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【演劇】【稽古の仕方改革 草の根プロジェクトの検証結果発信_No.7】こんなにある、稽古改革が果たされたら見込める「変化」

(※第一期プロジェクトの最後の発信になります。)

(1) はじめに

◇【稽古の仕方改革 草の根プロジェクト】の第一期プロジェクトは、当初の想定期間どおり2022年7月にて終了いたします。演劇界に稽古の仕方の新たな選択肢を増やすには、当プロジェクトの貢献度はまだごくわずかですが、今後も第二期・第三期とプロジェクトを展開していくつもりです。

◇第一期プロジェクトとしてはおそらく最後となりますが、当まとめでは、演劇界において稽古の仕方改革が果たされた場合、どのような「変化」が見込まれるかについてまとめたいと思います。
(※これまでの発信でも、稽古改革が果たされた場合のメリットについて小見出し単位では書いてきましたが、改めて稽古改革によって期待できる「変化」を軸にまとめます。)

(2)稽古の仕方改革達成後に見込める様々な「変化」

①収入面の変化

◇時として長期に渡る昼夜連続稽古などへの対応のため、現状多くのプロ志向の演劇人は、生活費の為の(仮の)仕事についてはシフト制のものを選択しているという現状があると思います。
また、公演によって昼中心、夜中心、あるいは昼夜兼行等々、様々なスケジュールが見込まれる稽古に対応する為、仮の仕事であってもあまり長く継続できないという方も多いようです。やはり、この状況には改善の余地があると思います。

◇ここで、次のWebサイトをご覧いただきたいと思います。
https://www.e-aidem.com/clp/pay/0113_pay.htm#ank_time02
e-アイデムがまとめた、職種別の平均時給・平均月給の一覧表でして、画面左側が時給の一覧です。様々な座組に参加してきました自分の知見では、演劇人がよく従事されている仮の仕事は『飲食系』『販売系』『コールセンター系』などかと思いますが、上記ページに掲載の各業種の時給は、次のとおりです。
飲食系:1160円 販売系:1186円 コールセンター:1599円 (2022.7上旬参照時点)

◇コールセンターが中々の高時給である事が目に留まりますが、ともかく、上記職種の共通点は「シフト制で就業できる」という事かと思います。言うまでもありませんが、稽古に参加しながら当座の生活費をまかなうには、融通のきく仕事を選ぶ事がかなり強く求められますので、上記のような職種が選ばれるのだと思います。しかし、ここが業界を大いに改善しうるポイントだと思っています。

◇これまでは、稽古スケジュールに対し演劇人各自が自分のスケジュールを合わせてきたわけですが、これからはもっと、稽古スケジュールの方が演劇人にとって無理のないライフスタイルを思い描けるよう、変わっていくべきではないでしょうか。
もしそのように稽古のあり方が変わったとしたら、演劇人は「シフト制でできる仕事しか選べない」状況から解放され、仮の仕事の選択肢が拡がるという変化が見込まれます。

◇ふまえてかなり具体的にはなりますが、『シフト制縛り』から解放された場合に筆者として一つ提案したいのが「オフィスワーク系」の仕事です(あまりシフト制の勤務がない職種です)。時給の面で言うと、上記e-アイデムのページによれば「オフィスワーク・事務」の平均時給はなんと1680円です。単純比較にはなりますが、飲食系の平均時給と比べると520円違います。1日8時間労働で4100円/日の収入差、月に何日労働するかは演劇人それぞれですが、仮に月20日労働の場合ですと月間の収入差は82,000円にもなります。体力的な負担が少ない事も演劇活動へのプラス材料だと思います。

◇家計の財政事情が改善するという事は、(プロを目指す道のりとしても)演劇活動に注力するハードルが1つ低くなることを意味するかと思います。 仮の仕事選びにおける『シフト制縛り』からの解放は、演劇界にとって非常に大きな可能性を秘めていると考えます。

②創る側の演劇人口増加という変化

◇以前の発信で取り上げていますが、衝撃的な事実ですので再度言及しますと、2019年に観客動員数が年間約1000万人にまで拡大したJリーグ(※J1-J3総計)ですが、30年前の観客動員数はわずか88万人でした(※Jリーグの前進にあたる日本サッカーリーグの1991-92シーズン)。
歴史的に言うならばほんの30年前まで、サッカーはマイナースポーツレベルの観客しかいなかったわけです。ここまでの大変化には様々な要因があるかと思いますが、チーム数を積極的に増やしたことはかなり効果的だったと言えそうです。1991-92シーズンに12チーム体制だったものが、2021年にはJ1だけで20チーム、J1~J3合計ですと57チームにまで拡大されました。一言でいえば、プレー人口増加を起点とした、業界の『すそ野拡大』が果たされたわけです。

演劇界においても、創る側の人口が増えることは業界拡大の可能性を大いに、大いに秘めています。競争は激しくなるでしょうが、演劇レベルの向上が見込めますのでむしろ好都合と言えるでしょう。そのためにも、対応する人が限られてしまう現状の稽古の仕方の改革は必要であると考えます。
(※日本サッカー界に関する情報は、Wikipediaなどから参照しました。)

