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下ごしらえですでに寂しい

浜松在住の美術作家 夏目とも子さんとギャラリーとの共同作品の公開制作も、そろそろ終わりに近づいてきています。

夏目さんの後ろ姿を見つめながら、壁の色が劇的にあるいは静かに移り変わる瞬間に立ち合うなかで、電車の進行方向とは逆向きに座っている光景を何度か思い出していました。

過去に向かってページをめくる感覚。
名残惜しいという感情と、次に向かう高揚感。

前の色と次の色が交錯する瞬間を撮り溜めながら、終わりがあるから、その瞬間に煌めきを感じるんだろうなあ…と。(まあ、至極普通の感想ですが)

祝祭の始まりと終わりを色が変わるたびに感じ、それは1ヶ月のあいだ繰り返され、半分トランス状態のようでもありました。幼少期に祭りのトランス状態を体験していたことも、トランスに入りやすい性質を生んでいたのかもしれません。

(もちろんノンアルです。この現象を脳内酒気帯び運転と勝手に名づけている)

半分である理由は、私が行為者でないことが主な理由ですが、プロジェクト自体の主体は私であるから、積極的傍観者の立場にならざるを得ないため、半分トランスだったんだと思います。

なお、夏目さん自身にトランス状態が訪れていたという話しではなく、あくまで私個人の状態を述べています。

とはいえ、スマホごしに映る祭りの非日常空間の背後には、ありふれた日常がガラス越しに透過され、それは日常のなかに非日常が浮島みたいに現れてるのか。非日常なかに、なんでもない日常が現れているのか。赤瀬川原平の缶詰の作品…〈宇宙の罐詰〉まで意識が遠のき、はっと我に返る。

ギャラリーの横を走る道路は、街道とバイパスを繋ぐ生活道路で、先を急ぐ車が往来し、登下校や出退勤、散歩をする老若男女が行き交う。

作家も私も、この壁の前に立つまではいつだって日常の住人であるし、制作中も身体的な動きを伴う制作行為以外では、訪れた人と言葉を交わすし、ご飯も食べるし、排泄もする。

祭りの神事を司る宮司ではないけれど、全ての色を塗り終え、後片付けをする夏目さんを見ながら、祭りの終わりと重ね合わせてしまいました。

祭りの終わりって寂しくて、胸が苦しくなる。これからギャラリーを始めるために、始めた事だけどひとつひとつは確実に節目を迎えて次に向かうから、寂しいなんて言ってらんないけど。でも、この寂しさを大切に、丁寧に味わいたいと思います。

公開制作中は、夏目さんの作家仲間や壁の作品をずっと追いかけていた方々、ときたま書房の出展者さん、お客様、そしてギャラリーを支えてくれている家族の、見知らぬ表情がその時々の壁色と共に記録されています。
まだ記憶が新しいので、あの写真たちが私の記憶にどういった質感を残すのかわからないけれど、そこに写る人にも何か記憶が残ってくれたら嬉しいな。

最後に…
白って200色あんねん。って言ってた人も、白の後ろにこんだけ色が重なってるって思わないよな。そんなこと誰が想像するんだろう。白い壁の背後にある色を考えるなんて、なかなかない。
夏目さんの後ろ姿はさながら塗装職人のようだけど、こうやってぐるぐるまとまらない言葉の海へ人を投げ出すんだから、美術の人であるんだよな、とまた当たり前の前提に立ち返り、ひとまず区切りの言葉に。

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さて、ギャラリーの入口を塗っているのは、4/20から始まるリニューアルオープン展示で、実際に来場者の方にギャラリーの壁を彫刻刀で削ってもらうため、その下ごしらえになります。

【探す、 刻む、 包みこむ/ギャラリーの壁をつくろう
ギャラリー蔵×夏目とも子】

●日程
2024.2/26(月)〜5/6(月)

・塗る:2/26〜4/19

\ リニューアルOPEN展示/
・削る:4/20〜5/6

・観る:5/7〜6/30

・包みこむ:7/1〜7/7

●場所
ツインギャラリー蔵  “サンルーム”
静岡県浜松市西区入野町1104
入場無料・駐車場有(約30台、他店と共同)
遠鉄バス20 番線 入野行「東彦尾」下車、南すぐ(20分ほど)


夏目とも子
@tomoko_natsume

ツインギャラリー蔵
@twingallerykura


既存建築物の壁を使った現地制作や、場所の持つ歴史や生活感を拾いながらインスタレーション表現を続ける浜松在住の美術作家、夏目とも子。
ギャラリーのリニューアルに際し、協同した作品を公開制作する。本作品は、新たなスタートを表す記憶の杭としての役割を担う。

表面の白い層を削ると、幾重にも塗られた色層が現れ、刻む手の力加減によって深さが変わり、思いもしない色の線が生まれる。人々の刻んだ線は静かに繋がり、やがて埋め戻される。建物の記憶は、そこに存在しない人々の痕跡をうっすらと滲ませる。
来場者によって刻まれた線は、目には見えない形でギャラリーを内側から包み、この場所を訪れる人々をそっと見守り続ける。

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