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海が見える独房の果て・・・

タイトル:(仮)海が見える独房の果て・・・

▼登場人物
●折原氷空(おりはら そら):男性。20歳。大学生。愛する彼女を殺され復讐に出る。
●安井雪乃(やすい ゆきの):女性。20歳。大学生。氷空の彼女。強姦されたあと絞殺される。
●合田信二(ごうだ しんじ):男性。30歳。無職。根っからの悪党。強姦・傷害など前科が幾つもある。雪乃を襲い殺害する。氷空に復讐される。
●夜茂野波留(やもの はる):女性。20代。氷空の『復讐心』と『救いを求める心』から生まれた生霊。氷空に復讐の手助けをし、その後の生活空間を用意する。
●良子(りょうこ):氷空の母親。
●静香(しずか):雪乃の母親。
●警察:一般的なイメージで。

▼場所設定
●氷空の自宅:一般的な戸建てのイメージで。氷空の部屋は2階。
●D大学:私立大学のイメージで。氷空と雪乃が通学している。
●T公園:雪乃の自宅から最寄りの公園。ひとけがほとんど無い。
●古ぼけたアパート:合田信二が住んでいる。
●別荘「心の檻」:波留が氷空の為に用意した個別の独房。窓から海が見える。実は異次元にある別荘(独房)で、ここにいれば警察をはじめ、その後、誰も氷空を捕まえる事が出来ない。

NAは折原氷空でよろしくお願いいたします。

メインシナリオ~
(メインシナリオのみ=4171字)

ト書き〈D大学〉

雪乃)「ねぇ、今度2人で海行かない?もうちょっと暖かくなったらさ」

氷空)「海かー。俺、泳げねぇもんな~」

雪乃)「そんなのアタシが教えてあげるよ♪」

氷空)「ヘン!じゃあ自力で泳げるようになってやらぁ」

雪乃)「ウフフ」

NA)
俺は折原氷空(20歳)。
今年、大学3年。
今喋ってるこいつは安井雪乃(20歳)。
俺の彼女だ。
俺達は高校から付き合った。
雪乃から告白してくれて、俺はめちゃくちゃ喜んだ。
もう将来の結婚の事まで考えていた。

ト書き〈氷空の自宅〉

氷空)「海かー。久し振りだなぁ。ってかまだ4月なんだけど。まぁ確かにもうちょっと暖かくなってからだな。でもあいつ、泳ぎ上手かったっけ」

NA)
俺は楽しみにしていた。
雪乃は俺にとって初めての彼女。
きっと最初で最後の彼女だ。

ト書き〈異変〉

良子)「ねーえ、氷空ー」

氷空)「なにー母さん」

NA)
階下から母さんの呼ぶ声がした。

良子)「あんた今日、雪乃ちゃんと一緒に帰って来たの?」

氷空)「え?ああ、そうだけど」

良子)「おかしいわねぇ。雪乃ちゃん、まだ帰ってないんだって」

氷空)「え?」

NA)
雪乃の事は母さんも知っている。
さっき雪乃の親から電話があったらしく「まだ雪乃が戻らない」と言う。
俺はすぐ雪乃の携帯に掛けてみた。

氷空)「くそ、出ねぇなぁ、何してんだよ雪乃」

NA)
何度掛けても通じない。
時計は23時を回っている。
今日はバイトも無い。真っ直ぐ家に帰る筈だ。
友達といるにしても、こんなに遅いのは不自然だ。
遅くなる時は必ず電話するヤツだった。
俺は段々 不安になった。

ト書き〈捜索〉

NA)
雪乃の親は警察に捜索願を出した。
俺は俺で雪乃の行きそうな場所をしらみつぶしに捜し回った。
でも一向に見付からない。

警察)「もし娘さんから連絡があったらすぐ知らせて下さい」

静香)「わかりました、あの、娘は無事に帰って来ますよね!」

警察)「大丈夫です、全力で捜索に当たります」

ト書き〈T公園〉

警察)「警部ーちょっと来て下さい!」

NA)
翌日の午後。
雪乃は遺体で見付かった。
場所はT公園。
雪乃の家から最寄りの公園だった。
いつもひとけが無く、鬱蒼とした場所。
街の死角になるような公園だった。
遺体状況から雪乃は強姦された後、絞殺されたとの事。

