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【前世の記憶】戦死したパイロットの過去を語り出す息子


悪夢を見る息子

アメリカ・ルイジアナ州に住むアンドレアとブルースには、ジェームスという息子がいる。

ジェームスは健康で問題のない赤ちゃんだったが、2歳になった頃から悪夢を見るようになる。まるで誰かに殺されるかの如く怯えたその姿は、映画エクソシストを彷彿させた。

そのうちジェームスは、

「飛行機が墜落して燃えている。小さい男が脱出できない」

と、何度も繰り返して言うようになる。

アンドレアは、なぜ幼い息子がそんなことを言うのか分からず、ショックを受けた。

ブルースはどういうことなのか解明すべく、その飛行機に何が起きたのか息子に問いただすと、撃たれたのだと言う。そこで誰に撃たれたのかと聞くと、「日本人」だと答えた。

ブルースはさらに聞いた。なぜ日本人だと分かるのかと。するとジェームスは、「大きくて赤い太陽」と言う。旭日旗を指しているのだろう。

何故そのような詳細なことが言えるのか、不思議に思ったブルースはさらに質問を続ける。ジェームスが乗っていたその飛行機はどこからきたのかと。

ジェームスは船からだと言い、その船には名前があるか聞くと、

「Yes, Natomaだよ」と答えた。

ブルースはその単語を聞いたことはなかったものの、日本語っぽい名前だと言った。するとジェームスはあきれたような顔で、「違うよ、アメリカの名前だよ」と言う。

ブルースはインターネットで調べてみる。護衛空母のウェブサイトによると、第二次世界大戦中に確かにNatomaという船は存在していた。正式名は、USS Natoma Bay CVE-62で、硫黄島での戦いを支援した船だ。

あまりの奇妙さに夫婦は困惑した。アンドレアはその夜眠れなかった。幼い息子がどこでこのような情報を得たのか。一晩中考えていたが、まだ2歳のジェームスは、飛行機が墜落し得ることさえ知らないのでは?と考えた。

戦闘機と空母

翌日、そのことを母親に話すと、ジェームスは前世の記憶を持っているのではないかと言われ、ショックを受ける。

アンドレアから生まれ変わりの概念を聞いたブルースは、「前世の記憶のはずがない、そんな話は信じない。もし信じてるならそれが間違いだと証明する。」と言った。

そんなブルースも週に何度も繰り返されるひどい悪夢に、息子の心理状態を思うと涙を流した。原因はどこかにあるはずだと、ブルースは調べるべく、退役軍人協会にも連絡をとった。

日が経つにつれ、ジェームスの悪夢は頻度を増し、週に数回から毎晩に変わっていった。

3歳になると、飛行機が墜落して燃える絵を描くようになる。その絵には爆弾が落とされていて、全てがバラバラになる様子が詳細に描かれていた。3歳の子が描く絵なのにだ。

アンドレアは母として、どのように対処したらいいのか分からないでいた。

ある日ブルースが、乗っていたのはどんな飛行機か覚えているか聞くと、ジェームスは「Corser」だと答えた。

「Corserは速くて敏速性がとてもよかった」

しかしブルースの調べでは、Natoma BayはCorserを搭載していなかった。ブルースは、息子の記憶はたわ言だと言い、生まれ変わりなどないと結論づけるが、アンドレアは何かがあるに違いないと思っていた。

ある日、ジェームスに「あなたの記憶に小さい男が出てくるけど、前世のあなたの名前は何?」と聞くと、名前はジェームス、名字は分からないと言う。

それをブルースに話すと、「ジェームスは彼の名前だからな。その記憶がなんであれ、最終的には乗り越えるだろう」と言った。

ブルースは前世など信じてはいなかったが、第2次世界大戦で空母で命を落とした人のリストを見つける。空母Natoma Bayで亡くなった18人の中に、ジェームス・ヒューストンという人物がいて、硫黄島での戦いで命を落としていた。

空母Natoma BayがCorserを搭載していないことに疑問を感じていたものの、これにはブルースも恐怖を感じた。アンドレアは詳細はどうであれ、それが答えだと信じていた。

前世の姉

ジェームス・ヒューストンの写真が見たくなったアンドレアは、6週間ほどのリサーチの後、ついに彼の姉、アン・バロンを見つける。

アンに電話をかけた時は、とても緊張していた。「あなたの弟がうちの息子に生まれ変わっています」などと言ったら、電話を切られてしまうだろう。そこでアンドレアは空母について調査していると伝え、ジェームスの写真を送ってくれるか聞いてみると、「もちろん、喜んで」とアンは快諾してくれた。

送られてきた写真は8〜9枚ほどあったが、その中の1枚は、ジェームス・ヒューストンが、Corserの横に立っているものだった。ジェームス・ヒューストンは空母Natoma Bayに配属される前に、Corserを搭載した海軍部隊で働いていたのだ。

全てのことに説明がついた。息子ジェームスが何度も繰り返し語っていたことは、その場に居たものしか分からないことだった。他に説明がつかない。

家族は、ジェームス・ヒューストンの姉アンを訪問する機会に恵まれる。この訪問は息子にとって重要なことで、何かが変わるのではないか、と感じた夫婦は、アンを訪問した。この時点では夫婦はアンに、息子ジェームスの言動について知らせていた。

アンに会うとジェームスは、「アニー」と呼び、肩を組んだり、とても心地よさそうに過ごした。弟ジェームスも生前、アンのことをアニーと呼んでいたと言う。

子供の頃の経験を描写するジェームスに、アンは大きなショックを受け、おそらく弟の生まれ変わりだろう、と言った。ミステリーは解決し、次に進めると感じた瞬間だった。

追憶の儀式

夫婦は、日本の父島に行って、飛行機が墜落した場所から追憶の儀式をしなくては感じていた。家族は日本へ飛んだ。

東京で綺麗な花束を買って船に乗り、父島へ向かう。ジェームスがどんな反応をするか予想がつかなかったが、特に何の感情も見せていなかった。

アンドレアは息子に言った。

「ジェームス・ヒューストンはあなたの人生において重要な人物で、これからも変わらない。でもお別れをする時よ。ジェームス・ライリンガーとして生きるために。」

ジェームスは悲しい感情を見せ始める。

海の中へ花を投げると、ジェームスは立ち上がり、

「ジェームス・ヒューストン、僕はあなたを忘れることはありません。」

と言って、敬礼をした。

そして座り直すと、20分ほど泣いた。

決別

ジェームスは追憶の儀式をしたことで、一つの区切りをつけたようだった。港に戻ってきた時には、肩の重りが取れたように様子が違っていたからだ。息子はジェームス・ヒューストンとは別人だと自覚し、決別したのだと感じていた。

アメリカに戻ってから数日経ち、外食をしている時にキッズメニューの裏にジェームスはある絵を描いた。そこには空母Natoma Bayとたくさんの鯨や鳥、飛行機が描かれていた。爆弾はひとつもない。船や飛行機の絵はそれが最後だった。ひとつの区切りがついたと、両親が確信した時だった。

14歳になったジェームスは当時を思い返し、こう話している。

「ジェームス・ヒューストンへの別れには計り知れない悲しさがあった。僕の人生の最初の半分は、ジェームス・ヒューストンだったから。別れを告げるか、最善を尽くしながら共に生きるかの選択だったけど、別れを告げるしか方法はなかったように思う。あの記憶のまま日常生活を送ることはできなかった。」

ジェームスは、いつか科学者たちによって輪廻転生が証明されることを願っている。


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