③「ワークライフバランス」がより図られるという変化

◇頑張って芝居の活動をされている方ほど「あるある」なのではと思いますが、よい芝居創りのため稽古にしっかり参加し、なおかつ演劇活動ができる態勢維持のため、当座の生活費のための仕事もしっかりやる、というライフスタイルの演劇人はかなり多くいらっしゃると思います。
アクティブである点は大いに結構ですが、体力面・演劇人としての創造性の面の両面で疲弊してしまう事が懸念されます。筆者もそうですし読者の皆様も伝聞経験があると思いますが、そうした疲弊によりぷっつり糸が切れたように演劇活動を辞められる方がおられ、その実数は少なくありません。

◇「企業の働き方改革」が一定以上実証していますように、働き方(≒演劇活動)をよりプライベートとバランスがとれたものに変革していく事は、その業界に携わる人の心身の充実をもたらし、結果的にその業界の最終的な成果物(≒演劇活動でいえば演劇作品)のクオリティを向上させることが大いに期待できます。先述の②にも関連する所ですが、創る側の演劇人口減少の歯止めにもつながります。「ワークライフバランス」を図るという事は、単に演劇人の生活の質向上だけなく、演劇作品の質の向上も見込めるのです。

④演劇活動の武器となりうるスキルの習得機会が得られるという変化

◇①で述べた演劇人の状況に付随する側面ですが、様々な期間・時間帯が想定される稽古に対応するため、生活費のための当座の仕事は転々とせざるを得ないという方が結構いらっしゃいます。この状況は、一定期間ある仕事に継続従事すると見込まれる、「職能」を獲得する機会を見込めない、という事も同時に意味します。

◇この「職能」というものが、なにげに演劇界をより良いものに変化させ得るカギだと思っています。世に職業はあまたありますので、「職能」と呼ぶべきものもあまたですが、その中には演劇界に有力な化学反応をもたらすものが必ずあるでしょう。

◇これを書いている時点ですぐに思い浮かぶところでは(ランダムですが)、グラフィックの技術、映像加工・編集スキル、会計処理の知識・・等々ですが、これらは既知のものであり、その他にも演劇に寄与しうる様々な「職能」が必ずあるでしょう。それらの「職能」は、演劇に対しこれまでになかったアイデア・創造性・演劇が世にインパクトを与えうる力を注いでくれるに違いありません。

◇これまでは演劇に「一所懸命」専心することが美学だったかもしれません。しかし、考え方次第で当座の生活費の仕事も演劇活動にとってとても有力な武器になりうるという事だと考えます。

⑤別の芸術ジャンルなどで活躍する方等、これまで演劇界になかった才能を持つ人がより流入しうるという変化

◇アーティストによっては、ジャンルの垣根を越え複数の芸術分野で活動を展開される方がいらっしゃいます。その方の創造性が1つの表現形態にとどまらないものであるからこその所業だと思いますが、ともかく、その方が図らずも「橋渡し」役をつとめている双方の芸術分野には、それまでになかった影響が相互に交わされている事でしょう。興味深い芸術の化学反応の様相です。

◇そうしたところ、演劇という芸術分野はどうでしょうか。すべての劇団・座組がそうだとは言いませんが、公演という成果を得るための稽古は、現状ですとそれに参加するためにかなりの時間的拘束を求められます。その拘束の度合いは、他の芸術分野と並行しての活動は難しいのではと思えるレベルです。

◇これまで当プロジェクトの検証にて一定実証してきましたが、昼夜連続稽古を低減する(稽古予定の組み方次第で実現可能性大)、稽古にシフト参加運用を取り入れる(こちらも稽古の計画的スケジューリングで実現可能性大)といった方策を立てれば、稽古参加における時間的拘束の低減が見込めます。そうすることでもし、別分野で才能を発揮しているアーティストの方々が演劇に参画する機会が増えるのであれば、演劇界に新たな創造性の新風が吹き込まれることは間違いないと思われます。

(3) まとめ

◇以上、稽古の仕方改革が果たされた時にどのような「変化」が期待できるか、 「変化」を軸にまとめました。何やら夢物語的な綺麗事を列記したように見えるかもしれません。しかし、他の発信にても触れていますが、筆者は「企業の働き方改革」の『改革前』と『改革後』の大きな変化を現場の一労働者として目の当たりにしました。そこから、方法を変えればその業界の環境は大きく変わりうるものであり、既存のあり方を踏襲しているだけでは得られない、業界の常識が鮮やかに刷新され、その業界が活性化する有様を実体験しました。

◇「稽古の仕方改革」と掲げると、何やらハードルの高いことを目指しているように感じるかもしれませんが、それほど遠大な事でもありません。例えば、昼夜連続稽古が長期間続いて対応する人が限られるなら、昼夜稽古を何日間か夜のみ等にして、その分日数は増やしトータルで同じ稽古時間を確保すればいいと思うのです。「香盤表」を活用して稽古予定を総合的に組んでみて、ある稽古日に出番がない役者さんがいれば、その日は稽古に出なくてもいい運用を幅広く敷けばいいと思うのです。そうしたことを積み重ねていくことで、多くの人が対応しやすい稽古の実現と、公演のクオリティ向上が見込める質の高い稽古の実現が一挙両得で達成されていくはずだと信じています。

【稽古の仕方改革 草の根プロジェクト】発起人 森将和

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