静香)「うわああああ!雪乃ぉおぉ!」

氷空)「ウ・・・ウソだ・・・こんなのウソだ・・・何かの間違いだ。ある筈がない・・・。あいつが殺されるなんて。こんな形で殺されるなんて・・・嘘だぁあぁ!!!」

NA)
俺は号泣した。
泣いても泣いても泣き足りない。
俺の一生はこれで終わった・・・そうまで思った。
そのうち俺の心の底から別の感情が沸いて来た。
犯人への復讐。

氷空)「おのれ犯人め・・・絶対にお前を殺してやる・・・!思いっきり惨く殺してやる!生まれた事を後悔するまで、何度も何度も惨殺してやる・・・!!」

ト書き〈数日後〉

NA)
雪乃の葬儀は密葬で行なわれた。
それから数日後。
一生 癒えない悲しみと心の傷を負った俺は街中を徘徊している。

氷空)「どうやって、犯人を見付け出すか」

NA)
犯人はまだ捕まっていない。
きっとこの街にいる。
しかし探すアテが無い。
ずっと公園を張って見た。
そういう犯人が行きそうな場所を選んで行って見た。
これを何度も繰り返した。
でも見付からない。

氷空)「ふぅ・・・ちょっと休むか」

NA)
疲れた俺は、T公園のベンチで休んでいた。
するとそこへ・・・

波留)「こんにちは、お隣りいいですか?」

氷空)「え?」

NA)
いきなり女性が声を掛けて来た。
見たところ20代。
名前は夜茂野波留と言った。
俺は面倒臭いので立ち去ろうとしたが、女は呼び止めて来た。

波留)「実は私、大学生を対象にコンサルタントをしているんです。少しお話を聴きたいと思ってあなたに声を掛けたんですが、お時間ありませんか?」

氷空)「・・・何ですか?俺のほうは話す事ありませんけど」

NA)
正直、ウザい。
ひどく落ち込んでいるのに…
そんな事を思っていると、女が気になる事を言い出した。

波留)「・・・学生にだって、愛する人を或る日 突然亡くし、途方に暮れてしまう事があるんです。あなたにも最近、そんな経験がありませんでしたか?」

氷空)「・・・え?どうしてその事を・・・」

波留)「私はもう長年この仕事をしています。雰囲気や落胆の様子から、その方の悩みのあり方が判るのです。もし良ければ、今抱えてるその悩みを私に話してみませんか?もしかすると良い解決策が得られるかも知れませんよ」

NA)
暫く一緒にいると、その女から漂う不思議な感覚に気付いた。
初対面なのにずっと一緒にいたような、何となく暖かい感覚。
気付くと俺は、今の悩みを打ち明けていた。

氷空)「俺は最愛の恋人を殺されたんだ。その犯人を見付け出し、この手で殺してやりたい。絶対にそうする!犯人を何度でも殺してやる、それが今の俺の夢なんです。アンタ、こんな俺の手助けをしてくれるって言うんですか?」

波留)「お気の毒です。でも敵討ちは明治時代から禁じられていますよ。それに、例えその犯人を殺した所で、あなたは『1人の人間を殺した』という罪に苛まれます。どんな経過があるにせよ、あなたはその後、殺人犯としてその余生を過ごして行かなければならないのですよ。その覚悟はありますか?」

氷空)「それでいいです。いや寧ろそう成る事を望んでいます。これは俺のせいじゃありません。最初に手を出した犯人のせいなんです。犯人が全部悪いんですよ。そうでしょう?犯人が初めにそんな事をしなければ、俺はこんな風に成らなかった。誰かを殺したい、なんて気分には成らなかったんです」

氷空)「それに犯人がそんな事さえしなければ、雪乃は生きていました。俺の敵討ちは正当防衛です。雪乃に対する思い・自分の正義を守る事・悪魔と化した犯人を殺す目的と行動を守る事、これらを守る為の正当防衛なんですよ」

波留)「でもそれは・・・」

氷空)「もういいです。別に誰かに理解(わか)って欲しいなんて思ってませんから。同じ立場じゃないとこんな事解りませんよ。それじゃ失礼します」

NA)
立ち去ろうとした時・・・

波留)「ではあなたの希望を叶えて差し上げましょう。あなたが言う事にも確かに一理あります。付いて来て下さい。私は犯人の居場所を知っています」

氷空)「・・・え?」

NA)
驚いた。
波留は犯人の居場所を知っている。
「なんでアンタが?」と疑問に思ったが、俺は付いて行った。
目的を遂げられるなら何でもいい。
俺はもう逆襲の心に支配されていた。

