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バラバラだけど芯がある。生命体的組織のつくりかたを『ティール組織』解説者・嘉村賢州とUnityで考えた

2018年1月。英治出版から一冊の書籍が刊行され、経営者やビジネスパーソンに大きな衝撃を与えました。

フレデリック・ラルーの『ティール組織──マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』。著者による膨大な事例の調査・分析を通じた組織マネジメントの提唱は、人類と同じく組織にも進化の段階があることを発見し、その発達段階や変遷を「色の波長」で表現した点が特徴的でした。

また、「進化型(=ティール)組織」という進化の段階が世界各地で現れ始めていることにも言及。ティール組織による成功事例が紹介され、世界17カ国で60万部以上が発行されるほどの人気書籍になりました。

実はUnity Japan社内でも『ティール組織』を読んだスタッフの間で、内容について多くの意見交換をしました。

Unityは創立後、「ゲーム開発の民主化」というパーパスを社内外で共有しながら、世界中の開発者コミュニティと密接にゲームエンジンを開発してきました。現在ではゲーム以外の分野でも活用が進んでいますが、クリエイターやユーザーコミュニティを大切にする組織風土に変わりはありません。

そうした背景もあり、私たちは『ティール組織』の内容に深く共鳴し、どういった考えで企業活動をすべきか、コミュニティといかに寄り添っていくべきかを議論する際に参照することもありました。

そして今回、ティール組織の観点から改めてUnityを見つめることで、コミュニティのさらなる発展に向けた示唆を得られるかもしれない──そんな仮説から、この研究の第一人者であり、『ティール組織』の解説者も務めた嘉村賢州さんにお話をうかがいました。聞き手はUnity Japanの小林信行がつとめます。

たどり着いたキーワードは“生命体型組織”。その思想を正しく受容し、パーパスを基軸に柔軟に発展していくあり方とは?


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嘉村 賢州

場づくりの専門集団NPO法人「場とつながりラボhome’s vi」代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、『ティール組織』(英治出版)解説者、コクリ!プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。最近では自律的な組織進化を支援する可視化&対話促進ツール「Team Journey Supporter」を株式会社ガイアックス、英治出版株式会社と共同開発。2020年初夏にサービスをローンチした。


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聞き手:小林信行
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社
デベロッパー アドボケイト

元々は大学院での計量経済学の研究から「コンテンツ制作におけるクリエイターの生産性(=ゼロからモノを産み出す能力)」に興味を覚え、アニメスタジオやゲームスタジオに参加し、企画提案およびそのディレクションを担当。その後、Unityの「ゲーム開発の民主化」に感化され、2012年にユニティ・テクノロジーズ・ジャパン入社。コミュニティエバンジェリストして、日本のUnityユーザーコミュニティの成長に携わるとともに、現在はデベロッパー アドボケイトとしてUnityを活用した日本のアニメ表現・ワークフローの研究・開発に従事。


利益よりも、まずはパーパス優先で運営

小林 嘉村さん、はじめまして。突然にもかかわらず、ご快諾ありがとうございます。

嘉村 いえいえ、お声がけ光栄です。実は学生時代、趣味でゲームを作っていたことがありまして。ゲームエンジンを開発するUnityさんのお話を聞く機会をいただけて、感慨深いです。

小林 そうでしたか! それは何よりです。

嘉村 でも、Unityさんがなぜ僕に? ゲーム制作をかじっていたとはいえ、今やたまにストレス解消にスマホゲームをいじるくらいで、ゲームの話なんてできる気がしません(笑)。

小林 一言でいえば、嘉村さんが解説された『ティール組織』に感銘を受けたからです。Unityは「ゲーム開発の民主化」をキーワードに、2005年の創設以降、誰もがオープンに使えるゲーム開発環境を提供してきました。2011年には日本法人も立ち上げ、現在では国内5,000〜10,000人クラスのユーザーコミュニティを運営しています。

嘉村 とても大規模ですね。どのように運営されているのか、気になってきました。

小林 Unityは、まずコミュニティの人たちの満足度を第一に考えています。だからこそ、Untiyの利用に関しても最初はとにかく無料で、いきなり利益を生もうとはしません。しっかりと価値を提供していけば、利益は後からついてくるからです。

嘉村 純粋な好奇心のある人が集まって化学反応を起こしていくうちに、経済としても回っていくと。共感した人たちのムーブメントで広がっていったようなイメージでしょうか?

