大学授業一歩前(第1講)
はじめに
記念すべき第一回目の記事は明治大学経営学部中澤教授のインタビューとなります。ご協力ありがとうございました。それではさっそく授業一歩前の始まりです!!
プロフィール
中澤高志(なかざわ たかし)
経営学部・文学研究科専任教授
専門:経済地理学、都市社会地理学
経歴
2005年4月~2010年3月:大分大学経済学部
2005年4月~現在:明治大学経営学部
現在の担当科目
地理学A・B、経済地理学A・B、住まいと仕事の地理学、フィールドスタディA・B、演習Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ、大学院文学研究科、経営学研究科の科目
学生におすすめの過ごし方
図書館も、大きな書店も空いていないので事実上難しいのですが、いろんな本を眺めながら、本当に自分が興味を持っていること(アカデミックな意味で)を見つけてもらうのが理想です。そうした分野が見つかったなら、とりあえず定評のある本をじっくり読んでみてください。必ずメモを取りながら。あとは外を歩いたり走ったりすることですね。体を鍛えることにもなるし、目に飛び込んでくる景色から何を学べるかも地理学的なセンスによります。
授業開始までに習得しておいてほしい能力
スマホしか使っていない人に関しては、必ずキーボードを使った入力ができるようにしておくことです。オンライン授業では、これまで以上に課題が多くなるので、これができないと困ります。あとはノートやメモを取る能力です。高校の先生は、わかりやすく教えるプロですので、板書をそのまま書き写せばノートになります。一方、大学での講義はパワーポイントを使う先生が多いです。その内容をすべてを書き写すことは事実上不可能です。そのため要点を要領よくまとめられる能力が必要です。だから、本を読むときもメモを取りながら読んでほしいのです。
先生にとっての学ぶ意義
私は学問は何よりも自分のためにするものだと思っています。地理学という学問をしている関係上、地理学者は多くの場合フィールドとしている地域とのかかわりを持つことになります。そのため、自分は地域のために研究をしているのだという研究者もいます。確かに、研究を通じて地域に貢献できる部分もありますが、私たち研究者が地域から学ばせてもらうことの方がはるかに多いです。そして、フィールドとなっている地域での調査に基づいて学術論文などを執筆した場合、それはすべて研究者の業績になります。
地理学者の中には地域政策の策定など、国の仕事に関わっている人も少なからずいます。そうした人が、強い誇りを持ってそうした仕事に携わるのは結構ですが、直接社会のため、国のためになることを学問の最大の意義であり、社会や国への貢献度によって学問を序列付けするのは違うのではないかと思います。社会や国家への貢献を志向して学問を進めていくと、いつの間にか学問が社会や国家に従属していくことになります。戦前の地理学者の中には、まさにそのようにして戦争に積極的に加担したのです.
自然科学の分野においてはリチウムイオンバッテリーの開発のように、社会の多くの人に恩恵を与える研究成果もありますが、人文地理学や経済地理学をはじめとする人文社会科学は、よりよい社会の実現に直接携わる政治や行政や、より多くの利潤を追求する企業活動とイコールではありません。そのような直接的な効用を実感したい人は、研究者ではなく、政治家や官僚、経営者になるべきです.
人文社会科学の研究は、人間やそれを取り巻く世界・社会・環境について、もっと「知りたい」という好奇心に導かれてするものです。そういう好奇心を持った人々が、究極的には自分のためだけれど、独善的にではなく、他者とコミュニケーションをしながら発展させてきたものです。それなしにも生物としては生きられるけれど、それがあって初めて文化的な暮らしを送ることができる,それが学問の意義だと思います。
別の観点から書いたものは、以下にあります。
https://www.meiji.net/career/vol227_takashi-nakazawa
今だからこそ読んでおいてほしい一冊
柄谷行人(2006):『世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて』岩波新書
中澤高志(2019):『住まいと仕事の地理学』旬報社。以上の二冊がおすすめの本になります。
学生に向けてのメッセージ
物事には、なんでもいい面・悪い面があります。新型コロナウィルスのせいで窮屈ですが、元来机に向かって読んだり書いたりするのが好きな私にとって、まんざらではありません。皆さんも、降ってわいた時間を有効に使ってください。
おわりに
大変忙しい中の記事作成ご協力ありがとうございました。この場を借りて重ねてお礼申し上げます。私も地理学には興味があり何冊か入門書を読みましたが、高校の時の暗記重視の地理とは違う、思考をする地理学でとても面白かったです。地域間の経済格差や、都市の一極集中などに興味がある方にはピッタリの学問だと思います。次回はどんな学問の授業一歩前か楽しみにしていてください。明治大学では先生方のインタビューは公式でも行っています。https://www.meiji.net/