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メイドリーム

タイトル:(仮)メイドリーム

▼登場人物
●九世 猛(くよ たける):男性。47歳。独身サラリーマン。結婚したい。欲深い。
●猪津戸 明華(いのつど めいか):女性。20~30代。メイドとしてやって来る。
●部長:男性。50代。猛の会社の上司。一般的なイメージでOKです。
●岡田穂乃果(おかだ ほのか):女性。35歳。猛の会社の女子社員。本編では「穂乃果」と記載。
●月田美香(つきだ みか):女性。35歳。穂乃果の友人。遊び人。
●中尾保子(なかお やすこ):女性。30~40代。猛の夢と欲望から生まれた生霊。

▼場所設定
●カクテルバー:都内にあるお洒落なカクテルバー。保子の行きつけ。
●猛の自宅:都内にあるやや大きめなマンション。猛の部屋は4階辺り。
●街中:必要ならで一般的なイメージでお願いします。

NAは九世 猛でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは、誰かに尽くしてほしいと思いますか?
少し前にメイド喫茶なんて流行りましたね。
あれも女の子から奉仕して貰う男の喜びをテーマにしたもので、
商業的にも成功し、一世風靡した一大企業にもなっていました。
でも見方を変えればあのメイド喫茶というのも
人の欲望を上手く利用した隠れ商法とも言えるもの。
今回はそんなメイド…
自分に尽くして欲しい人がどうしても欲しい…
と乞い願った或る男性にまつわる少し奇妙なお話。

メインシナリオ〜

ト書き〈カクテルバー〉

猛「はぁ。俺にも尽くしてくれる人が居てくれたらなぁ」

俺の名前は九世 猛(くよ たける)。
今年47歳になる独身サラリーマン。

最近は晩婚の時代とも言われるが、俺はその結婚の兆しすらない。
こんな輩が多いのも俺は知ってるが、自分の事になると
やっぱり誰かと結婚したい。

いや俺の場合は理解者が欲しい…と言うのが本望で、
一緒に愛を紡ぎ合っていける誰かが居ればそれで良い…
そう思ってやまない自分が確かに居るのだ。

そして今日も俺は行きつけのこのカクテルバーで
いつものように愚痴を吐きながら飲んでいた。

していると…

保子「こんばんは。お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」

と1人の女性が声をかけてきた。
結構キレイな人ながら不思議な感覚の持ち主だった。

彼女の名前は中尾保子。
都内で恋愛コーチやライフヒーラーの仕事をしていたようで、
上品ながらどこか人を引き寄せる魅力がある。

そんな時だったから話し相手が欲しく、
俺はすぐ隣の席をあけ彼女を迎えた。

でも暫く喋っていると又もう1つ不思議な事に気づく。
それは彼女に対しては恋愛感情が全く湧かない事。
結構キレイな人なのに、不思議なぐらい身内の感じがしてきて、
よき相談相手…その印象がぴったりだった。

だからか、俺は自分の事を彼女に無性に打ち明けたくなり、
その他の悩みを全て彼女に告白していた。

保子「ご結婚を希望されてる、みたいな感じですか?」

猛「え、ええ、まぁ。こんな歳でこんなこと言ってて恥ずかしいんですけど、なかなかいっときからもう出会いがなくて…」

俺は普通に人生を送ってきたつもりだ。
ただ真面目に働き、出会いのチャンスを密かに待っていた。

でもそのチャンスが無い人には本当に無い。
これは男でも女でも多分同じだろうか。

すると彼女は相談に乗ってくれた上、
その悩みを本当に解決してくれようとした。

保子「そうですか、わかりました。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私がそのお悩みを解消できるようにして差し上げましょう」

そう言って彼女は持っていたバッグから
パンフレットのような物を1枚取り出し、
それを俺に見せてきてこう言った。

保子「そこに載ってるのは、私共がやっておりますヒーラー教室の提携社から派遣される女性の情報で、いわゆる家事手伝いをしてくれるヘルパーさんです」

猛「ヘ…ヘルパー?」

保子「ええ。あなたは先ほど『自分に尽くしてくれる人が欲しい』そうおっしゃってましたので、きっとそういう人がぴったりかと?」

猛「い、いや僕はヘルパーさんじゃなくて、結婚できる彼女が欲しいって言ったんですよ?」

保子「フフ、いえいえ、そう言った方でも実際お会いして一緒に過ごすようになれば、きっとあなたの心も変わり充実して、この人に出会えてよかった…と思えるようになりますよ。まぁ騙されれたと思って1度お試しになられては?」