ト書き〈古ぼけたアパート前〉

波留)「ここです。犯人の名前は合田信二。現在30歳で無職。根っからの悪党です。これまでにも強姦・傷害の容疑で警察に何度も逮捕されて来ました」

氷空)「合田信二・・・そいつが犯人・・・。ここに住んでるんですね」

波留)「ええ。氷空さん。最後にもう1度だけお聞きします。犯人を、許す気持ちには成れないですか?法の裁きに任せる気持ちには成れないですか?」

氷空)「・・・何度も言った通りです。俺にその選択肢はありません。もし許す機会があるのなら、それは雪乃が生き返った時だけです。雪乃を俺の元へ返してくれた時だけです。でも現実には無理。俺は犯人を殺すしかありません」

波留)「・・・そうですか。分かりました」

NA)
波留は俺の為にいろいろな道具をくれた。
全て目的達成の為。
・相手を金縛りにするコールドスプレー
・合田の体を切り刻む為の様々な道具
そして最後のシメを飾る、棘の付いた絞殺用ロープ。
雪乃は絞殺されて死んだ。
だから合田の死も、絞殺する事で完遂する。

ト書き〈合田殺害〉

合田)「うわっ!な、なんだお前!?」

氷空)「合田ぁあぁぁぁああぁぁあ!!ぶっ殺してやるぅうう!」

NA)
俺は一足飛びで殴り込んだ。
合田は為す術なく速攻で金縛りになり、俺の前にヘタレ込んだ。

合田)「や、やめてくれっ、な、俺が悪かった!やめてくれ!」

NA)
俺は「自分が雪乃の恋人だった事」をこいつに告げてやった。
身動き取れなくなった合田は、散々俺に命乞いをして来た。

氷空)「同じように助けを願った雪乃をお前は、あれだけ惨く殺したんだろう?同じ目に遭って初めて分かる・・・。最低100回はぶっ殺す!覚悟しろ!!」

合田)「ひいい!ぎゃああぁぁあ!!」

NA)
23回目の拷問で合田(こいつ)は死んだ。
でも目的達成後、俺はさっきのこいつと同じように床にヘタレ込んだ。
暫くぼーっとしていた。
その内、俺の背後に波留が立っているのが分かった。

ト書き〈別荘「心の檻」〉

NA)
力の抜けた俺。
波留が俺をどこかへ案内すると言う。
ただ俺は波留のあとを付いて行く。
そして・・・

氷空)「こ・・・ここは?」

波留)「あなたの為に私が用意した別荘です。この建物は『心の檻』と呼ばれています。殺人を促した私にも責任がありますから、ご用意いたしました」

氷空)「・・・あなたは、一体・・・?」

波留)「私はあなたの『復讐心』と『救いを求める心』から生まれた生霊です。もう気付いていましたか?あなたの悲しみを少しでも拭う為に参りました」

波留)「この『心の檻』は異次元空間にあります。そう、今あなたと私が立っているこの場所です。誰もここへは来れません。つまり心の中と同じです」

波留)「どうぞここで穏やかに余生をお過ごし下さい。心の傷を癒しながら」

氷空)「心の傷・・・」

波留)「あなたの心の中には今、雪乃さんを亡くした悲しみの他にもう1つ、人を殺した事への罪の意識が芽生えています。その意識が心の中に傷を造り、あなたの今後を苛む筈です。あなたには今、こういう空間が必要なのですよ」

ト書き〈余生を送る〉

NA)
それから波留はいなくなった。
俺は今、彼女に用意された『心の檻』と呼ばれる独房で静かに暮らしている。

氷空)「・・・海か・・・。雪乃、お前と行きたかった・・・」

NA)
独房の窓の向こうに静かな海が見える。
ゆっくりと、波が行ったり来たりする。
でも退屈な海。
雪乃がいない今、俺の前にある海は目的を失った。
犯人を殺し、俺の中の熱さも今後の目的を失った。
ふと、神様の事を考える。
ここにいる以上、俺を裁くのはもう人間ではない。
神様だ。
俺は、天と地、神様と自分の縦の関係だけを考える。
「俺は果たして許されるのか・・・?」
笑顔の雪乃を思い出しつつ、それだけを問うように成っていった。

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