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DXで息吹を取り戻した「IBUKI」ー職人の経験をAIで見える化ー

0. IBUKIの紹介

IBUKIは、樹脂成形に使う金型の設計、製造を手がける金型メーカーで、1933年からの、90年近い歴史を持ちます。山形に本拠を構え、MADE IN YAMAGATAを世界へ広める伝道師となることを目指しています。
6年連続の赤字で破綻寸前だった金型メーカー「安田製作所」が、製造業向けコンサルティング「O2」による買収で社名を変更、組織改革と思い切ったDXで一年足らずで黒字に転じ、2018年には「第7回ものづくり日本大賞」で経済産業大臣賞を受賞しました。2021年12月より、しげる工業株式会社の傘下となっています。

1. 職人の熟練技をAIで見える化

O2のグループ会社「LIGHTz」がAIソリューション「ORGENIUS」を開発。これにより、職人の熟練技を見える化した「ブレインモデル」というネットワーク図を作り、それとAIとを連携して技術伝承を行いました。
ブレインモデルとは、誰もがその知見や技術を活用できるように、ベテラン技術者の思考をネットワーク図として表現したもの。ブレインモデルは、職人に細かくヒアリングしていくことで、さまざまな事象はどういった原因の組み合わせで起きるのか、原因特定のためにはどのような情報が必要かと言った繋がりを図にして見える化できます。
ORGENIUSは、人間が使う自然言語をコンピューターに処理させる言語解析型と、工学系の辞書をハイブリッドさせたLIGHTz独自のアルゴリズムを採用していて、これは職人の感覚的な部分もAIに組み込むためです。

2.AIとIoTの実践の場へ

2.1 半日かかった作業を30分で

ORGENIUSは、見積もり算出のための情報探索において活用されています。見積もりは、過去のデータから類似したものを探し、それを参考にすることで簡単に作成できますが、これは若手技術者には非常に難しく、以前は一人のベテランに頼り切っていました。顧客からの注文が、通常の金型にはない特注のものだった場合などに、それと似たデータを探し出すのが非常に難しいためです。
ORGENIUSを使って情報探索すると、ベテラン技術者の知見ネットワークに基づいて、さまざまな情報を総合した検索が行われるため、類似したデータを簡単に見つけ出せます。ORGENIUSの導入で、半日がかりだったデータ収集が、30分程度にまで短くなるなど、見積り作業は大幅に効率化されました。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2017/170517smartsme04A.pdf

2.2 AI搭載のIoT金型

ORGENIUSは、位置センサーや温度センサー、圧力センサーなど8種のセンサーが埋め込まれたIoT金型にも搭載されています。
金型は通常、一度出来上がった金型に樹脂を流して成形をトライして、不具合に応じて金型修正をする、といった工程を数回繰り返して完成品を作ります。不具合はさまざまな原因がありますが、成形中に金型の内部を見ることができないため同定は非常に困難で、それらを職人は経験に基づく勘で金型内部の様子を判断し、修正していきます。そのため、経験のない若手には真似することができず、技術伝承も非常に難しいほか、修正が何度も重なることで時間やコストにもロスが出てしまうことになるのです。
それらを解決するのがIoT金型で、複数のセンサーを金型に埋め込んで金型内部の現象を数値化することで、内部で起きていることを細かく把握可能に。さらにORGENIUSの搭載によって、成形の不具合に関する分析をAIで行えます。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2017/170517smartsme04A.pdf

2.3 熟練の金型チューニングをAIで

山形大学や三菱自動車などと協同で、金型チューニングに関する熟達者知見のAI化による 「機差・環境差推定アルゴリズム開発」も行っています。金型による射出成形は、機械ごとの個体差や、設置場所の温度や湿度などの気候条件、取り付け方法などの環境差により、成形条件を変えなくてはいけません。これには複数の項目を絶妙に調整する、熟練技が必要不可欠です。IBUKIは、このチューニングに関する熟練技をAIで分析し、個体差や環境差を推定するAIを構築しようと試みています
グローバルな自動車会社は、世界各地で生産を行います。生産には日本や中国で作った金型が使われますが、実際の使用に際しては、現地の環境に合わせチューニングが必要です。しかし熟練技が要されるチューニングは現地の技術者には難しく、従来は日本から技術者を派遣していました。新たなAIを活用することで、現地スタッフでのチューニング可能になり、効率化につながります。

令和元年度 戦略的基盤技術高度化・連携支援事業 戦略的基盤技術高度化支援事業「金型チューニングに関する熟達者知見の AI 化による 機差・環境差推定の研究開発」研究開発成果等報告書


3. 「IBUKIモデル」で他の中小製造業にも息吹を

O2がIBUKIの前身である安田製作所を買収したのは、日本のものづくりの優れた技術を失いたくないという思いから。安田製作所は、1933年創業の歴史ある金型メーカーで、長年培ってきた独自の加飾技術を持っており、会社が倒産して、その技術がなくなってしまうのはとても惜しいと感じたからだといいます。
日本には安田製作所と同じように、優れた技術やノウハウを持ちながらも、経営に苦しむ中小企業がたくさんあります。
また、地域の企業はITによってビジネスモデルやビジネスのルールがどんどん変わっていくのを目の当たりにして焦りを感じながらも、東京しか見ていない傾向があり、地元の先進事例が意外に知られていないといいます。
IBUKI がデジタル化とオープンイノベーションで事業をより発展させることで、それを成功モデルに他の中小製造業にも息吹を取り戻したいとIBUKIは考えているのです。

Prime Arc Consultingについて

Prime Arc Consultingは、Web3.0・ESG・DXなど先端テーマとPMO・新規事業領域に強いブティックコンサルティングファームです。
独自のコンサルティングストラテジーと経験・知見が豊富な人材でハイクオリティ&リーズナブルなコンサルティングサービスを提供しています。

Prime Arc Consultingでは主に3つのサービスを展開しています。

  • 「Prime Arc Consulting」:コンサルタントによる伴走型支援で経営をフルサポートする経営コンサルティングサービス

  • 「プロサポ」:難易度の高い仕事や急な業務指示にも若手コンサルタントが丁寧に対応するビジネス秘書サービス

  • 「Power Unity」:上流案件獲得のための自社でのコンサルティング部門立ち上げをサポートするサービス

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参考文献

https://gemba-pi.jp/post-186048

https://www.jtua.or.jp/ict/topic/iot/201904_01/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46863970S9A700C1L01000/

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2017/170517smartsme04A.pdf

https://www.weeklybcn.com/journal/news/detail/20180920_164157.html

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/portal/seika/2017/2920604004h.pdf