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レト・ロマンス〜思ひ出の壁

タイトル:レト・ロマンス〜思ひ出の壁

▼登場人物
●加古賀 好男(かこが よしお):男性。45歳。独身サラリーマン。懐古主義。
●好男の友達(幼馴染達):美代子やカケルを始めみんな好男の幼馴染。
●手師揚(てしあげ)ルエカ:女性。30~40代。好男の夢と欲望から生まれた生霊。

▼場所設定
●街中:お洒落なカクテルバーなど一般的なイメージでOKです。
●某商社:好男が働いている。こちらも一般的なイメージでOKです。
●夢の中:これは過去の中と同じ風景で昭和レトロが満載して居る。

▼アイテム
●レト・ロマンス:ルエカが好男に勧める特製のドリンク。サプリの様なもの。これを飲むと懐かしく自分が好きな時代に戻る夢を見られる。

NAは加古賀 好男でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは過去に帰りたいと思った事がありますか?
レト・ロマンス主義、という言葉が現代でもまた注目され始めたようです。
現代が嫌だから過去に帰る、この思い1つで過去の思い出を全部美化して、
今を捨ててでも過去に帰りたい・思い出の中に浸りたい…
そんな人がかなり多いようですね。
今回はそんな彼にまつわる思い出のエピソード。

メインシナリオ〜

ト書き〈カクテルバー〉

俺の名前は加古賀 好男(かこが よしお)。
今年45歳になる独身サラリーマン。

両親は先日亡くなってしまい俺は今独りぼっち。
それまで周りに居た友達も仕事仕事で全国に散らばってしまい、会える日なんてもう無い。

まぁもともと疎遠だったのもある。
俺と周りの奴らとじゃステータスがまるで違い、
みんな結婚したけど俺だけが独身。
そうなれば話も世界観も合わず、こうなるのは仕方がないのかもしれない。

でも俺は、過去が好き。思い出が好き。
いつか必ず思い出の中に帰りたい…そんな思いでずっと今生活している自分がある。

今日もいつものように行きつけのカクテルバーで愚痴を呟いてると…

ルエカ「フフ、こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」

と1人の女性が声をかけてきた。
彼女の名前は手師揚(てしあげ)ルエカさん。

なんでも都内でライフヒーラーやスピリチュアルコーチの仕事をしていたようで
どことなく気品があり懐かしく、なんだか一緒に居て落ち着いた。

その懐かしさは「どこかでいちど会ったことのある人?」と言うような感覚から来ていたようで、
その点でもこの人は不思議な人だった。

そして彼女と喋っているともう1つの不思議に気づく。
それは自分の悩みを無性に打ち明けたくなる事。
俺は過去に帰りたい・思い出に浸りたいと言うどうしようもない悩みを、そのとき彼女に全て打ち明けていた。

ルエカ「なるほど、レト・ロマンスですね。そう言う方は今結構多いようですよ?」

好男「レト・ロマンス?」

ルエカ「フフ、過去に帰りたい症候群の事を言います。昔のものが何でもよく見えて、その反動で今を嫌い、何が何でも過去に帰りたい・戻りたいとする、その気持ちを煽り立てる衝動のようなものですよ」

ルエカ「懐古主義と言っても良いでしょうか?レトロフリークと言うのもあるぐらいで、今は様々な物事や出来事のアーカイブが人気を博しており、過去の物事を愉しみ、それをまた美化する人も増えてるようです」

好男「はぁ」(何となく聞いてる)

ルエカ「良いでしょう。ここでこうしてお会い出来たのも何かのご縁。その望み、叶えて差し上げましょうか?」

好男「え?」

そう言って彼女は持っていたバッグの中から1本のドリンクを取り出し、
それを俺に勧めてこう言ってきた。

ルエカ「こちらをどうぞ♪これはその名もズバリ『レト・ロマンス』と言う特製のドリンクで、これを飲めばあなたは夢の中で自分の好きな過去に戻る事ができるようになります」