小林 まさにその考え方で開発・運営を進めてきた中で、『ティール組織』に出会いました。読んでみると、「Unityのコミュニティに通ずるのではないか?」と感銘を受けました。「ゲーム開発の民主化」というパーパスに向かって運営するコミュニティのあり方が、企業の「存在目的」に耳を傾けることを重視するティール組織に重なったんです。

嘉村 なるほど!

小林 そこで、嘉村さんにUnityの現状を共有しながら、コミュニティと共にいかにしてパーパスを達成していくのか、そしてつながりの中でいかにしてパーパスを共有していくのか、といったことをお話してみたいと思ったわけです。こうした動きがUnity以外にも増えていくことで、教育や人材育成などにも変化が生じ、新たな社会像が浮かび上がってくるのではないかという期待もあります。

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※今回、嘉村さんとお話した内容をグラフィックレコーディングでまとめていただきました。一つひとつのトピックについて、下記の対談で深堀りしていきますが、概略図としてお役立てください。


ティール組織の源流は、オープンソースにあり?

小林 Unityのユーザーコミュニティの特徴を紹介しますね。まず面白いのは、開発しているコンテンツはさまざまでも、開発エンジンの基本構造に共通要素が多いので、「何を作っているのか」を話さずとも技術の話がふんだんにできる点。一般にはIPの制約上、ゲーム開発者同士が進行中のプロジェクトを話すのは難しい。しかし、Unityなら技術にフォーカスして話せるので、知を蓄積するエコシステムとしてコミュニティが機能しやすいんです。

嘉村 なるほど。オープンソースコミュニティやQ&Aサイト、Wikiの共同編集などとも共通点がありそうですね。

小林 まさに。Unityのユーザーさんも、ウェブ上の掲示板やSlackのようなコミュニケーションツール上で質問しあったり、YouTubeやTwitter、ブログ記事などで情報を共有しあっています。

嘉村 ティール組織の発展は、そうしたインターネットの自立分散エコシステムを、人間社会に逆輸入した側面もあります。その意味でも、Unityのコミュニティは相通じそうです。

小林 最近、アニメ会社の人たちと「優れたクリエイターの属人的な技術をいかにして残していくか」という議論をしました。そのとき思ったのが、そもそもコンピューターが人間の脳を外部化する装置だとするならば、ソフトウェアは人間のワークフロー、つまり仕事のやり方を外部化するものではないかということ。

そして、本来は死んでしまったら消えてしまう資産がソフトウェアとして集まってくると、「仕事のやり方の管理」という目的のためだけに、「人そのもの」を管理する必要がなくなる。そうした基盤があると、ティール組織のような自立分散的な組織が生まれやすいのかもしれないと、嘉村さんの話をうかがっていて思いました。

嘉村 アカデミックの世界でもよく「巨人の肩に乗る」と言われますが、先人がつくった叡智を論文という型にはめて記述するからこそ、そのエビデンスを使って自分の論を発展させていくことができます。クリエイティブの世界でも、できるだけ開発者を尊重しながら、クリエイティブ・コモンズで発展させていくという流れがありますよね。

それらと同様なことが、ソフトウェアの世界でも言えるのかもしれません。囲い込むのではなくオープンにすることで、それぞれがより創造的に良さを発揮できる文化につながっていったら、とても素敵ですね。


入社初日から「わたしたち」感が備わっている

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小林 ただ、ベースが自律分散的であるがゆえに、偏りが生まれてしまう難しさもあります。Unity社内においても個々のメンバーの興味・関心に沿って、ユーザーが直面している課題解決に取り組んでいくかたちをとりますが、そうなると「面白い課題」につい目が向けられがちです。

嘉村 難しい問題ですね。

小林 だからこそUnityでは「けなすよりも褒める」文化を大切にしているんです。必要な仕事をしっかりと進めてくれる人たちを評価するために、とにかく褒めます。

単純な例だと、担当が割り振られていないちょっとした雑務でも、それらを進んで担ってくれるメンバーがいるからこそ全員の仕事が円滑に進みますし、そういうメンバーをきちんと評価すべきと考えています。

嘉村 基本的には興味・関心に沿うはずが、なぜ分業が自然と成り立っているのでしょう?