彼女はやっぱり不思議な人だった。
普通ならそんなのはねつけるのに、
彼女に言われるとその気にさせられ信じてしまう。

猛「じ…じゃあ、お願いします」

ト書き〈翌日の夜〉

そして翌日の夜。
俺は会社帰りに又このバーへ来ていた。

明華「初めまして。どうぞよろしくお願いします」

猛「あ、初めまして。こちらこそ…」

俺はその夜、昨日言ってた女性を紹介された。
うちにメイドとして来てくれるその女性の名前は、
猪津戸 明華(いのつど めいか)さん。

とても清楚で可愛らしく、
本当にこんな人が来てくれるのか?
と少し疑う程だった。

保子「いかがですか?彼女、結構お気に召されたんじゃありません?」

猛「い、いやぁ、はは。そうですね…」

実際、心の中じゃ万々歳だった。
保子さんに言われた通り、彼女をひと目見るなりその気になってしまい、
「こんな人がうちにずっと来てくれたら…」
みたいな思いで、俺はその人に出会えて本当に良かったと思えた。

ト書き〈数日後〉

それから数日後。
俺の家には毎日、明華さんが来てくれるようになり、
家事はもちろん俺の話し相手になってくれ、
更にはレジャースポットにまで一緒に行ってくれたりもし、
なんだかホントにデートしてるような気分になれた。
こんな気持ち、本当に久しぶりだ。

猛「じゃあ行ってきますね?家の事お願いします」

明華「行ってらっしゃいませ。今日はお夕食にハンバーグ作っておきますから」

猛「ハハ、楽しみだなぁ」

明華さんは朝から来てくれて、
俺が会社から戻って少ししてから帰るようになっていた。
「こんなヘルパーのシステムが本当にあったなんて」
と俺は少し不思議だったが、
それより暖かな家庭を持てた事に喜びを感じ、
そっちの嬉しさのほうが勝っていた。

でもその日は部長に連れられて飲み歩きをし、
少し帰りが遅くなった。

部長「ヒック!いやぁ〜今夜も楽しかった。じゃあここらで帰るから、明日も遅れずにちゃんと来いよ」

猛「あ、はい!お疲れ様でしたぁ」

と言って別れたその店は、気づくとなんとあのカクテルバーだ。
俺の行きつけの店。
はしご酒をしている内にここに来ていたらしい。

そして少し飲み直して俺も帰ろうかとした時…

保子「あら、猛さん?」

と保子さんの声がした。

猛「あれぇ?あなたも来てたんですかぁ?」

それからお礼も兼ねて少し喋った。
でもそのとき彼女は前に紹介したあの明華さんの事で、
1つ俺に忠告してきた。

保子「明華さんの事ですけど、これだけは守って下さいね?彼女はお仕事であなたのご自宅に来て居ますので、勢い余って男女の関係を結ぶような事だけはしないで下さいね?」

猛「え?男女の関係?」

保子「ええ。文字通り、男と女がする営みの事です」

猛「あ、ああ〜。そう言う事ですか。アッハハ、大丈夫ですよ。明華きんは本当に僕の理想の人で、なんだか一緒に居るだけで幸せになれるんです。前にも言ってた通り、僕はどうもプラトニックな恋愛に憧れてたようですね」

猛「そんな欲望に身を寄せなくても、彼女と一緒に居るだけで幸せになれる…僕の生活は見違えるほど輝いてきたんです。大丈夫、あなたが心配されるような事には絶対なりませんから」

