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文体練習1

 砂にかいたラブレター


ふとしたはずみの 車中の国の寝起き人
齢は木の芽時やがて緑濃くなりゆく頃
空と海が出会う
見はるかしゆく大気の奥行き薄雲の絣(かすり)
海野は忌憚なく只々茫漠
穴居にも似た隔壁の車中
砂浜へと誘われいでる彷徨の途上
そこは若草なす艶やかなる馬の背
山裾の日陰のスミレに精霊が祝福を
白神の断層崖はこと途切れ
渓流が生命の源流へと出逢うところ

 五能線が比較的長い区間に亘り寄り添い道路が伸びる、その果てあたり。
 小川の上をレールが走る小さな桁橋が沿線界隈所々にある、ありふれた様相を呈する砂浜。

 登場人物がひと休みするため車から降り波打ち際をそそくさと散歩していると、なにやら文字が書いてあるように湿った砂地がささくれ立っている所が前方に見えてきました。
 近くまで寄ってみるとこう書いてあります。
「たつやにあえない」


 こ、こ、こっ、これぽ、言い間違えた、これはーーっっ、
歌の文句や海外ポップスの邦題の中だけでは聞いたりしたことがある、
所謂、砂にかいたラブレターというやつの一種族ではあーりませんか。
 そういうものは、何度か波が打ち寄せかき消されてしまう場所にするものと相場が決まっているわけで、必然それ故普段はヒトの目に触れることがないのである。
 が、これは目測を見誤ったのか大分陸路寄りの場所に当たり前だがなにかで掘ったように書かれておるのだっ。

 保存状態がよい絶滅が懸念される無形文化方面での歴史を微塵たりとも揺るがさない大発見であるに違いない。
 地方でひっそりと担い手がいまだに生息していたとは。
 しかも直面しているこっちが掻痒感で相当に恥ずかしくなる筆致の底力、
ただならぬその宿され匂いたってくる情念。
 これほどになるまでには、そこいらの棒切れで文字を残して行ったその者、きっとタイガーマスクが在籍していたような養成に関するその道の特殊機関で修練を積んだに相違ない。
 断崖絶壁から蹴落とされ這い上がる訓練、
 とっさのいまわの際にその度毎回ショックを受け女々しいモードに移行する馴染み耐性獲得回避実習、
 シュミレーターによるつらつらと砂地に文字を連ねるこころのパワー温存配分仮想編入、
 存外なことにハネトメハライ小学生向けドリルを友達宅に出向き、夏はカルピスを飲みながら、
 パーコレートオスティネートによる無重力弾性お控えなすって拙者演習など、多岐にわたるメニューをこなしたことだろう。

 早速インスタントカメラチェキをしゃにむにアウトドアコートから取り出した私は、カメラを向けられている「たつやにあえない」の文字が恥ずかしさでもうここに居られなくなるくらい熱心に、あるだけのフイルムをすべて費やし、芸能レポーターの職業的心意気のメッカはここですから皆さーん集合時間はこれこれで、とツアーの旗印を掲げるような気分で撮影をした。
 張り切っても出来はどれも似たようなものなのだが。
 この中の何枚かを秘め事丙種連絡保存学会、いやむしろ
そんないいことちょっとけしからんでしょう委員会にむけ何としても報告をいたさねば。
 私はそんな架空の滑稽な役回りの話を頭の中で巡らた。


 撮影が一段落しそうこうしてるうちに、、ん、なんか変だな?
これってどこか変てこりんで不自然なとこがあるような。

 よく見てみると彫られた文字の近くその傍に、黄土色で半透明なプラスチックの袋が、風に飛ばされぬよう砂で縁をとめられており、その袋には「パン屋 たつや」と印字がある。

 ん?あれ、もしかしてもしかして、、はたと考えることになった。

 若い男の子のグループがドライブの道行きのお供にどこかにある、たつやというパン屋で軽食を購入した。
 そしてこの海岸で菓子パンかなんか食べながら雑談で、話題がテレビドラマなどのことに及んだ。
 ドラマの筋書き上よく主要登場人物の女子が
「そっか、あえなくなるんだあ。」
と知り、敢えてのことではあるが海岸で書いたりするよね、と、そのありがちな重い所作行為を、少し再現してみようぜと。
 そういう悪ふざけをここでやっちまったのかなあと。

マチュピチュに単身赴任でああだこうだで会えないんだ、、とかね。


 なるへそ、そういうことにしといた私、旅の先を急ごっと、にしとくのであった。

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