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わたしたちは本当の「悪」について知らない。【Netflixドキュメンタリー3選】

4月から完全にテレワークになり、はや5ヵ月あまり。この間、一番なかよくなったヤツ…と言えばそれはやっぱり「Netflix」なのです。

とは言え、そんなに毎日毎日リッチな作品を見続けるのには、結構なカロリーが必要なわけで。
もともと結構使い倒してたのもあって、はやばやと「いやドラマはもうお腹いっぱいです」みたいになり、点けてるけど見てない人。になってました。

で、すでに見終わってる「ブラックリスト」とか、流しとく。
あ、ブラックリストはおもしろいだけじゃなくて、使ってる楽曲がすっごくいいんですよ! 本当にセンスよくてエモ渋いんです。(同僚にそう言ってすすめたんだけど、誰も刺さってくれなかったけど…)

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とまあ、そんなこんなで、ビッグデータにノイズ混ぜる人みたいになっておりました。北米のDBにノイズ混ぜる初夏かな。

人間、それほど延々とコンテンツは消費できぬものだな…
美食と同じか… 満腹っつーか、飽きるっつーか。

と達観チックに過ごしていたところ、最近すこし仕事的に「人間の悪意」とか「邪悪さ」について知識を深めたいな…という状況になりまして。
「それならNetflixでドキュメンタリー見たらいいんじゃないか?」と思いついて、見始めたわけです。

そして自分の視野の狭さにちょうびっくりしました。
めちゃめちゃおもしろいじゃないですか、Netflixのドキュメンタリー。

これまでもネイチャー系はちょこちょこ見てたのですが、今回漁りまくった犯罪もの、ダークなやつの「なにそれマジ初めて知るんですけど…」感がハンパない。わたしが知識が浅薄なこともあるとは思いますが、本当に「この世界に…そんなことが…?」と、ふるえる。

ということで、みんなふるえるがいい。
「人間の“悪”に触れる、傑作3シリーズ」です。


潜入!世界の危険な刑務所

ひとつめなので、ライトなヤツから。
こちらは「ジャーナリストのラファエル・ロウが、世界各国の様々な刑務所で1週間、おもに囚人として過ごす」という、ちょっと聞くとふわっとした体験レポートものっぽく思えるシリーズ。

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ところがどっこい、そんなもんじゃない。
なにがって、「刑務所」が!
「危険な刑務所」と謳ってるだけあって、もうとにかく、自分が想像してた刑務所イメージがいかに貧弱かを思い知るしかない。
この、数々のヤバいムショを前にすると。

ほら、そのへん調べずに普通に生きてると、日本とかアメリカとか、せいぜいがフィリピンあたりの激混み刑務所くらいしか知らないじゃないですか。

そんなんじゃないんですって。そんなヤワじゃないんですって。暴動も脱走も洗脳も、麻薬売買やら拷問まがいの処遇までなにがあっても不思議じゃないんですって。

まさにこの世の地獄。
みたいなムショも出てきます。
もう、わたしそんなところ入ったら秒で死ぬ! みたいな。

でもそんな刑務所に収監されてる囚人も、同じ囚人目線で見れば普通の人となんら変わらなかったりするわけで。ラファエルが一緒に炊事当番をする右隣も左隣も殺人犯だけれど、全然普通。会話も普通。
そりゃ「犯罪者が悪そのものって存在じゃないだろ」とは頭ではわかっているものの、実際に様々な国の何十人もの重犯罪者の喋りを聞いて見て感じるのとはやっぱり全然違う。

そしてこのシリーズをずば抜けたものにしているのが、レポートするラファエル・ロウ。なんと彼自身が「冤罪によってイギリスの刑務所で12年間服役していた」という経歴を持ってるんです。
うーん、この経歴はナメられない。なんてキレッキレのキャスティング。
そして多分そんな彼の言葉だから、すごく実感こもってリアルに伝わります。(ちなみに、ラファエルのレポートはシーズン2からです)

世界のムショ事情と囚人の生き様に詳しくなれる、おすすめシリーズです。


ワイルド・ワイルド・カントリー

この事件のことは、ほんのちょっとだけ知ってました。
「昔、インドのカルトがアメリカでコミューンを作ろうとして大騒ぎになった」という1行知識として。あー、昔そういうの流行ったんだもんね、ヒッピー文化の一端なアレよね、くらいの知識として。

違った。
とにかく、スケールが違った。

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インド人のバグワン・シュリ・ラジニーシを象徴とするこの共同体は、通常のコミューンのレベルをはるかに超えた「自分たちの理想郷」を、本当に作っちゃったんです。
あっという間に、自分たちだけでインフラまで整えて、街を作っちゃったんですよ、オレゴンの荒野に。
そしてそれを行政区にまでしちゃうんです。「ラジニーシプーラム市」っていう市を作ってしまう。正直、すごい。