保子「そうですか。それを聞いて安心しました」

ト書き〈失恋〉

でも、それから数ヶ月が過ぎた頃だった。
俺は実は、密かに会社で片思いしていた人が居て、
その人に思い切って告白してしまったのだ。

これもきっと、明華さんが俺のそばに来てくれて、
女性に対する免疫を付けてくれた上、
心に生まれた余裕のなせるワザ…だったのかもしれない。

しかし…

穂乃果「ごめんなさい、私別に好きな人居るから」

見事にフラれた。
彼女とはそれまでどちらかと言うと
親しい付き合いをしてきたのもあり、
「もしかしたら…」と言う気持ちもあったので余計ショックだった。

猛「ハハ…分かっててもやっぱり落ち込むよなぁ」

でもその彼女が自分の友達を代わりに紹介してくれると言って、
その人に会ってはみたのだが、数日間、友達として付き合って挙句…

美香「じゃっあね〜、バイバ〜イ!」

と簡単に俺のもとを去って行った。
俺は彼女に散々貢がされただけ。
恋人が別に居ながら俺と付き合い、
ご飯を奢って貰ったりブランド品を買って貰ったりしただけで、
用が済めば俺は捨てられた…そんな感じに落ち着いた。

猛「…世の中の女なんてやっぱりこんなもんなのか…」

視野も心も狭くなり、俺は一瞬、世の女に絶望した。
でもそのとき不思議だったが、あの明華さんだけは
心に別の光を灯してくれた。

つまり「あの人だけは違う」そう思えて、
俺はその夜、急いで家に帰り、明華さんに会って慰めて貰おうとしたのだ。
情けない話だが、これは正直だった。

ト書き〈トラブルからオチ〉

明華「あっ、お帰りなさ〜い」

猛「明華さん!」

今日も明華さんは俺の為にご馳走を作ってくれて、
俺が帰るのをきちんと待ってくれていた。

それから俺はその日の事を明華さんに話し、
彼女はそんな俺の言う事を真剣に聴いてくれ、
一緒になって悲しんだ。
そんな彼女を見ている内に…

猛「め…明華さん…!」

明華「え…?あ、ちょっと何を…!」

俺は彼女を押し倒してしまい、抵抗されても男の力で彼女を抑え、
思いを遂げてしまった。

明華「グス…ひどい…。信用してましたのに…」

猛「え…?あ…ご、ごめん…」

彼女に真面目にそう言われ、
俺はつい自分のした事を思いきり反省してしまった。

でも彼女は次の瞬間…

明華「…フフ、謝らなくていいわ。ここまでしたんですから、あなたにはそれなりの責任を取って貰えれば、私としてもそれは本望ですから…」

猛「え…?」

そう言ってユラリと立ち上がった。
そして…

明華「私の全てを奪ったのですから、猛さんあなた、私を貰ってくれますよね?」

猛「え、えぇ…!?」

明華「『えぇ』じゃないでしょ?当たり前の事。じゃあ行きましょうか?私と結ばれた以上、私の実家にも来て頂かないと…」

そう言って彼女は俺の手を取り、ドアの無い筈の
ベランダへ連れて行った。

猛「ちょ、ちょっと明華さん…!一体何を…!?」

明華「ここから私のウチへ行けますから…」

猛「う…うわぁああぁ!!」

手を引かれながら気づいたが、俺はどうもその時、
自分の意志で行動する事がもう出来なかったらしい。
ただ彼女に従う形で俺の体はどんどん動いていく。

そして彼女はベランダまで俺を連れて行き、
4階の部屋から一気に地面に落ちた。
そこで俺の意識は飛んだらしいが、
2人の姿は落ちた筈のその地面のどこにも無かった。

ト書き〈2人が落ちた辺りの地面を見ながら〉

保子「ふぅ。やっぱりこうなっちゃったか。私は猛の夢と欲望から生まれた生霊。彼の理想を叶える為だけに現れたけど、欲望のほうが勝っちゃったわね」

保子「明華さん、彼女がどこからやって来たのか。それは敢えて言わなかったけど、教えといてあげたほうがよかったわね。彼女は文字通り、冥土からやって来たのよ。名前を少し入れ替えたら解ると思うけど、『冥土の使い』なんてよく出来た名前よね」

保子「だから彼女の実家はこの世には無い。責任を取って貰う為に彼女は猛を自分の実家、つまり冥土にまで引っ張って行っちゃったんでしょうねぇ。この地面の下にあるのかしら?メイドと言っても尽くされ過ぎると却って欲望が出て、逆に尽くさなきゃならない立場に置かれるなんて。おぉこわ…」

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