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監視恐怖症

監視恐怖症
信仰生活を送る家族が在った。毎週日曜日には、教会へ行き、そこの人達との会話を楽しんでいた。
 家族は三人で、両親に男の子一人である。その男の子は小説好きで、日本の小説をたくさん読んでいた。一冊読んでは、その感想をノートに書き、それを投書したり親に見せて楽しんだりしていた。
 彼は心の中で、その考えた感想を言ったりすることが親孝行のひとつだ、と思い、いい事だと思っていた。哲学を好んで読み、好きな作家の本を読み漁っていた。彼はその生活とは別で、日常の生活に少し飽きていた。毎週教会で十戒を読んでいる彼にとって、欲望は例えようもない誘惑に見えたのだ。それを障害だと、毎日のように自分に言い聞かせていた。だが、人間に神が備えたものである欲望だ、と思ってしまえば、その矛盾は肯定せ去るを得なかった。一人でいる時は、少し自殺を思い、それは自分の事だけで済むので、少しは気が楽だった。だが横に人がいると、それが親でも、気遣いは止まなかった。

 彼は、或る日を起点として、部屋に籠り勝ちになった。部屋では、自分の好きな音楽、人のミュージックビデオ、本、を見たり読んだりして、存分に一日一日を楽しんでいた。その起点から近い日々は、その生活の先に何か楽しいことがあると、彼は思っていた。だが、その繰り返す日々が多くなってゆくにつれ、その思いは薄れていった。或る朝、ひとり目覚めて、好きな音楽をかけて同時にビデオをつけた。すると寝起きのせいでその音がうるさく聞こえ、彼は両方とも消した。「この生活を繰り返していても、何もない」と同時に思い込んだ。彼は、部屋で黙って、暫くを過ごした後、母親に「風呂に入る」と言い、着替えを持って入って行った。その母親は、毎日、彼がひとりで部屋に籠っていることを少し気にしていて、何も言わない彼を良く思っていなかった。しかし、その時は、「自殺」など頭にはなかった。彼は、その夜、風呂場で自殺を謀った。ずっと気にしていた母親は、その時間の遅さに咄嗟に気付き、風呂場にかけ寄った。父親に電話して、すぐに救急車を呼び、病院へ行った。彼は助かった。
 その自殺の前後での彼は、あまり変わらなかったが、両親は神経質になった。一人っ子の為、彼に夢を託していた両親は、牧師や、教会の人達に相談して、その神経質を少しでも癒そうと試みた。「彼の得意なことを伸ばしてやりなさい」、「いつも見ているのは、余計彼にとって良くない」、「どこか家族で旅行してきなさい」...、慰め方は様々であった。両親は毎日聖書を読み、彼と一緒にお祈りをしていた。彼の心の中には、やはり以前と変わらず、生きていく、ということに価値が見付けられない自身の状態が存在した。
 そんな或る日、その自殺の噂を耳にした友達が一人、彼の家に遊びにやって来た。両親は、平日ながらに家に居り、その友達をこころよく迎え入れた。彼の部屋に上がったその友達は、励まそうと、流行本や、又盛り上がらせようと、いやらしいビデオなどを持って来ていた。彼は、そのビデオを、流行本を見た後に見て、その友達を見ながら寂しくなった。その時、彼は、やはり自殺のショックが少し在った為か、あまり器用には頭が回転していなかったのだ。
 
 自分と彼とでは、やはり住む世界が違っている、と思い込んだ。そして、その夜、彼は、家族三人で食事をした。その時、彼は両親に言った。

「これからはもうあんなことしないから、ずっと二人して見るのはやめてほしい。真面目になろう、にもなれない。頼むから..」

と。

 両親は喜び溢れ、不安はその時の喜びが消していた。父親は翌日から仕事に出掛け、母親も買い物、友人の家などに出掛けた。彼は誰もいなくなった家に一人いて、寂しかったので、友達に電話した。すると、その友達は、居ない、と返答が返って来た。

 彼は、ポスターを見ながら、今はもう死んで居ないその人に憧れて、自分もそうなって楽になりたい、と願った。そして、この流行について、現実について、の細々したことを思い続ける自分を、殺した。誰も家には居なかった為、彼はすんなり死んだ。

動画はこちら(^^♪
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