転生

タイトル：（仮）転生

▼登場人物
●弐次元生（にじ もとき）：男性。30歳。とても引っ込み思案で女性が苦手。でも女好き。
●桟地加奈子（さんじ かなこ）：女性。29歳。元生の同僚かつ婚約者。
●御子柴裕子（みこしば ゆうこ）：女性。30歳。元生の高校の時の同級生。回想シーンの中だけで登場。セリフなし。元生が片想いしてた。
●夢野仲江（ゆめの なかえ）：女性。30代。元生の心から生まれた生霊。

▼場所設定
●某IT企業：元生達が働いている。都内にある一般的なイメージでOKです。
●Two-dimensional dream：お洒落な感じのカクテルバー。仲江の行き付け。
●元生の自宅：都内にある一般的なアパートのイメージで。
●街中：こちらも必要ならで一般的なイメージでお願いします。

▼アイテム
●心を強める強壮剤：ビタミン剤の様なイメージでOKです。瓶入りの錠剤。
●Two-dimensional dream：店の名前と同じで瓶入りの液体薬。栄養ドリンクの様なイメージで。

NAは弐次元生でよろしくお願い致します。
（イントロ＋メインシナリオ：ト書き・記号含む＝4798字）

イントロ〜

皆さんこんにちは。
ところで皆さんは今好きな人がいますか？
想っている人がいますか？
またその人に直接告白なんかできますか？
したくてもできない、そんな人がほとんどではないでしょうか？
今回はそんな異性絡みの事で悩み続ける、
ある男性にまつわる不思議なエピソード。

メインシナリオ〜

ト書き〈部屋で裕子の写真を見ながら〉

元生「ハァハァ…ゆ、裕子ちゃん…好きだ、大好きだ」

俺の名前は弐次元生（にじ もとき）。
今年30歳になる独身サラリーマン。
都内のアパートに住んでいて仕事は某IT企業。

こんな俺には人に言えない悩みがあった。
それは女とまともに付き合えないと言う事。
つまりこの性格。

ダメなのだ。
女の前に行くとそれだけでどうしてもアガッてしまい、
思ってる事・感じた事・正直な事が何1つ言えなくなってしまう。

でも普通に好きな人はいて、名前は裕子ちゃん。
彼女は実は高校の時の同級生で、今ではもう会っていないが
その頃ずっと俺が片想いし続けていた人。
俺は今でも彼女が好きなのだ。

体育祭の時の写真や卒業アルバムの写真が唯一手元に残っており、
それを見ながら自分を慰め、ただもう虚しい生活を繰り返している。

元生「はぁ。…なんで俺ってこうなんだろ…」

はっきり言ってこんな自分にはもう嫌気がさしている。

ト書き〈会社帰り〉

そんなある日の会社帰り。
俺は1人で飲みに行った。

いつもの飲み屋街を歩いていると…

元生「ん、あれ？こんな店あったっけ？」

「Two-dimensional dream」という店があり、
ちょっとお洒落なカクテルバーのようだった。
とりあえずそこに入り飲む事に。

そして少し落ち込みながらカウンターに座り飲んでいると…

仲江「フフ、お1人ですか？さっきから溜息ばかりついてますね。もしよければご一緒しませんか？」

と割と綺麗な姉ちゃんが声をかけてきた。
彼女の名前は夢野仲江（ゆめの なかえ）さんと言い、
都内で恋愛コンサルタントの仕事をしていたようで、
副業ではヒーラーのような事もしていると言う。

元生「へぇ、コンサルタントの方ですか？」

仲江「まぁ何でも屋ですわ♪」

別に断る理由も無かったから暫く一緒に飲んでいた。
でもそうしていると、段々不思議な気持ちになってくる。

何か「昔から知ってる人」というイメージが湧いてきて、
ほんわかした雰囲気に安心し、心が和み始める。
その上で自分の事を無性に彼女に話したくなり、
気づくと俺は今の悩みを彼女に打ち明けていた。

元生「本当にもう、こんな自分の性格が嫌なんです。どうにかして今の自分を変えたいと思ってるんですが、なかなか…。アハwなんかすいません、いきなり初対面のあなたにこんなこと話しちゃうなんて…」

でも彼女は親身になって俺の話を聴いてくれた。
そして…

仲江「そんなに落ち込む事はありませんよ。そういう事で悩んでる男性というのは本当に多いものなんです。男性だけじゃありません。女性だって男嫌いの方は居られますし、男性と恋をしたいと思っていても、なかなか心がついて来ない…そんな悩みを抱えている方々も多く、こう言うのもおそらく現代病の1つではないか？…なんて私としては考える事もあります」

