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見知らぬひとり言

見知らぬひとり言
 氷河期に入る前、食料を調達するのが、この村の掟だった。だが、或る一家が食料を調達出来なかった。そこで、その家で飼っていた家畜、ペット、を次々と殺していった。そのペットを可愛がっていた子供達には黙ったままで殺したものであるから、三人の子供達はいなくなった三匹の内一匹を探した。テーブルの上に並べられているのが、そうだった。その晩から泣き続けた。そうして、ペットは二匹、一匹、と減っていった。もう、ワケを知っている子供達は何にも言わなかった。

 そんな或る日、一人子供が”埒があかない”と、隣村まで行く、と言い出した。その子供とは長男であり、十六歳である。長男が家を出てから暫くした。家は相変わらずの食糧難で、明日が危なかった。母親は、飢えた子供達を見て泣き、”最後の一匹のペットを殺しましょう、”と呟いた。そして食べた。

---数ヵ月が過ぎた。その家の中の様子と言えば、壁は軋み、隙間風が入って来る。妙に広々と感じたその子供は、居ない父親と真ん中の兄を探した。母親に聞くと、父親は今朝早くに長男と同じく出稼ぎに行った、と言っている。真ん中の兄は外に行っている、と。その夕方、まだ帰らない真ん中の兄を待たずに夕食の支度を済ませていた。

”まだ、兄ちゃんが帰ってないよ”

との三男の言葉を聞き流して、”さぁ、食べましょう、”と母親のひと言。テーブルを見ると、豪勢な肉やらが並んでいた。

”どうしたの?これ!”と思わず喜ぶ三男の言葉を聞き流して、母親は子供にその肉や野菜を食べさせた。久しぶりに満腹まで食べた子供は、

”母さん、どこから手に入れたのか知らないけど、本当においしかった。ありがとう”と笑顔で言った。母親も笑った。

 そしてその晩、子供はまだ帰らない真ん中の兄のことを母親に聞いた。すると、母親はゆっくり外を眺めながら話し始めた。

”あの時、一番上のお兄ちゃんが出稼ぎに行った時のこと、覚えてるでしょう。-----、今、お兄ちゃんねぇ、どこかの街で暮らしてるわ。私達、家族のことを放っぽり出してね。わずかにも稼いだお金でギャンブルしてね、それが大当たりして、たくさんのお金を儲けたらしいの。でもね、そのお金でお兄ちゃんはそこの人になってしまったのよ。だからあのお兄ちゃんはもうこの家には帰って来ないの。今朝、その街から出稼ぎで帰って来た人が居てね、教えてくれたわ。女の子といっしょにそこの街のホテルに泊まってるって。-----”

そう言って聞かせた。子供は、”何故?何故そのたくさんもうけたお金を家にもって帰ってこなかったの?”と涙ぐみながら言った。

”お金をたくさん持つと、時として人はかわるものなのよ。”
と静かに言い聞かせた。

泣いている子供は尋ねた。

”それでお父さんと兄ちゃんは、今どこに?”母親はやさしく答えた。

”私はね、お前だけは将来まで育てたいの。お前はやさしいし、それに一番まだ小さい。食べる量も上のお兄ちゃんに比べて少ないし、服だってお下がりが着れる。そう、経済的にも助かるわ。少しでもお前を育てようと母さんも必死なの。わかってくれるわね。だからお前には生きてゆく栄養分をとらせないと。”

(続けて)

”どうせまた出稼ぎに行って一番上のお兄ちゃんみたいにお金をたくさん稼いだりしたら、この貧困な生活を嫌うに決まってるわ。その証拠にお父さん、自分の物を全部ボストン・バッグに詰めて出て行こうとしたわ。そしてきっと父さんは人手を、あの子は父さんの稼ぐお金を目当てにしようとしたんでしょうね。自分も私物全部カバンに詰めて父さんについて行こうとしたわ。”

(続けて)

”だから母さんは引きとめたの。信じない訳じゃなくて、ジョン(一番下の子)、あなたが心配だったのよ。あなたには早くこんなひもじい生活から逃れてほしい、と。たとえ今は食いつないででもいいから、生きていてほしい、とね。だから、父さんも真ん中のお兄ちゃんもね、お前を心配してくれたの。母さん、嬉しかったわ。今は父さんも、お兄ちゃんも、母さんとお前の中にいるんだよ。”

(読者は、これまでの会話をドアの外から聞いている。スーーッとドアをすり抜けて母親がいる部屋の中に入る。五つ椅子を並べたテーブルにひとり、母親が座っている。《母親は一番下の子の声真似をしていた。》)

 そして、その五つ並んだ椅子のひとつに、フォークがつき刺してあった。

動画はこちら(^^♪
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