は前述の通り、ライツ社はズームレンズについての技術力が後発だった点です
1962年には一眼レフ用のズームレンズを販売、1975年に“MC ZOOM ROKKOR 40-80mmf2.8“という複雑な機構を秘めたギアBOXを持つ独創的な変態レンズを製造販売していたミノルタの技術者が、次世代の主力となるであろう標準ズームレンズに、わざわざ当時のライツ社の機械技術を受け入れたという話には疑問が残ります

MC ZOOM ROKKOR 40-80mm f2.8

2つ目の疑問は発売時期ですミノルタの本レンズの発売は1978年、バリオ・エルマーRは1983年発売と約5年のズレがあります
共同開発したなら多少前後しても概ね同じ時期に発売するのではないかと思います
この約5年の間にミノルタは本レンズのバージョンアップを2度しており、最短撮影距離0.8m、マクロ付きという最大の欠点を解消した3型を登場させます

その最終型が登場した年にバリオエルマーR35-70/3.5が登場した訳です

ライツ社と提携時の話


さて、話は1972年提携開始時に開発していたライカCLの話に遡ります

ライツ社でほぼ完成に近い試作機が存在したライカCL、ミノルタの技術者はコレの量産を担う為に量産試作を繰り返し苦労の末、製造に至りました。
この時標準レンズを両者の競作で行われました。
ライツ社が2種類、ミノルタが1種類を設計し、ライツ社の1本が採用されました

提携発表の新聞記事には「ライツ社はミノルタで生産したカメラにレンズ等を組み込んでドイツ製として売る」という一文がありました

ライカCL

ライカM3ショック

更に遡ります

あるネット記事でライカジャパンの方が「カメラとして完成形のライカM3が出たことで日本のカメラメーカーはライカには追いつけないと諦め、一眼レフカメラに力を入れるようになった(※要約)」と説明していました

確かに、1954年のライカM3登場で、それまで「ライカに追いつけ」を目標に邁進していた国内各カメラメーカーは、圧倒的な完成度のそれを目にして、その後の舵取りの選択を迫られる事になりました『M3ショック』と称されています

当時の国内カメラメーカーはかなりの衝撃を受けた様ですが簡単に諦めた訳ではありません

真っ向勝負したニコン、結果的に普及機に活路を見出したキヤノン、同時期にクイックリターン付き一眼レフカメラ「アサヒフレックスⅡB」を発表した旭光学とそれぞれの道を進むことになります

ミノルタはどうかだったか?当然諦める訳無く、ライカM3に触発され開発を進め、高級レンジファインダーカメラの試作機ミノルタスカイを完成させました
これを売込みに田嶋社長自らアメリカに向かいました。飛行機が落ちてもカメラは守ると意気込んで渡米したのですが、現地でライカの終焉、一眼レフ時代の到来を聞きつけ帰国後、急遽スカイ発売を中止、並行して開発を進めていた一眼レフカメラ開発に注力したのです
その結果、完成したのがミノルタ(※正確には千代田光学精工)初の一眼レフカメラSR-2です

ミノルタスカイ
ミノルタ SR-2

レンズはミノルタ、機構はライカ?

どうでしょう?
この記事は当時ミノルタの技術者だった神尾健三氏の著書から情報を抽出しています

その中に当レンズに遠からず関係するであろう1976年に登場するライカR3の話があります

「この一眼レフ用の交換レンズについて相互乗り入れの会議が開かれ、このミノルタ担当者は直ぐに“ライツ社が欲しがるミノルタレンズは多々あったが、ミノルタがほしいレンズは殆ど無い“という現実に直面する
結局ミノルタのカタログに載ったライツ社製レンズは特殊レンズ2本だけ
そして、前述の通りライツ社にはズームレンズの設計経験、加工技術、施設が無く、ミノルタからのズームレンズ供給を望んだ(※要約)」
という話です

結論

当時の技術者の著書や当時のカメラ雑誌等の資料を探しても決定的な情報はありません

しかしながら、諸々の情報を集約するとライカCLの話と提携時の話、そして、それぞれの立場による見解の違いが本レンズにも影響したもので、発売時期等を鑑みれば、実際は設計、開発、製造、そのほとんどがミノルタだったのでは?と愚考します

引用元
神尾健三著
「めざすはライカ!」
「ミノルタかく戦えり」
朝日ソノラマ
「クラシックカメラ専科No12ミノルタカメラのすべて」
枻出版社
「マニュアルカメラシリーズ15ミノルタカメラのすべて」

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