元生「はぁ…」

仲江「フフ、ここでこうしてお会い出来たのも何かのご縁。私がそのお悩みを少し軽くして差し上げましょうか？」

元生「え？」

仲江「先ほどご紹介させて頂いた通り、私は恋愛コンサルタントを本業としております。その上で精神的なケアも心得ておりますので、その両面からあなたの今の生活をサポートさせて頂けたら…と思っておりますが、いかがでしょうか？」

彼女はいきなりそんな感じで
俺の力になりたいと言ってくれた。

でもこの時も少し不思議だったが、
彼女に対する時はなぜか、普通の女に対する時とは違い、
いやらしい下心のようなものが一切湧いてこない。
何か自分に対しているような気持ちもしながら、
うっすらと身内感覚が漂うのである。

そして彼女は瓶入りの錠剤のようなものを
持っていたバッグから3本取り出し俺に渡した。

元生「な、何ですかこれ？」

仲江「それは心を強めてくれる強壮剤のようなものです。まぁビタミン剤のようなものと思って貰って構いません。それを毎日飲んでいれば、必ずあなたの今の悩みは解決されるでしょう」

元生「は、はあ？」

仲江「フフ♪信じる事が大切ですよ？何事も信じていれば、そちらの方へ人生は転がっていくものです。信じると言うのは自分を支配する事にもなります。ほら『心頭滅却すれば…』と言う諺だってあるでしょう？あれも心でそう信じる事によりその精神を究極的に高め、自分の理想の状態を引き寄せる事に他なりません」

元生「いや…だからって」

仲江「フフ…信じる事が大切なんです」（怪しく説得するように）

元生「あ…はぁ…」（トロ〜ンとしてしまう）

やはり彼女は不思議な人だ。
全く信じられない事でも彼女にそう言われると、
なんだか心が彼女の言う事一色に染まってしまう。

仲江「とりあえずその瓶の中には3ヶ月分の錠剤が入ってます。それを飲み続け、自分を強める間に、あなたは自力で女性との恋を勝ち取る練習をしていってみて下さい…」

元生「は…はぁ…」（暗示に掛かる様に）

まるで暗示に掛けられたような、そんな気分だった。

ト書き〈変わる〉

俺はそれから彼女に言われた通り、薬を飲み続けた。
すると…

元生「な、なんだ…？ほ、本当に体の中からエネルギーみたいなのが湧き出てくるようだ…！」

驚いた。
俺はそれから本当にすっかり変われたのだ。

会社の女子社員とも普通に話せるようになり、
どんどん自分をアピールする方法も覚え、
何事にも恐れる事なく、
まるで恋が自分のステータスのようにさえ思え始めた。

加奈子「あははw弐次さんって本当は面白い方だったんですね♪今まであんまり喋った事なかったからわからなかった♪」

元生「ハハwそうかぁ？まぁ確かにこれまでは資格の勉強とかいろんな事でちょっと忙しかったからね♪」

適当にごまかしながら「本当の俺はこうなんだ」
という事を全力でアピールしていた。

そんな感じで友達も出来、俺の人生は華やかになる。
これまでの生活がまるで嘘だったように。

そしてついに俺にも彼女が出来た。

加奈子「元生さん、本当に私と結婚してくれるのよね？信じていいのよね？」

元生「ああ、俺が本当に好きなのは君だけだよ。2人で一緒に幸せになろう」

会社の同僚だった加奈子と俺は付き合い始め、
結婚の約束もして、2人の将来を夢見始めた。

ト書き〈バー〉

そんなある日、俺はまた1人であのバーへ行った。
すると…

元生「あれ？仲江さん？」

彼女が偶然またそこに居た。

仲江「あ、お久しぶりです。その後、調子はどうですか？」

から話が弾み、それから暫く談笑する事に。
俺はすっかり変われた自分の事を彼女に伝えていた。

元生「もう、本当に全部あなたのお陰ですよ！有難うございます！」

仲江「そうですか、それはよかったです♪」

と言った後、少し…いや、かなり気になる事を言ってきたのだ。

仲江「その薬をお渡しするのはこの1度限り。これからはあなた自身の力で歩いて行って下さい。これまでの変われた生活で、あなたの心は一般的な恋愛作法を学べた筈です。だから結婚の約束も出来た訳です。ぜひこれからはあなた自身の力で将来を掴み取れるよう、精一杯、努力してみて下さいね？」