小林 おそらく社員のほとんどが、ユーザーコミュニティ出身である点は大きいと思います。ユーザーコミュニティを維持し、発展させていくためには、たくさんの作業が必要となります。Unity自体の技術を改善していくような作業もあれば、ユーザーイベントの企画・運営もあります。

各々のユーザーコミュニティへの向き合い方の方法論は違いますが、「Unityユーザーのためになることをしよう」という意志は共通しています。それらの活動を通じて、みんなで協力して目標を達成し、その成果を喜び合う文化が生まれます。そうした経験を持っているがゆえに、みんな入社初日から自然と補いあえているのでしょう。

嘉村 それは重要ですよね。ティール組織的にいえば、ちゃんと「生命体」の一部として、会社に入ってくる。初めから「わたしたち」感がある状態で、組織が成り立っているともいえます。単純に「スキルをお金に換えよう」というモチベーションだけで入社してしまうと、個人主義的になってしまい、「その仕事はやりたくない」という不満がたくさん起こる。対して、「稼ぎに行く」ではなく、コミュニティやムーブメントに共感して動き、それが仕事になっていく流れであれば、生命体的な組織になりやすい。

小林 たしかに、言われてみればそうかもしれません。

嘉村 『ティール組織』でも中心的に取り上げられている、オランダ発の訪問看護企業・ビュートゾルフも、「高齢者や障がい者の人生を応援したい」という一心で集まった人たちで構成されています。だからこそ、性善説に則った必要最小限のルールしかなく、現場で自由に意思決定しながら調和が取れる、生命体的な組織になっている。Unityもそれと類似しているなと感じました。

小林 Unityには「コミュニティを基盤として、それを維持するための組織が必要だから発生させている」という考え方が通底しています。生命体的な集団は、そうした考え方から生まれると思うんです。そして、自己組織化的な動きは、デジタル技術やSNSを中心とするバーチャルコミュニティとも相性が良いですね。


安心感のために「生産的に問題を解決するメカニズム」を備える

嘉村 ただ、生命体的な組織であっても、異なる性質の人が集まっている事実に変わりはないので、何らかのガイドラインや紛争解決のメカニズムは必要ですよね。「悪口は言わないようにする」「人が頑張ったことに怒鳴りつけたりしない」「対立したときに政治力や数の論理による排除が働かないようにする」……そういった生産的に問題を解決するメカニズムがあってこそ、安心感を持ってぶつかれる。ティール組織でも、大きめの規模になってくると、そうしたガイドラインの整備がきちんとなされているケースが多いです。

小林 Unityは外資系企業ですし、そのあたりはしっかりしていると感じます。ハラスメントはもちろん発生させないに越したことはないのですが、人と人が一緒にいる限りあり得ることなのだ、という前提で制度が設計されている。たとえば、セクシュアルハラスメントの講習を受けることが義務になっていますし、不正をしていない旨を示す誓約書を四半期に一度は出さなければいけません。

嘉村 紛争まで行かずとも、方向性の対立が起こったり、ばらばらになったりすることもありますよね。その際、意思決定の拠り所となる委員会などはあるのでしょうか? それとも、自然に解決するのを待つ?

小林 はい、社内にはトラブルなどを相談する専門の窓口が用意されていますし、問題によっては解決のために議論の場が設定されます。その議論はSlackのチャンネルや社内のタウンホールミーティングでも共有され、さらなる質疑が行えるようにしています。

嘉村 なるほど。

小林 これも、Unityがティール組織と通ずると思ったポイントなんです。『ティール組織』では、ティール型組織にしばしば見られる制度として、「誰も座らない椅子」が挙げられていますよね。会議に際して、「会社の存在理由」を代表する椅子として、空席を用意していることを示すメタファーです。

これ、Unityの中では当たり前に実践されておりまして。運営メンバーで何かを決めるときは、常に「それはユーザーのためになるの?」という議論が起こります。海外のボードメンバーや社長ですら、何かあったときはユーザー代表としての私たちに相談することも珍しくありません。中長期的に見て、Unityとして向かうべき方向へ進んでいるのか。いつもそこへ立ち返って意思決定がなされ、そのためには意見や説明を厭わない文化があります。

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嘉村 やはり、ゆるやかな方向性のようなものがあるんですね。それはティール組織においても大事です。よく誤解されているのが、ティール組織は階層構造やルールが一切ない、完全に自立分散のフルフラットな組織だといわれることです。

そうではなく、ティール組織は生命体型組織。生命体が果たすべき何かしらの目的や意義、方向性がある。自立分散だからといって、数の力学に任せることはしないのです。


生命体的な組織には「失敗」の概念がない

小林 ただ、パーパスに駆動され、常にユーザーの課題解決に立ち返るかたちでのコミュニティ運営には、弱点もあります。たとえば、ユーザーのみなさんが抱えている問題を表に出さなくなってしまうと、どこに向かえばいいのかが見えづらくなってしまう。コロナ禍以降、直接お会いする機会が減ってしまったので、イベントでの雑談から課題を見つける機会がなくなってしまい、少し困っていますね。

さらに、Unityの価値観や文化をそこまで知らない方に使っていただくシーンもあり、そこではかなりの難しさが生じます。たとえば、会社としてUnityを導入した場合、もともとUnityを知らず、まったく違った価値観を持った人も使うことになる。当然、上から押し付けられたり、使う意義がわからなかったりする状態では成果が出づらい。異なる価値観を持つ人に、問題意識を持って積極的に、楽しんでUnityを使ってもらうためには、どうすればいいのでしょうか?

