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コラム 「堆肥の選び方・つかいかた」

 自然的な栽培を目指す家庭菜園で、生態系を再現しようとした場合、そこには動物が足りない事に気づくでしょう。その代わりに市販の動物由来の堆肥を畑に入れる事を検討するかもしれません。
 
堆肥はうまく使えばプラス効果がありますが、素性を調べずに、土づくりに良さそうだからと闇雲に入れてはいけません。
 その原料の家畜ふんは基本的に産業廃棄物で、堆肥にするまでの手間の掛け方は千差万別、ハズレを引く可能性もあるからです。


堆肥の素性を見極めろ

 基本的に人間から餌をもらっている家畜の堆肥は、「土壌改良材」ではなく、低成分の「微生物入り有機質肥料」として考えて扱う方が無難だと思っています。必要以上に毎年入れ続けると養分過剰になる事が想像されます。

 これから畜種ごとに堆肥を説明をしますが、まずは基本的な理解として
 
1.  原料の排泄物=人間が与えた飼料の残りカスである
2. 原料には、厩舎の床に敷く「敷料・副資材」が含まれることが多い
3. 発酵などで水分低減や腐熟・乾燥処理を施されている

 この3つが、動物が自然界に落とすフンと堆肥では大きく異なっている点です。

鶏ふん堆肥

 採卵鶏(レイヤー)と食肉鶏(ブロイラー)由来の2種類があります。餌の消化吸収率が低く、未消化の飼料の成分がそのまま反映された有機配合肥料に近い堆肥。
 卵殻を作る炭酸カルシウムや肉骨を作るリン酸カルシウムなど、鶏種によって餌の添加物が異なる。無機添加物の影響でレイヤー堆肥は石灰分が多め、ブロイラー堆肥はリンサン分が高めなど、特徴を理解した上で使い分けるとプロっぽいです。

 ブロイラーは品種改良が進み、酵素剤も第4世代へ進化中。より効率良く少量の餌を肉に転換できるようになった結果、鶏ふん堆肥の含有肥料成分は減る傾向にあります。また、餌由来の亜鉛含有量が高めなのは、案外知られていない事実です。

 堆肥化の手間やコスト負担が敬遠されがちなため、製品によって発酵鶏糞といっても敷料の腐熟度がバラつく点に注意が必要です。
 ブロイラーふんは比較的成分が高いため、焼却灰が肥料原料に使われています。低成分のレイヤーふんは堆肥として捌ききれないものは、二束三文で海外に有機肥料として輸出されていたりもします。

豚ぷん堆肥

 食肉用として濃厚飼料を食べて肥育されています。鶏・豚は反芻動物ではないので、主な飼料である穀物や大豆に含まれるフィチン態リンの利用が不十分なまま排泄されやすいです。   
 ミネラルと結合し難溶化しやすいフィチン態リンを植物が利用するためには、根圏微生物の助けが必要になります。

 鶏・豚の飼料には、フィチン酸からリン基を分解して取り出すフィターゼが添加されており、餌の消化吸収率が改良されているため、肥料成分的はブロイラー堆肥同様に減少傾向にあるでしょう。
 敷料はオガ粉が入手困難になってきていることで、様々な副資材や戻し堆肥(堆肥の水分を落として敷料として再利用)が使われるようになってきています。

 豚の餌には、体を大きくするため銅や亜鉛を添加されることがあります。豚ぷん堆肥を使う場合は、これら重金属がさらに濃縮されている可能性があります。特に銅は過剰になると根の発達を阻害することがあるので注意が必要です。

牛ふん堆肥

 乳牛と肉牛由来の2種類があります。肉牛は幼少期は胃を大きくするために牧草を与えられ、大人になると穀類主体の餌となります。乳を出す為大量に水を飲む乳牛の排泄物は水分が多く、敷料が多く使われておりCN比は高めになっています。

 ウッドショックやバイオマス発電の影響でオガ粉などの木質材が入手困難になり、戻し堆肥・古紙・キノコ廃菌床を使うなど、農家もコスト削減の努力をしています。土づくり効果が高いと一般的に言われている牛糞堆肥でも、昔と違って業者によって副資材由来の有機物の種類がバラバラな点に注意が必要です。

