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ショートショート「ゼロカロリーの食事」(約770字)

 日本という国は、他の国に比べて食に関してのこだわりが非常に強いらしい。日本食は、世界に誇れる無形文化遺産であり、世界中の人々を魅了している。
 そんな現代で、画期的な日本料理店がオープンした。その名も「ノンカロリー」である。なんとゼロカロリーの食事を提供するお店らしい。小さな都市の繁華街に店を構えていたが、たちまち行列店となった。客たちは、最初は興味本位でお店に入ったのだが、そのゼロカロリーの食事はとても美味しかったのだ。
 とても美味しいが、ゼロカロリーである。その話題は日本中にまで知れ渡った。そして、そのお店はチェーン展開を始めた。どこの街の人々も怪しんでいたが、すっかり虜になってしまう。ダイエットをしている人々は、何度も何度もそのお店に通うのだ。
 そのお店は、日本だけでなく世界に向けてもチェーン展開を進める。魅力的な日本食がノンカロリーで食べられる。疑うまでもなく、海外の人々も虜にしてしまった。
 やがて、ノンカロリー料理研究家なる肩書の人たちが、テレビに出るようになった。家庭でもおいしいノンカロリーの食事がとれるのだ。ゼロカロリーの食事は、いまや当たり前のものとなった。
 人々は、ゼロカロリーの食事を作り、食しながら、世界がおかしな方向へ進んでいることに薄々気づいている。人間という生き物は、高カロリーの食事を容易に手に入れることができたから、他の霊長類より進化したというのに、ゼロカロリーの食事に夢中になっている。分かっていいても、止まらないのが人類だ。
 栄養失調で倒れる人々で溢れた世界に、新たな霊長類が現れた。人類は、それらを「旧人類」と呼んでいる。旧人類は栄養をあまり必要としない。分類学上、人類に近いのだろうが、人間と比べて知能がだいぶ劣るのだ。あまり賢くない彼らの良いところは、争いをせず平和な生き物であるということだろうか。

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