嘉村 ユーザーの中で使い方に温度差が出てしまう、という話ですね。これはティール組織においてもよく起こる問題です。たとえば、『ティール組織』を読んで感動した経営者が、現場に「ティール的な改革をしてくれ」と指示を出し、その進め方を相談されることがあります。でも、本来はティール組織の作り方に答えなんてなくて、目指すべき姿に向かって実験をしていったら、勝手に収まるところに収まっていくのが本義です。「どうすれば間違いなくティールに進化できるんですか?」と聞かれても、試行錯誤や失敗なしにティール的な進化なんて起こらないので、話が噛み合わない。

Unityにしても、既存のパラダイムの人たちと、新しいやり方をしている人たちの差異を埋めるためには、とにかく丁寧に説明していくしかありません。もしくは、極端な話、Unityの価値観を理解した人しかユーザーになれませんという線引きをしてしまうやり方もありえます。

小林 なるほど。ティール組織の「失敗を恐れるな」という考え方は、Unityの発想にも近いと感じました。「こうやったらうまくいった」「こうやったら失敗した」「どうすればうまくいくだろう」といった繰り返し、イテレーションの過程が、実は一番楽しい。そうしたトライアンドエラーの楽しさを伝えるところから、はじめなければいけないのかもしれません。たとえば、プロジェクトの期間内でできるだけ細かく期間を切って、やり方を見直すプロセスを挟むなど。

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嘉村 既存の組織は、機械論やギャンブルのメタファーなんですよね。部品がうまく合わなかったら、捨てたり改造したり、修理したりする。もしくは、何か一つひとつの意思決定に関して、ギャンブル的に勝ち負けをつける。

対して生命体型組織には、失敗という概念はない。動いたことによるフィードバックが入る、というだけ。歌を歌ってみてスピーカーからの返りが弱かったら、出力を上げるだけなのと同じ。それは「返りが弱い」とデータが取れた、ということにすぎません。学びしかなくて、永遠にプロトタイプのままなのが、生命体パラダイムの考え方です。だからこそ、長期的な計画を立てて、しっかり失敗せずに物事を進めなければいけない機械論的パラダイムとは、軋轢が生まれやすいんです。

小林 Unityでもよく「シルバーバレットはない」という話をします。それ一つで全てのモンスターが倒せてしまうマジックはないと。

嘉村 まさに。ティールにせよUnityにせよ、そうした考え方を事前に説明してあげる必要があると思います。ただの便利な開発ツールや開発コミュニティではなく、その世界観ごと味わっていただくのが大事だと。

小林 はい。だからこそ、私たちはオンボーディング、初学者や新たにUnityのコミュニティに入っていただいた方々へのケアを大切にしています。コロナ禍になる前は、ハンズオンのイベントなどで、直接手ほどきしていました。まずは自身の手を動かしながら、「いきなり超大作RPGはできない。でも、まずは何か一つ完成させることが大事だ」と体感してもらうんです。なぜなら、簡単なゲーム作りでも挫折する人は多く、それを成し遂げられること自体がそもそも凄いことだからです。その凄さを認識し、自信を持ってもらうことが初学者には大事だと思います。

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生命体的な組織に適した採用スタイル

嘉村 Unityがパーパスを基盤とした生命体型組織であることが、よくわかってきました。こうした組織を実現するためには、人と人が出会う場面、つまり採用がとても重要です。想いに共感し、パーパスを共有している人を、メンバーがきちんと一対一で向き合って採用する必要があります。

機械論的な組織では、人事部や採用部門が採用し、配属しますよね。すると、現場スタッフにしてみれば、「人事部がよくわからないやつを採ってきた」という印象になり、初出社は緊張感に溢れます。すると、入社する側も「ちゃんと活躍しないと、ここに居させてもらえないんじゃないか」と鎧を着はじめてしまう。その後も現場メンバーは「別に自分で選んだわけじゃない、あてがわれた人だ」と真剣に面倒を見ようとせず、新入社員もわからないことを相談しづらい。そうして表面的なコミュニケーションが続くと、どんどん居心地が悪くなり、「仕事のやりとり」と割り切った関係性になってしまいます。

小林 生命体的な組織は、そうではないということですね?

