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生誕100年、フェデリコ・フェリーニ監督をかじってみた

映画部の宮嶋です。

「フェリーニって、生誕100年なんだよねぇ」。私ども映画部の部会でポワッと話題に上がった巨匠“フェデリコ・フェリーニ”の名前に、わたくし思わず目をそらしてしまいました…。1920年1月20日生まれで、まさに本日が生誕100年記念日のフェリーニ監督。“映像の魔術師”と称されるイタリアの巨匠。実は、恥ずかしながら観たことがなくて!

映画部には、大学などでちゃんと体系的に映画を学んだうえで得意分野を持っているメンバーもいるのですが、私などは個人的興味と偏愛に引き摺られて気づいたらここにいたクチなので、案外“巨匠系”がスポンと抜けていたりします。

だって、“映像の魔術師”って言われても、なんだか敷居が高いし。“フェリーニ”っていう響きがもう、エンタメっていうよりアート感あるし。旧作感あるし。

でも、せっかく100年の記念イヤーだし。せっかくU-NEXTにはフェデリコ・フェリーニ監督作品がなんと12本も(オムニバス含む)揃っているし。この機会だから、少しかじってみました。

…全然敷居高くなかった、です!

それぞれ、作品の登場人物にとても愛嬌があって、全然スノッブではありませんでした!作品ごとに濃度は違うものの、すべてにほのかなウィットとユーモアがあって、フェリーニの人となりが垣間見えるような作品たちでした。

まず代表作のひとつ『道』(1954)。

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旅芸人(俺様男)と相棒の女の子(ピュアで愛嬌満点)のロードムービーであり、男と女の想いの行き違いの物語であり、なんといっても「男ってやつは…」的な話でもありました。おもわず「人生ってバランスとタイミングだよね」と登場人物の背中をさすってあげたくなるような…。相棒の女の子がめちゃくちゃ魅力的なのですが、このジュリエッタ・マシーナという女優さん、フェリーニが重用した女優であり、そして妻でもあります。

個人的には、彼女の出演したフェリーニ作品では、『カビリアの夜』(1957)のほうが好きかもしれません。

カビリアの夜

こちらでは彼女は強気で健気な娼婦を演じていて、その立場ゆえさまざまな切ない状況にむきあうわけですが、彼女の愛嬌や明るさがあるからこそ、それでも生きていくこと、それでも人と関わっていくこと、人生への肯定感がまっすぐ伝わってきて、本当に素晴らしいです。

それから、こちらも代表作とされる、映画監督を主人公に据えた自伝的な作品『81/2』(1963)、これはまたちょっと違う面白さで。

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浮気性な上にスランプ中の映画監督と、その周辺の人々…たとえば、作風の相性のよくない作家、台本の解釈がおかしい俳優、売り込みが激しすぎる女優、若い愛人、それに、ロケ場所に乗り込んでくる妻。口説いたり口説かれたり、キレたりキレられたり、嘘をついたりつかれたり。ユーモアというよりもちょっぴりシニカルさがあって、妙に現実的な生々しいセリフのシーンと、幻想的で構築的なシーンが同じくらいの重みで、自然につながるように演出されているのも面白くて。

そういう意味では『甘い生活』(1959)も、当時の映画業界とその周辺のセレブたちを描いた作品。

甘い生活

彼らの身勝手さや、地に足のついていないライフスタイルを絢爛に、でもちょっぴりシニカルに描きつつ、一方でその裏には私たちと同じような生々しい私生活があることを、かなり早いテンポで見せていく…。

この2本は、監督の、自分ごとや自分の身内ごとさえも客観的に遊べるセンスがすごいなぁ、と唸らされる作品でした。

フェリーニ監督のこういった笑いや皮肉のセンスがどう磨かれてきたのか。実は、若い頃のフェリーニは、ローマで風刺漫画やコラム、それに時々コメディ台本などを書く仕事をしていたそうなんです。その後、活躍の場を映画に移すと、夜な夜な車で街へ繰り出し面白そうな人を後部座席に乗せて、彼らの人生を根掘り葉掘り話を聞く、ということをしていたそう。街の上から汲み上げた市井の人々の現実を、得意のウィットに包み、美しく映像化する(“映像の魔術師”と呼ばれるくらいですから!)ことで、フェリーニ流の人間賛歌にしあげていたのですね。

ちなみに、そんなフェリーニの人生が描かれている映画が『フェデリコという不思議な存在』(2013)。

フェデリコという不思議な存在

これはフェリーニ監督作ではありませんが、長く盟友だったエットレ・スコーラ監督が、実際の映像をふんだんに使いつつ、フェリーニの実像を描いた作品です。

ほかの作品にも、それぞれ発見がありました。たとえばフェリーニ初のカラー作品『魂のジュリエッタ』なんかは、パステルカラーの使い方(特に白の使い方!)がとても特徴的なので、ソフィア・コッポラファンのかたにも観てみてほしいなぁ、とか。

魂のジュリエッタ

『フェリーニのアマルコルド』はイタリアの港町のノスタルジーがあるので『マレーナ』の雰囲気が好きだった方におすすめしてみたいな、とか。

アマルコルド

後期作品は基本的にスタジオセットにこだわって撮られていて、少し三谷幸喜監督作品的な箱庭感があるぞ、などなど。

今回私は、フェリーニ監督が生誕100年ということで集中的に観てみたわけですが、いつもはやっぱり「今、観なければならない作品」にかまけてしまって、自分が生まれる前の名作はどうしても「いつかね…」と思ったままマイリストに入りっぱなし、ということが多くて。

でも、時代を超えて今も評価されている古い映画って、淘汰されているだけあって、やっぱり猛烈に面白い。そして、今回の投稿ではあまり触れていませんが、とにかく映像センスが超絶でビックリする(しつこいですが、やっぱり“映像の魔術師”なんですよ!)ということに気づかされました。

そしておそらく、繰り返し見ることでまた違う味がしてくる作品なんだろうな…という気がしています。今回私は、ザクザクっとひと口ずつかじった程度ですが、何度も観て咀嚼していくと、きっとまた違う側面から語ることができる作品であるような気がします。

昔の作品、観ていかないともったいないなぁ、と。せっかくU-NEXTには洋画クラシックから昭和の名作映画まで取り揃えているので、今年は少し、そういう作品にも手を広げていきたいと思います。


【今日ご紹介した映画】
『フェデリコという不思議な存在』(2013/イタリア)はこちら
“映像の魔術師”フェデリコ・フェリーニ監督作12作品はこちら