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月下美男(げっかびだん)

タイトル:月下美男(げっかびだん)

▼登場人物
●二湯芽 生琉(にゆめ いきる):男性。37歳。独身サラリーマン。気が弱い。
●坂上果穂(さかがみ かほ):女性。33歳。抜群の美人。生琉が片想いする。
●田所(たどころ)マサト:男性。37歳。御曹司。果穂のフィアンセ。
●仁図(にず)ユメム:女性。30代。生琉の夢と欲望から生まれた生霊。

▼場所設定
●Night-blooming:お洒落なカクテルバー。生琉の行きつけの飲み屋街に建っていた。
●花屋「カレン」:果穂が働いている。普通の花屋のイメージで。
●生琉の自宅:都内にある一般的なマンションのイメージ。
●果歩の自宅:同じく都内にある一般的なマンションのイメージ。

▼アイテム
●One Thousand Nights of Love:ユメムが生琉に勧める特製のカクテル。

NAは二湯芽 生琉でよろしくお願いします。

イントロ〜

あなたには今、心から愛する人がいますか?
「人は恋をするために生まれた」なんてロマンチックな詩を残した人もいましたね。
でも確かに大抵の人は恋をして、それが叶っても叶わなくても、その記憶だけは残ります。
青春は一瞬、人との間の愛も一瞬…そんなふうに思っている現代人が多い中、もしその愛が生涯続くとどうでしょう?
今回はそんな愛に悩み、自分の新たな居場所を見つけた
或る男性にまつわる不思議なお話。

メインシナリオ〜

ト書き(花屋)

生琉「はぁ。いいなぁ、果穂ちゃん」

俺の名前は二湯芽 生琉(にゆめ いきる)。
都内に住む37歳の独身サラリーマン。
俺はいつも花屋に来てあの子を眺めてる。
この歳にして初恋だった。

果穂「いらっしゃいませ〜♫あ、マサトさん」

マサト「いやぁ今日も仕事に精が出るね♫終わるの何時?また迎えに来るよ」

果穂「ありがとう♫今日は19時に終わるわ」

生琉「くそ、アイツまた来やがった」

それでも叶わぬ恋。
そう、果穂ちゃんには既に許婚がいたんだ。

ト書き(バー「Night-blooming」)

生琉「しょうがない。今日は1人で飲みにでも行くか」

もう半分以上諦めている恋。
俺はやり切れず、その夜は1人で飲みに行った。
そうしていつもの飲み屋街を歩いていた時…

生琉「ん?「Night-blooming」?新装か?」

昨日来ていた筈のこの飲み屋街に、全く見たことのない新しいカクテルバーが建っている。
結構、雰囲気も良さそうだったので入ってみることにした。

生琉「ふぅん。なかなか良いじゃないか」

そしていつものようにカウンターで飲んでいた時…

ユメム「フフ、こんばんは♫お1人ですか?もしよければご一緒しません?」

と1人の女性が声をかけてきた。
振り向くとまぁまぁな美人。
別に断る理由もないので俺は隣の席を空け彼女を迎えた。

彼女の名前は仁図(にず)ユメムさん。
都内で恋愛コーチやスピリチュアルヒーラーのような仕事をしていたとのことで、
その変わった名前もペンネーム感覚でつけたとのこと。

でもそうして喋っていると何となく不思議な気になる。
まずどこかで1度会ったことのあるような気がして、
その感覚を心に浸しながら喋っているとどこか開放的にさせられ、
自分の悩みや心の正直を全て彼女に打ち明けたくなる。
そんなオーラのようなものが彼女から漂っていた。
そして俺はその通りに行動したのだ。

ユメム「まぁ、初恋を?」

生琉「え、ええwこんなオッサンが何言ってんだみたいに思われるかもしれないですけど、でもホントなんです。その花屋にほとんど毎日通ってるのもそのせいで…」

ほとんど俺の愚痴のような悩み事だったが彼女は真剣に聴いてくれた。
そしてなんと、かなり驚く事を言ってきたのだ。

ユメム「もしかしてその人、私、知ってるかもしれません」

生琉「…え?」

ユメム「緑ヶ丘公園のすぐ前にある、カレンって名前のお花屋さんですよね?」

なんと彼女はあの果穂さんの事を知っていると言う。

ユメム「やっぱり♫坂上果穂(さかがみ かほ)さんならその昔、私のヒーラー教室の生徒として来られていた方ですよ。なんでもその時はひどく恋愛に悩まれていたようで。それ以前に対人関係が苦手だった様子で、その辺りの心のケアをして差し上げていました」