まずすっかり忘れていた事。
それはもうすぐ薬が切れると言う事。
貰っていたあの薬はあと1日分しかない。

そしてもう1つの心配事は、これ以上あの薬を
彼女から貰えないと言う事。これは知らなかった事だ。

そう言われて途端に自信が無くなってきた俺。
その場は何とか体裁を繕ってみたが、
やはり薬が切れた時…

（2日後のデート）

元生「ハァハァ、ダ…タメだ…！あ、あれが無いと…！あの錠剤が無いと俺はもう…！」

もう完全に依存症になっていたのだろうか。
仲江さんにああ言われてから
俺は途端に以前の自分を思い出してしまい、
加奈子との関係さえ危ういものになってしまった。

加奈子「ど、どうしたのよ！？ちょっと、も、元生さん！？」

元生「ご、ごめん！」

加奈子といつものようにデートしていたのだが
俺はもう居ても立っても居られなくなり、
加奈子をその場に置き去り俺は帰ってしまった。

ト書き〈バー〉

そしてその足でバーへ行き…

元生「あ、居た！な、仲江さん！」

俺は彼女に今の自分を助けて欲しいと無心した。

元生「お願いです！あの薬、もう1度だけ下さい！本当はまだあるんでしょう！？いきなり『もう無い』なんて変だ！お願いです！下さい！アレが無いともう僕は…！」

俺はもう半狂乱になっていた。
でも仲江さんはそんな俺を嗜めるかのようにして…

「あの薬にこれ以上依存するのは絶対に良くない」
「今こそ自分の力で未来を掴み取って欲しい」

という事を何度も言ってきた。
でも俺はそれを一切聞かず…

元生「お願いしますよそんなこと言わないで！頼むからあと1度だけあの薬を僕に下さい！」

とやっぱり無心し続けた。
すると彼女は漸く折れる形でこう言った。

仲江「ふぅ。仕方がありませんね。でもあの錠剤は本当にもう手元にありませんから、こちらのお薬を差し上げる事になりますが、それでも大丈夫ですか？」

元生「え！？そ、それはどんな…」

仲江「こちらは『Two-dimensional dream』という特製のお薬で、前のように期限は無く、その効果は永久です。ですのでその意味であなたを苦しめるような事はもう無いでしょう」

元生「こ、効果は前と同じようなものなんですね！？」

仲江「ええ、確かにそういう効果もありますが、こちらの場合は一般にお勧めする回復が出来るかどうか、それは個人差もあり経過によりますので、私としては余りお勧めしたくないのです」

「そういう効果もある」と聞いた時点で、
俺は彼女からその薬をやや強引に受け取り、
その場で一気に飲んでしまった。

飲んだ瞬間…

元生「う…な、なんか凄い効きますねこの薬…」

仲江「…飲んだ以上は、その効果の最大の引き出し方をお教えしましょう。今日あなたは家に帰って、1番想う人の写真を見つめて下さい。すると写真の中からその想い人（びと）が飛び出してきて、あなたのしたい事が全てその彼女に出来るでしょう。彼女は動きません。何の抵抗も無く、あなたの欲望を満たしてくれます…」

ト書き〈元生のアパート〉

俺は早速アパートに戻り、彼女に言われた通りにした。
俺がその時見た写真は…

元生「ゆ…裕子ちゃん…あはぁ〜裕子ちゃあぁん」（デレデレする感じて）

高校の時のあの同級生、裕子の写真だった。
するとその直後…

元生「うおわ！？な、なんだ！？」

いきなり写真からその裕子が飛び出してきて、
ドスンと部屋の中に座った挙句、何にも動かない。

その時、仲江さんの言ってた事を思い出した。

元生「な、なるほどぉ〜。この動かない裕子に、俺は好き勝手が出来るんだぁ」

俺は溜まりに溜まった裕子への欲望を
それから延々晴らし続けていた。

ト書き〈部屋で寝ている元生と裕子の写真を見ながら〉

仲江「やれやれ、結局ここへ舞い戻っちゃったか。加奈子さんに『好きだ』『愛してる』なんて言ったのは全部ウソ。元生はその心の奥底に猛烈な裕子への欲望を秘めており、それを埋める為だけに加奈子と付き合い、結婚しようとしていた」

仲江「私は元生の『理想の世界の中で生きたい』と言う本能と欲望から生まれた生霊。その理想を叶える為だけに現れた。あのお薬『Two-dimensional dream』はね、人の体を2次元の存在に変える特製のお薬だったのよ。だから写真から動かない裕子が飛び出したと思ったのは元生の錯覚。本当は元生のほうがこの写真の中に入っていたのよ。…フフ、元生も遂に写真の中の住人になっちゃったのね」

仲江「そしてこっちで寝てる元生はもう2度と起きる事は無い。ずっと眠ったままでその余生を終える事でしょう。写真の中の元生。これだけ楽しそうなら、その夢も覚めないほうが良いかもね。奥行きのない絵だけの世界でどうぞお幸せにね…」

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