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【夢日記】#25 天狗と天女


爽やかな青空の下、元カレとホテルの最上階にあるテラス席でイタリアンランチを食べていた。なんて気持ちいいんだろう。隣の席では仲睦まじい老夫婦がランチをしている。目が合うと奥様が柔らかい笑顔で話しかけてくれた。もう結婚して半世紀だそうだ。あなたたちは?と聞かれたので、腐れ縁なんですと少し恥ずかしい気持ちで答えた。

夜、私たちは空飛ぶ絨毯で夜の高速路を飛行していた。8車線はあるだろう広い道幅のその高速路は、海のど真ん中を貫いて、ただただ真っ直ぐ永遠に続いている。星もない暗闇で、白い蛍光灯だけが路面を照らしている。
ものすごいスピードで進んでいるはずなのに、夜風はゆったりと肌をかすめ、髪もさらさらと穏やかに揺れている。
私たちの他には誰もいない。

しばらく進むと遠くに真っ赤な天狗が浮かんでいるのを見つけた。
私たちは天狗に合わせて乗り物の高度を上げた。
近づくと、想像よりもうんと大きな天狗だった。
「いつもありがとうございます」
私は日頃の感謝を天狗に伝えた。
すると、正面を向いたままだった天狗は、ちらりと目だけを動かして私を確認し、また正面に向き直った。
乗り物はまたスピードをあげて天狗を通り過ぎた。あっという間の出来事だった。
乗り物は左右に大きくゆれながらまっすぐ進み続ける。

湖にたどり着いた。
私はひとりになっていた。
山に囲まれたその湖は、蒼白い月に照らされ、この世の果て、もしくは起源であるかのような神聖な雰囲気を漂わせていた。
その瞬間、時間がピタッと止まった。音も温度も湿度も匂いもなくなり、ただ視覚だけが私として生きているような感覚になった。
すると、湖上にひらひらと薄ピンクの羽衣を纏った女性が現れた。
天女だ。
静かに漂うその神々しい姿は、見ているだけでこの世の全てを包み込んで肯定してくれるような、そんな気分にさせてくれた。話しかけたい。が、声がない。でもどうにかして何かを伝えたい。
私は、話す代わりに、彼女のために短歌を何十首も作り、頭の中に浮かべた。きっと伝わっただろう。そんな気がした。
すると、天女ははらりといなくなっていた。
私はひとり静かな湖畔に取り残された。


2023/3/5

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