好男「はぁ?」

ルエカ「フフフ、信じることが大事ですよ。信じれば、その夢は叶えられます」

ここでもう1つの不思議に気づく。
それは他の人に言われたって信じられない事でも、
彼女に言われたら信じてしまうこと。
俺はそのドリンクを受け取り家に帰った。

ト書き〈夢の中〉

好男「うわぁ…こ、これって、あの時の…」

俺は早速そのドリンクを飲んで寝てみた。
すると昔の懐かしいあの風景の中に俺は居り、
思い出と一緒にその空間を存分に楽しむ事ができていた。

美代子「フフ、よ〜しおちゃん♪」

好男「み、美代ちゃん♪」

美代子「みんな待ってるわ♪さぁ早く遊びに行きましょ!今日、ミニ四駆みんなで空き地で走らせるんでしょ?♪私も見たいから一緒に行きましょうよ♪」

すると俺の右手にはいつの間にかミニ四駆のサンダードラゴンがあり、
俺はそれを持って幼馴染の美代ちゃんと一緒に、沢山友達が集まったその空き地へ行った。

好男「み、皆んなぁ…!」

カケル「よぉ、遅ぇぞ!今日はみんなで決めた試走式(しそうしき)の日だろ?早く来て、お前自慢のサンダードラゴンの走り見せてくれよ俺達に♪」

好男「は、はは…♪あ、ああ!見せてやるからお前たち、腰抜かすなよ〜♪」

何もかもがあの時のまま。
昭和の時代にタイムスリップした俺は、そのままその時代の風景を思いきり満喫し、
みんなと一緒に何度もその思い出を楽しんでいた。

いやこれは思い出なんかじゃない。
リアルタイムで今そのまま起きている現実だ♪

とにかく嬉しく、夢から覚めてもその余韻がずっと続いていた。

ト書き〈トラブル〉

上司「加古賀君!君は一体何度言ったら分かるのかね!こんな初歩的なミスを何度もするなんて!もうクビにするぞ!?」

好男「は、はい…すみません」

その翌日。俺は会社で大きなミスをしてしまった。

同僚「ははwあいつはホントどうしようもねぇなぁw」

部下の女「フフwあんな調子だから結婚もできないで、未だに孤独で寂しい生活送ってんのかしらねw」

好男「(ク…クソぉ…)」

同僚や部下からも馬鹿にされ、俺はもう会社で自分の居場所をなくしてしまったようだ。
いやこれは今に始まったことじゃない。
最近の俺はどうもおかしく、いつでもぼうっとして居て、
それもきっと今より過去を愛したその気持ちが俺を支配していたから?

ト書き〈転機〉

それから数日間、数週間、数ヶ月が経ってゆく。
俺は益々肩身の狭い思いをし始めて、こんな現実よりも過去が良い…
あの頃が懐かしい、あの当時に帰りたい…そんな思いに慢性的に浸るようになってしまった。

気がつくと、俺は又あのバーに駆け込んでいた。
ここは場末のバーで、俺だけが見つけた場所。

今生活して居て俺の周りにいる人達は一切来ず、
本当にいっときでも心が休まる場所…そんな空間に自分で仕立て上げていた。

あの子供時代から今を見つめたら、どんなに悲しいだろう。
こんな自分に成るなんて、おそらく想像もしなかった。
そんな気持ちさえ、今の俺の「過去に帰りたい」と言うその思いの助長になった。

していると…

ルエカ「あら、来てらしたんですか?」

あとからルエカさんがやって来た。
どうも彼女もこの店を行きつけにしていたらしい。

でも彼女のそんな顔を見た瞬間、俺はこれまでの絶望と悩みが一気に溢れ出し、
これから自分がどうしたいか?…その事について彼女に正直に打ち明けていた。

好男「僕、もうこの現実には向いてません。本当に過去に帰りたい…。あの子供の時代に帰って、もう1度やり直したい…そんなこと思うんです。ねえルエカさん!あなたならもしかすると、それが出来るんじゃないですか?」