 また、海外でイネ科作物の栽培時に使われる除草剤クロピラリドの影響で、イネ科の輸入飼料を与えている業者の堆肥を使うと、感受性の高いトマト・ナスや豆類に生育障害が出る可能性がある点にも注意が必要です。

馬ふん堆肥やレアな堆肥

 馬は牛よりも餌の咀嚼が甘く、敷料の含有比率も高いためCN比が高いです。
 現役競走馬の堆肥の場合は、有刺鉄線など異物で馬が死んだりすると賠償金額が恐ろしい事になる為、細心の注意を払って最高級牧草や敷き藁が使われており、原料の素性は確かだと思います。食肉馬の場合は、飼料は肉牛に近いものです。
 ちなみにミミズをよく増殖させるには牛ふんよりも馬ふんの堆肥が良いようです(Terlemezら、2020)。

 動物園が近くにある場合には、ゾウふん堆肥が手に入る可能性があります。馬ふん堆肥のように、土壌改良効果も高そうで個人的には使ってみたいです。
 ゾウの堆肥の山の中には、カブトムシの幼虫がたくさんいるようで、CN比が高いんでしょう。余談ですが、この蛹を塩茹でするとカニみたいでめちゃくちゃ美味しいと何かで読んだ記憶があります。

 草食動物のふんを堆肥化する際には、醗酵時の温度が上がりにくいため、米糠など副資材が添加されている可能性があります。副資材が気になる方もいるかもしれませんが、腐熟度合いが低いと餌由来の雑草種子が畑で発芽する可能性があることもあるのでこれも要注意です。

よく発酵させた堆肥を選ぼう

 動物の排泄物は、未消化の餌だけではなく、体内にいた多量の微生物が排出されたものが何割かミックスされた塊だという点で、籾殻堆肥やバーク堆肥といった植物単体の堆肥とは異なっています。

 自然界であれば、そこで食まれた植物の残骸であるフンと土が動物に踏まれて混ざり、周りの土壌微生物も活性化、その場所全体の有機物の分解が進みます。これをプライミング効果と呼び、畑の腐植増加や団粒構造を作るのにプラスに働く効果があると言われています。

 一方で家畜ふん堆肥は餌や敷料・発酵プロセスもまちまちであり、餌の添加物・微量金属が、土壌微生物の活動にどんな影響を及ぼすかはまだ研究段階です。
 縦型コンポスターを使った堆肥は比較的腐熟が進んでいるが、野積み発酵では、何回切返したか・好気性か嫌気性発酵だったかで含まれる微生物も腐熟度合いも大きく変わってしまいます。

 排泄物は産業廃棄物なので、手間をかけずに減量して処分・販売するかが業者の主眼となっています(堆肥を作るために家畜を飼育しているわけではないので)。

 良質な堆肥を継続的に手にいれるには、素性をよく調べておく必要があるということです。素性が分からない場合は、含まれている敷料の腐熟度合いで類推するしかないでしょう。次に説明をする理由で敷料の原型が残っているような未熟堆肥を避けることを推奨します。

堆肥で活性化する菌はさまざま

 有名なイェール大のHandelsman氏のチームは抗生物質を投与されていない牛の堆肥を使った場合であっても、土壌中に抗生物質耐性菌が増える事を報告しています。(DNAが検出された=必ずしも畑に生きた耐性菌がいる事ではない点に注意)

 これは牛の体内微生物叢そのものが、抗生物質耐性遺伝子の貯蔵庫のようになっていることが要因だと推測されます。そもそも抗生物質のルーツは土壌微生物だということを考えれば特に不思議ではないです。

 類似研究においては、他の畜種でも同様の傾向があり、好気性かつ高温で発酵させた堆肥の場合は耐性菌の増殖が少ないことも報告されている(Xuら、2020)ことから、完熟堆肥を選ぶべきと考えられます。

 増える菌の種類は未知数ですが、堆肥が皆さんの家庭菜園全体の菌活を盛り上げる可能性を秘めているのは間違いありません。
 ただの気休めに過ぎないかもしれませんが、私は家畜ふん堆肥を使う場合は、投入予定地の刈草や土と混ぜておき、好気的な条件で更にワンクッション追熟させ、堆肥をその土地に根ざした微生物叢と馴染ませてから使う、“ぼかし”的な堆肥の使い方を心掛けるようにしています。


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