嘉村 はい。たとえば、さきほど挙げたビュートゾルフだったら、自分たちで新しい社員を選んでいるので、最初の出社日に嫌だと思っている人は誰一人としていません。とある出版社で、一人でも「一緒に働きたくない」と言う人がいたら、絶対に雇わないというルールを徹底しているケースもあります。

入社したということは、みんなが責任持って選んでくれたことになる。ですから、初日から安心安全に活躍できる。すると、限りなく少ないルールでもいろいろなことが動いていきます。変化もみんなで乗り越えていこうという感覚ができ、他の人をコントロールしようという気持ちが生まれにくい。

小林 なるほど。

嘉村 Unityさんの場合は、究極的にいえば、ゲームを作りたい人であれば誰でもコミュニティに入れるわけじゃないですか。何かしらのイニシアチブを取る人たちも自然発生に任せていて、いわゆる採用プロセスというものがなさそうに思えます。

小林 いちおう採用プロセスはあるのですが、すべてリファラルです。社員の紹介や、ゲーム業界内のつながりによって、「この人と一緒に仕事をしたい」と思える人が集まっているんです。

嘉村 メンバーが勝手にイニシアチブを取るというよりも、業界内である程度顕在化していった人たちに自然と声がかかっていくかたちで、物事が進んでいくと。インターネットのオープンソースコミュニティのような透明性が実現しているように思えます。誠実に取り組んでいれば、どこまでも大きな役割がやってくるという、性善説的な世界観。ティール組織の中でも、健全なコミュニティの形だと感じます。

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小林 透明性というのは、まさに『ティール組織』で言う「ホールネス」ですよね。Googleなどが実践していることでもありますが、自らが全てをさらけ出せるような状況じゃないと、安心して仕事ができない。


日本の企業社会は間もなく「組織生態系」の時代に突入する

小林 最後に、今後の展望についてもうかがいたいです。『ティール組織』刊行から3年以上が経ちましたが、その間の社会変化や今後の動向について、嘉村さんはどう見ていますか?

嘉村 原著が出たのは2014年で、日本より4年早いのですが、そのおかげか海外では、生命体的で自立分散的な組織が少しずつ増えてきている印象です。タイヤのミシュラン、スポーツ用品のデカトロンなど、数万人から数十万人規模の大組織でも、既存の機械論的な組織からの変革が生まれています。

小林 日本はどうですか?

嘉村 まだまだ未成熟で、正しい理解すらあまり広まっていない、第一段階の途中のような状況だと見ています。ただ、今後は日本も「組織生態系」の時代に入っていきそうな予感がしています。

小林 組織生態系、ですか。

嘉村 組織にフルコミットして囲い込まれるかたちではなく、バラバラな個人の人生がある中で何かしらの磁場によって集まり、そこにいる人たちは副業や兼業をしていても何の問題もない、コミュニティーや生態系としての組織に属するようになる。まさにオープンソースコミュニティやUnityで起こっていた動きが、日本の企業社会の全般に広まっていく気がしているんです。その変化がティール組織の実例などとどう絡まりあいながら起きていくのか、もう少し見てみたいと思っています。

小林 なるほど。Unityがやってきたことは間違いじゃなかったのだと、勇気をいただける話です。今日は本当にありがとうございました。

嘉村 こちらこそありがとうございました。あらためて、結局は「好きこそものの上手なれ」なのだなと実感しました。好きなことをやれていると、お互いを尊重し合うし、できないところよりも好きなところに集中したいから、足りないところを補い合ったら、そこに自然と感謝が生まれる。

生命体的な自律分散型の組織は、パーパスやビッグアイデアに共感して面白がれる人が集まることで、自己組織化されて生まれるんです。Unityさんは、パーパスへの共感を軸に成り立っているがゆえに、複雑なルールがなくとも自己組織化が生まれる、とても好例だったのではないかと思います。今日はとても勉強になりました。

小林 私もたくさん発見がありました。特にUnityにせよティール組織にせよ、自立分散であることやオープンソース的であることは「結果」にすぎないのだと知れたのは大きかったです。パーパスという同じ方向を見ているからこそ、基盤が強固になり、柔軟で生命体的な組織が実現するのだと。これからもUnityをハブに、開発者コミュニティの皆さんとともに頑張っていきます。

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