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ショートショート「割れたインターネット」(約860字)

 皆がインターネットを使っている。わからないことがあれば、検索する。インターネットを通じて友達とチャットする。電話もする。こんな世界になってからもう数十年がたった。
 どんな国も、情報工学に力を入れ、研究を進めている。インターネットは、人類の偉大な子供なのだ。誕生してから、丁寧に育てている。
 多くの人間が、様々な言語で、インターネットに情報を書き込んでいる。
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どんな情報だってあるのだ。そして、インターネットの情報は雪だるまのように増えていく。でも、どれくらい大きくなっても、インターネット自体は見えないし、触ることもできない。学者たちは、そこに魅力を感じ、研究に熱中するのだろうか。
 ある日、インターネットが割れた。意味が分からないだろう。でも、インターネットは確実に割れたのだ。音がしたわけでもない、誰かが落としたわけでも、殴ったわけでもない。割れたのだ。どんな検索エンジンにも、こんなメッセージが表示されている。
「【警告】インターネットが割れました。修復が必要です。」
このメッセージは、検索エンジンに限らずインターネットを利用しているすべてのものに表示される。
 学者たちは、頭を抱えた。だって、意味が分からないから。「インターネットが割れる」という表現すら意味が分からず、混乱していた。とりあえず、インターネット上の情報のコピーをとることにした。
 作業は進む。しかし、バックアップ作業は、思っていたより早く終わってしまった。そして、学者たちはインターネット上の情報が一部なくなっていることに気が付いた。本当にインターネットは割れたのだ。そして、割れ目から情報が漏れていったのだ。学者たちは、漏れ出た情報を探そうとした。でも、探せるわけがなかった。

 割れたインターネットは、未だに表示を出していている。
「【警告】インターネットが割れました。修復が必要です。」
漏れ出た情報は見当たらない。インターネットは空っぽになってしまった。

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