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一瞬の最高の喜びを求めて

 1月2日、3日に行われる箱根駅伝は日本のお正月の風物詩である。そんな大学スポーツの花形競技である駅伝において、テレビに映る選手は汗も美しく見えるほど輝いて見えるが、その裏には1年間を通して泥臭く選手を支え続けるマネージャーの存在がある。
そこで『スポットライト』第6回は、今年箱根駅伝で6位の結果を残し2年後の第100回大会で優勝を目指す白地に赤の「C」伝統の中央大学で、マネージャーとして陰ながら選手を支える河野鼓太郎さんに取材を行なった。

プロフィール
河野鼓太郎
かわのこたろう。20歳。中高は陸上部に選手として在籍。箱根駅伝に関わりたいという強い想いから中央大学へ進学し、念願の駅伝部にマネージャーとして入部する。

男マネの役割

中央大学駅伝部に現在、男子マネージャー(以下、男マネ)は4人在籍しており選手と共に寮生活を送っている。業務内容は試合、練習の準備やお金の管理などの事務作業だけでなく、選手のコンディションを把握するなどの総合的なケアも行なっている。
当然、選手は監督には見せない顔を持っているが、男マネは衣食住を選手と共にするため選手の監督にも見せない些細な変化に気づくことができる。よって男マネが常に選手のコンディションを観察し監督に伝達することで、選手が無理をしない選択を促すことができる。例えば「実はあの選手は朝ごはん食べられておらず、あまり調子が良くない。」「彼は裏でこんな努力をやっている。」など監督の目が届かないところを男マネが把握し伝達している。また、監督から特定の選手のコンディションを聞かれたり、うまくいない選手に対して励ましてくれといった要望が与えられたりもする。つまり、男マネは選手と監督とのパイプ役を担っている。
この役割の最も大切なことは選手と監督、それぞれとの信頼関係である。したがって情報を伝えなさ過ぎてもいけないが、ありのまま伝えない方が良いときもあり、その見極めをとても慎重に行なっていると河野さんは話す。陸上以外のプライベートでの関係性もこの役割には欠かせないものであり、まさに24時間マネージャー生活を送っている。

マネージャー生活での苦労

実際、男マネの生活は「想像以上に大変だった。」と話す。テレビに映るキラキラした箱根駅伝はほんの一部でしかなく、大部分はきつく、泥臭さいのが駅伝部の実態である。2年後の100回大会での優勝を目標に掲げており、ここ最近優勝から遠ざかっていることもあり、偉大なOBたちの期待も大きい。よって選手だけでなくスタッフに求められる基準も非常に高まっており、迅速かつ丁寧でハイクオリティな業務が常に求められている。そして、業務だけでなく人間関係の難しさもついてまわる。さらに、まとまった休みはなく一般的な大学生のように街に出て遊ぶこともできない。
これだけ見ても男マネの生活がきついこと、苦しいことばかりであると伺える。しかし「どんなに辛くても頑張れるのは、一緒に頑張ってきた仲間が結果を出した瞬間が何にも変えられない最高の喜びがあるからだ。」と話す。この並々ならぬ中大駅伝部への想いの背景には、「挫折」と「運命」がある。

中大駅伝部のマネージャーを目指すきっかけ

中高時代は選手として日々練習に励んでいたが大きな結果を残すことはできなかった。中学ではチームが全国大会の出場を決めた時、メンバーから外れてしまった。しかしその時、監督から「選手を支える側に回ってくれ」という一言が河野さんの人生を一変させた。その当時は選手として結果が残せない悔しさもあったがチームのために覚悟を決めて裏方を引き受けた。そして、いざマネージャーという仕事をやってみるとその役割の重大さや面白さに気づいた。「自分の実力では届かなかった高みの景色を自分がサポートした仲間が見させてくれることにやりがいや楽しさを感じられた。」この経験が今、マネージャーとして高みを目指す原動力となっているのだろう。
そしてマネージャーとして、夢の「箱根」を目指すためにシードを取り続け優勝を狙える学校の中で進学する大学を迷っていた。そんな時、今の中大駅伝部の監督が、河野さんが中学校の時の陸上大会に来て「一緒に頑張ろう!」と声をかけてくれた藤原正和さんだったことに気づき、その運命を信じて中央大学に進学をすることを決めた。

 中大への思い

河野さんにとって中大駅伝部は憧れの場所であり、今この環境で努力できていることがとても幸せなことだと話す。「こんなにも厳しく高みを目指せる大学は全国を見渡しても数えるほどしかおらず、さらに下からのし上がる楽しさはこの中央大学でしか味わえず最高に刺激のある環境で生活を送れている。」
来年は頼れる先輩が引退しチームの要である最高学年になる。河野さんはキャプテンと対になってチームの牽引できる存在を目指している。そのために今、同期だけでなく後輩や大人のスタッフともこまめなコミュニケーションをとる努力を行なっている。
 
今年は3位、来年は優勝、その後も優勝争いに絡む中大の黄金期を作る上で今が非常に重要な時期であると河野さんは感じている。そのためにマネージャーとして、自分ができる最大限のことを日々考え実践をしている。

おわりに

本企画第6回にして初めてサッカー以外のチームにインタビューを行った。競技は違えど、そこに夢を抱き熱く取り組んでいる姿勢は全く同じであるように感じた。しかし勝利に対するアプローチの方法には大きく違いが見られ、サッカー部として吸収できることが多くあった。よってこれを機に今後さらに互いのチームに良い刺激を与え合えるような関係性を築いていきたい。
 
(取材・文=橋本泰知)

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