それで当然というかなんというか、地元住民との摩擦がおこる。
「彼ら(バグワン信者)は純粋な悪」とまで言われる。
それを乗り越えてその荒野に存続するために、彼らは群や果ては州の乗っ取りまで夢想し始めるのです。自衛のためと称し、武装もし始める。

ある意味、アメリカ中から悪と見なされていたその行い。
そんなスケールの戦いを起こせる、その元となった彼らの欲求のスケールが、大きいのか小さいのかもうよくわからない。

このシリーズには、かつてその団体に所属していた幹部が複数登場して当時のことを語るのですが、その中のひとりでバグワンの秘書マ・アナンド・シーラが、それを理解するカギなのは間違いないんです。理想郷は彼女が先頭に立って押し進めたからこそ実現している。

彼女はどうやって、その狂った情熱をそこまで大きくできたのか。
世の中は「増大した権力欲ゆえ」と見なしているようなのですが、このシーラを見ていると、どうもそれだけとは思えない。欲か? 愛か? 憎しみか? いや、無関心か? あるいはサイコパスなのか。

ぶっちゃけ、わからない。この人のことが。
最後のシーンまで見終わってシーラについて思ったのはひたすら、それでした。

自分にはなんというか、そのように想像さえもし得ない、不透明な心が存在する。それを悪と世界は呼んでいたけれど「本当にそれはただの悪だったのだろうか」とふと思ってしまう。(あ、犯罪自体は悪ですよ)

人の心と欲求と、悪の成り立ちについて考え込む、おすすめシリーズです。


殺人犯の視聴率

本当にドギモを抜かれました。
何にって、ブラジルという国の闇の深さにです。
こんなものすごい闇を抱えたまま、国として成立して、人々が生き暮らし営み、繁栄しているのはすごいことなんじゃなかろうか。

ブラジルって。いや、社会って。人間って。なに。
みたいなキモチになれます。なってしまいます。

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このシリーズは、自らが司会を務める長寿人気番組「カナルリブレ(犯罪レポートを主とした情報バラエティみたいな感じの番組)」の視聴率のために、司会者ウォレス・ソウザが「犯罪集団のボスとして裏で様々な犯罪行為を指揮していた」とされ、糾弾される流れを追っていきます。

…もうこの時点で、つっこみどころだらけのフィクションか! と思うじゃないですか。視聴率のために人を殺すとか。
でも、間違いなくリアルにあった騒動で。

ウォレスは番組のおかげで「正義の味方」として人気ものになり、政界にまで進出するのですが、上記の疑いを掛けられたあとは怒涛の人生が待っています。

しかしその疑いが、ほんと、「疑い」。
明確な証拠でなく、人々の証言によって事件は展開していくんですが、なにしろ、出てくる人間がどいつもこいつも、全く信用できない。

怪しいから信用できない、とかではなくて、出てくる人達それぞれの言うことの、なにが嘘で、なにが本当なのか、全然わからない。

さらに警察も政治家も、どこもかしこも腐っているように見える。
それも日本みたいなライトな腐り方じゃない。他所の国のこととはいえ、その腐敗っぷりには惜しみない怒りを感じられるほどの、もうでろでろのずるずる、別の物質に変貌しているかのようなすんごい腐り方です。

もしかしたらウォレスは、その途方も無い腐り方と本当に戦おうとしていたんじゃないだろうか? とも思えたりします。
でもわからない。どいつもこいつもわからない。

そしてブラジルの人は、そんなでろでろとずるずるが根幹に居座ってるのが日常の世界で、多分ナチュラルに(麻薬密輸ルートの街なので、日本なんかよりははるかに苦労は多いかと思いますけども)生きてる。
でもそんな街だから、みんなウォレスに希望を託した。

その現実に、その世界が存在することに、ドギモを抜かれます。
リアルの多様さに、ドギモを抜かれます。

人の闇の底知れなさを垣間見せてくれる、おすすめシリーズです。


ライン

この3つは本当に、自分の知らないなにかを見せつけてくれました。
見てよかった。

次点としては以下なんかもあります。どっちもとてもおもしろかったですが、悪意としては自分の想像を超えなかったので、次点どまりです。
「殺人者への道」
「邪悪な天才:ピザ配達人爆死事件の真相」

またすごいドキュメンタリーに出会えますように。
かしこ。



Photo by Peter Forster

おかしかっていいですか。ありがとうございます。