生琉「ほ、ホントですかそれ?」

正直、結構、驚いていた。
まさかこんな所であの果穂さんと、今目の前に居るこの彼女と俺とがリンクするなんて。

ユメム「フフ♫確かに彼女、美しい方ですもんね。あなたが惚れるのもわかりますよ」

生琉「あ、あははw…でも、所詮は叶わぬ恋です」

俺はこの時、あのフィアンセの事を彼女に告げた。
ほとんど毎日通いながら果穂さんとあのフィアンセの会話を聞いてると、
俺とあのフィアンセではまるで次元が違う。

どうやらどこぞの御曹司のようで、収入は俺の3倍以上。
それにハンサムだし背も高いし優しそうだし、
どこを取っても俺に勝ち目なんて無い。

それがわかっていながら俺はもう半分以上この恋を諦めている。

ユメム「そうですか。半分以上…。だったら少しはまだ、彼女との出会いに期待してると言うことですか?」

生琉「え…?」

ユメム「そうでしょう?もし本当に諦めてるなら、そんな会話をする事も嫌う筈です。未練というのは諦め切れないからこそ未練と言い、あなたはまだ彼女の事を諦められないから、ここでこうして私にそんな事を話しているのです」

生琉「い、いやそんなこと…僕は本当に…」

そこまできてパッと俺の方を振り向き、彼女は冷静な目をしてこう言ってきた。

ユメム「フフ、正直になって下さい。私も仕事柄、教室で生徒の悩みを聞く時は、まずその生徒に正直になってもらい、心の全てを私に打ち明けてもらえるよう、その人自身を解きほぐすところから始めます」

ユメム「あなたは彼女の事をまだ本気で愛してらっしゃるようですね。話の流れから見るとその事が私なりによくわかります」

ユメム「良いでしょう。あなたのその願い、叶えて差し上げましょうか?」

生琉「い、いや…えぇ?」

やや強引に彼女はそう言い、指をパチンと鳴らし、
ここのマスターにカクテルを一杯オーダーした。
そして作られたカクテルを俺に勧めこう言ってきた。

ユメム「こちらをどうぞ、私の奢りです。これは『One Thousand Nights of Love』という少し長い名前のカクテルで、その人の恋愛を必ず成就させます」

ユメム「ただ一般的に言われる恋愛成就ではなく、少し変わった形での恋愛成就。あなたはきっと、その変わった空間でも彼女を愛し…いやその空間だからこそ誰にも何にも邪魔される事なく、その夢を生涯謳歌する事ができるでしょう」

生琉「…はぁ?何を言って…」

ユメム「フフ、信じることです。あなたの夢の成就をあなたが信じないで、一体他に誰が信じると言うのです?」

そして少し姿勢を変え、真っ直ぐ前を見ながらこう言ってきた。

ユメム「…そうですねぇ、今週の土曜日辺りにあの花屋に行って、彼女に月下美人を注文して下さい。それであなたと彼女との接点が生まれるでしょう」

ユメム「月下美人はその夜にしか咲ませんから店には置いてません。なのでそれから3日後の夜、8時にあの店に行くのです。そこで彼女が待っていると思いますから、そこであなたはその月下美人を受け取って下さい」

生琉「…いや、ちょっと待って下さい。そんなこと急に言われたって…。あ、それにあの店は19時半で閉店ですよ。夜8時に行ったって居る筈…」

ユメム「ええ、知ってますよ。だから良いのです。誰もお客が来ない閉店後の店。そこであなたは彼女との接点どころか、その後、生涯をかけて紡ぎ合える、彼女との絆を持つ事さえできるでしょうから。このカクテルが、きっとあなたと彼女をそうしてくれます」

全くおかしな事を言う人。でも不思議な人だ。
彼女の言う事ならたとえそれがどんなインチキな事でも信じてしまう。
そうさせられる力の様なものがあのオーラと共に俺の心にやって来る。
これは不思議な体験で、多分、誰かに言っても信じない。
俺はそのカクテルを飲み干した。

ト書き(月下美人を注文してから3日後)

そして土曜日。あの店に行き、彼女に月下美人を注文した。
でも行く途中、俺はあまりに焦っていたからか、マンションから通りへ降りる階段の途中、派手に転んだ。

生琉「痛ツツゥ〜〜」

なんて少しうずくまったが、彼女にあの花を注文するためそんな痛みを吹き飛ばし、俺は即座に立って店に急いだ。

ト書き(花屋「カレン」)