ルエカ「え?」

好男「あなたは不思議な人だ。初めて会った時からそう感じてたんです。今考えてみたら、あんなドリンクを持っていたのも不思議だ。あんなこと現実じゃ有り得ませんからね。…ねぇお願いです、眠ってみる夢じゃなくて、僕を本当に過去に戻して頂けませんか!」

もう俺は気が狂って居たのだろうか。
こないだ会ったばかりの人にこんな事を無心している。
でも彼女は冷静に対応してくれ…

ルエカ「フフ、では、お望み通りにして差し上げましょうか?」

好男「え!?」

ルエカ「でも、その願いを叶える場合、あなたの理想から見て不足するところも出てきます。それは過去の自分の思い出の人達とは一切接触しない事、触れ合わない事、これを約束して頂く事になります」

好男「え?…それはどう言う…?あ、あれですかもしかして?過去の人と接したら、それで未来が変わってしまうからダメだみたいな?」

ルエカ「いいえ、そうじゃありません。過去の人に接する事で、あなたが絶望を更に覚えるからです」

好男「え…」

ルエカ「良いですか?過去に帰りたいとするあなたの願いは叶えますが、それは昔の環境を味わい、その点で理想に浸る…と言う範囲に留めておいて下さい。決して、顔馴染みの人が懐かしいからと言って、その人に触れる事も、接する事もないように」

そう言ってルエカが指をパチンと鳴らした瞬間、俺の意識は飛んでしまった。

ト書き〈過去の中〉

そして一瞬の闇のようなものを通り過ぎ、俺が次に目覚めた場所は
父さん母さんと一緒に過ごしたあの社宅。

好男「あぁ…こ、ここはぁ…」(じわじわと感動しながら)

父さん母さんが居る!俺の愛した人がそこに居る!
それだけじゃなく、過去の思い出の人達がワンサカ居てくれる!

周りは昭和の時に見たあの環境そのままで、取り壊されたものも元ある通りに戻されて、
俺が生まれ育ったあの土地、地域、空気・環境がそのまま甦ってきた。

好男「や、やった…やったあ!!」

俺は嬉しさの余り4回ジャンプした。
そしてふと前方を見ると子供が遊んでおり、その子供達の遊び声・笑い声が聞こえてきた。

好男「あぁ、美代ちゃんだ♪カケルも居る!大輔も居る!」

俺はその時、ルエカから言われていた事もすっかり忘れ、
跳び付くようにその子供達に近寄り、声をかけた。

好男「美代ちゃん!オレ帰ってきたよ!みんなで遊びたかったから!」

でも…

美代子「だ、誰この人…?」

カケル「…いや、こんなおっちゃん知らないけど…」

美代子「ね、ねぇ、行きましょ!向こうで遊ぼ!」

カケル「ああ!」

大輔「だね」

好男「え?…あ、おい…!…ハッ、あ、あれは…」

そのまま見ていると、美代ちゃん達が走って行ったその先に1人の見慣れた少年が居た。

好男「あれは……オレ…?」

ト書き〈1人残された成人(おとな)の好男を遠くから眺めて〉

ルエカ「だから言ったでしょう。もっと絶望する事になるって。思い出は思い出だから良いのよ。今から振り返るその思い出だから…。私は好男の夢と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れたけど、現実でそれを叶えるのは難しかった」

ルエカ「もうその夢の中の思い出は、昔のあなた…そう、子供の時のあなたが占領して居るの。だから成人(おとな)になったあなたには、思い出として振り返る事しか出来なかったのよ」

ルエカ「まるで自分が信じてきたその思い出にすら裏切られたような、壁を作られたようなあなたには、このさき何が幸せになるのでしょう。それを考えてみる事が、今のあなたのすべき事でしょうね」

動画はこちら(^^♪
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