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読書記録『ドーン/平野啓一郎』

今年22冊目。
大好きな作家さんの一人、平野啓一郎さんの本を読んだ。


〈あらすじ〉
「分人」が初めて概念化された、記念碑的近未来小説。壮大でスリリングな世界観の快作。
2036年のアメリカを舞台に、人類初の有人火星探査に成功した英雄的クルーたちが、ミッション中に起きた「とある出来事」のために、熾烈なアメリカ大統領選に巻き込まれてゆく壮大な物語。顔認証技術と組み合わされた防犯カメラのネットワーク「散影」など、現実的/哲学的な未来予測の数々が、文学の内外から注目された。『決壊』後の「では、どうやって生きていくのか?」という問いに対し、平野が出した答えは、人格の複数性と他者との共同性とを結び合わせた「分人主義」だった。暴力が蔓延する世界で、愛と希望を模索した快作。Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。

(平野啓一郎 公式サイト引用)

ドーン

「ディヴ」とは「dividualism」(分人主義・個人が場所や対人関係ごとに多数の顔を持つこと)の略。

ディヴ は、キャラみたいに操作的 operational じゃなくて、向かい合った相手との協同的 cooperative なもの
人間は、ディヴをそれなりにたくさん抱えて、色んな自分を生きることでバランスが取れてるんだと思う。

これは肝に銘じておきたい。
また、自分がもっと理解を踏まえた上で、この先自分と関わる生徒たちにもなんらかの形で伝えられたら、もっと生きやすくなる子もいるのでは、と思う。

「人を好きになるって、……その人のわたし向けのディヴィジュアルを愛することなの? それを愛するわたし自身もその人向けのディヴ? 分人? インディヴィジュアル同士で愛しあうって、 ひとりの人間の全体同士で愛しあう って、やっぱり無理なの? そこに拘るのって、……子供じみた、無意味なことなの?」

一人の人間という個体の中には、いくつもの分人が生きている。
どれが本物?ではなく、そのどれもがその人である。
いくら恋人であれ、全ての顔を知ることは不可能であるということ。
でも、自分以外の人に見せる分人としての顔がある、と思うとそれが当たり前とはいえヤキモキするよねぇ。


しかし、《ドーン》のドキュメンタリー映像を見て、リリアンの前での明日人を見ているうちに、彼女は、自分は彼の中の一番 つまらない ディヴとだけ、これまで長い時間を過ごしてきたのではという思いを禁じ得なくなっていた。 〝ふつうの人〟なんです。──彼女の目にはそう見えたが、それは彼が、佐野今日子という〝ふつうの人〟のために用意したディヴに過ぎなかったのではないだろうか。
あなたが私に、何か強い影響を及ぼすとします。しかし、私はその影響を、直接に個人 individual として受け止める前に、私の中で、私の母との間のディヴ、父との間のディヴ、妻とのディヴ、大学時代からの親友とのディヴ、恩師とのディヴ、その他すべてのディヴを通じて検討できます。

そうして、不当と感じたり、受けつけたくないと感じれば、処分するか、あなたとの関係にだけ、限定しておけばいいのです。  
しかし、もしそのあなたとのディヴを、母とのディヴや友人とのディヴが気に入れば、リンクします。受け容れるでしょう。

私は、そのあなたとのディヴを、ベーシックなディヴとして、他の人間との関係にも採用します。

──そう、その時つまり、私は 変わった ということではないでしょうか?あなたの影響を受けつつ、最後は内発的な決断によって。 私が理解している限り、分人主義 dividualism というのは、そういうことです。

つい最近も、親しい友人から「なんか優しくなったな、柔らかくなった」って言われた。
それはきっと、自分が出会った誰かとの分人の影響であり、その分人の割合が自分の中で今は大きいんだろうなと、自分なりに解釈した。

結局、人は人の中で生きているし、その中でしか生きていけない。と思う。


人間は、社会に有益だから生きていて良いんじゃない。生きているから、何か社会に有益なことをするんだ。
「誰も自分の中のすべてのディヴィジュアルに満足することなど出来ない。しかし、一つでも満更でもないディヴィジュアルがあれば、それを足場にして生きていくことが出来るはずだ。君がどうしても、自分の中にそれを見出せないというのであれば、私のところに来たまえ。こうして向かいあって話している君は、なかなかの好漢だと思うがね。……」

これ、すごく良いなと思った。
そんなこと言ってみたい。



〈感想〉
作者:平野さんと、読者:自分の相性は、スロースタートだと思う。
今回の「ドーン」は今まで読んできた平野作品の中でも、特に前半意味不明だった。何が言いたいのか、面白い展開にもならないし、正直なんだこれは?何を伝えたい本なんだろう?って思ってた。

でも、50%を越えた頃からだんだんそれぞれの人たちのエピソードが繋がってきて、読むスピードが一気に上がった。
アメリカが舞台だったから、とにかく登場人物の把握が難しかった。最後の最後まで、この人はどっちだっけ?って考えながら読んだ。

全体を通しても自分に向けられた「ガツーン!!」とくるメッセージ性は、他の作品と比べても弱かったけど、最後の最後は、涙がつたーって流れた。
難しい。感情移入が容易くない作品だった。

でも近未来をテーマに書かれた世界や、”監視”の行く末とかは興味深かった。
今回のは特殊すぎるケースとはいえ、愛ってやっぱり難しいよ。
「難しい」にせず、言語化したいところだけど…(笑)

やっぱり「分人」って考え方が好きすぎる。
完全に自分の中で、超重要な価値観・考え方になってしまった。



このTED動画オススメです。
平野さんが話してる。

「愛とは、誰かのおかげで自分を愛せるようになること」

あなたのことが好きです。と言われることも嬉しいけれど
あなたといる時の私は私は好きです。って言われることも、最上級に嬉しい言葉だと思う。


”分人を生きる”とはそういうこと。


自分という存在が、誰かにとってその人自身を肯定できるキッカケになれるほど、光栄なことはないし、それは生きがいにもなり得る素晴らしいこと。

自分が幸せになるため、より良い人生にするために、自分を磨くだけじゃなくて
誰かを、その人も気づかないような深い部分で、そっと救えるような人間・人格・存在になれたら。


良書でした。
まだ読んだことない他の平野作品も買います。


愛ってなんやねん。


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