果穂「え?あなたも月下美人がお好きなんですか?」

生琉「え、ええ、まぁwあはは」

果穂「私もなんです♪私もあのお花、大好きなんです」

そこで彼女は俺の存在をはっきり知ってくれた。
それから3日後。俺はまたこの店まで月下美人を取りに来る。
そう、閉店した後の夜8時。
ユメムさんに言われた通りにその店に来ると…

生琉「あれ…?やっぱり閉まってる…」

店は閉まっていた。

生琉「ふぅ。まぁ当たり前だよなぁこれが…」

夜7時半までの店に、それから30分後の8時にやってきている俺。
閉まっていて当然。
「担がれたかなぁ?」なんて思っていたその時…

果穂「ハァハァ、あ、二湯芽さん、ですよね?よかった、戻ってきた甲斐があったわ」

生琉「え…?か、果穂さん…」

驚いた。
いちど店を閉店した後、彼女は途中まで帰路につき、
それでも「俺に何か事情があったから来れず、もしかしたら急いで今店にやってきているかもしれない」
…なんて不意に思ってくれたらしく、それから一縷の望みをかける思いで、ここまで少し早足でやってきてくれたと言う。

生琉「(こんな偶然があろうか…。1人の一般客の為に、閉店した後、又そんな事を思って帰って来てくれるなんて。たったそれだけの事で…)」

何か彼女と俺との間に、奇跡的な絆のようなものをそのとき思った。
そしてその勢いからか、俺の心に妙な勇気が芽生え、彼女に…

生琉「あ、あの!果穂さん!よ、よかったら、この月下美人が咲くところ、い、一緒に見てもらえませんか!?」

となりふり構わずダメ元でお願いしていた。
そこでフラれたらそれまでのこと。
当たって砕けろの精神で、もしフラれるなら、それはそれで踏ん切りが付いて良い…そこまで思っていた。

でも果穂さんは…

果穂「…ええ、私も一緒に見たいです」

と言ってくれ、なんとそれから俺の部屋まで一緒に来てくれることになったのだ。

生琉「ほ、ほんとに、ほんとにこんなことが…」

俺はもう心底から天に昇るほど嬉しく万々歳。
しかもよくわからなかったが、彼女はなぜかぴったり俺の腕にくっつくように歩いてくれて、
まるで恋人同士のような空気を醸してくれる。

生琉「(もしかしてあのフィアンセより、俺の方が好きだったのか?…いや好きになってくれたのか?)」

そこまで思えたほどに。

ト書き(マンション)

そして俺のマンションの部屋に着き、彼女と2人で一緒に、月下美人が咲き誇るところを見た。
そして彼女の手を握り…

果穂「あ…」

と言う声とともに、俺と果穂は互いの愛を確かめ合った。

ト書き(甘い生活が続く)

そして翌朝。彼女はもうすっかりあのフィアンセの事を忘れたようだ。
それから俺と果穂との甘い日々が続いた。ずっと、ずっと続く。

ト書き(遊園地)

生琉「あははw」

果穂「ウフフ♪」

ト書き(レジャー先のホテル)

生琉「果穂、もう君を離さないよ」

果穂「うん、本当に嬉しい」

それから数ヵ月後、俺と果穂は婚約したあと結婚(ゴール)に着いた。

ト書き(夜、果穂の自宅マンション)

マサト「ん、どうした?」

果穂「ふう。…ん?ううん何でもない。なんか変な夢見たみたいだけど、覚えてないわ」

ト書き(果穂のマンションを見上げながら)

ユメム「今日も彼女、生琉の夢を見てくれてるみたいね。生琉は彼女の夢の中だけに生きる存在となり、この世ではもう姿を消してしまった。そして果穂は、夢の中で見た生琉を覚えていない。夢は夢の中だけに封印し、現実は現実として生きてゆく。私は生琉の夢と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた」

ユメム「あの時、マンションの階段を降りて転んだ時に、生琉のこの世での人生はもう終わっていたの。それからは生霊のように彼女の元へ行き、自分と彼女だけの暖かな夢を見続けていた」

ユメム「生琉が飲んだあのカクテル『One Thousand Nights of Love』が、彼の人生をそう決定したのね。夢一夜で終わるその可憐な恋が、千夜続けば良いわよね?千夜とは一夜より長い時間。果穂が夢を見続ける間、あなたは果穂の夫で居られるの」

ユメム「この世の何のしがらみも受けず、あなたはずっと果穂と2人だけ。あなたにとっては本望でしょう。夢の中で、彼女の夢とずっとお幸せにね…」

動画はこちら(^^♪
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