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小説『くらし絵日記』 (20/20)

20.そして次の世代へ…

月日は巡り、今年もまた冬がきて、正月を迎えることとなった。ボクは18才になり、高校を卒業して、ある電機メーカーの子会社に就職した。
ユニオンにも入った。
そして僕は家を出て別のアパートに住み、自立した。

その後、ボクは職場で彼女を見つけ、少し交際した後、すぐに婚約者となった。
彼女のお腹にはボクの子、つまり赤ちゃんができたことが、つい最近分かった。
ボクらはもうすぐ結婚するつもりだ。結婚式の準備も二人で考えているところ。
両親とも、それを知ったとき、ただ微笑んで
「おめでとう」と言ってくれた。
孫ができたことを喜んでいたようだ。

あの時の父ちゃんたちの団体交渉の成功の後、家の暮らし向きは少し良くなったけれど、まだ決して、十分楽な生活とは言えなかった。
それでも、古くなった家の建て替えだけは、賃上げのおかげでメドが立っていた。

毎日の生活に追われて、母ちゃんは顔に少しシワが見えるようになり、父ちゃんは髪に少し白髪が交じるようになった。
母ちゃんは最近、だいぶ視力が落ちてきた、というので心配だ。
父ちゃんは最近、年のせいか涙もろくなってきたって言ってる。
それでも二人は仲睦まじい夫婦で、笑顔を絶やさなかった。

ボクが、嫁になる久美子と共に、両親に結婚を報告したときも、二人は微笑んでくれて、父ちゃんは、ちょっと涙ぐみながら笑みを浮かべていた。

後日、あわただしく結婚式も済ませ、やがて月が満ちて息子が生まれ、ボクら夫婦は一児の親となった。名前は「幸平」と付けた。父ちゃんの名前から一文字借りたんだ。

再び、今度は幸平も連れて実家を訪れる。
両親とも、もちろん初孫との対面を心待ちにしていた。近所の人たちを呼び集めて、ボクたち家族の来るのを待ってくれていた。
孫の顔を見た時の感動はひとしお、父ちゃんも母ちゃんも嬉しさのあまり、わっと泣いてしまった。

それからボクたちは記念写真を撮った。
家に集っていた皆で、横一列に並んで、手をつないで。
父ちゃん、母ちゃん、和子、和生、ボク、久美子と幸平、米山さん、住田さん、そして和生のつくった雪だるま。シャッターは衣川さんが押してくれた。
明るい日差しの下、まだ雪が少し積もっている大地を踏んで。みんな、素敵な笑顔だ。

ボクはこの集合写真をアルバムの中に、一生大事にとっておこう。
そう、昔あの日、母ちゃんから譲ってもらった子供部屋にあった、あの古いアルバムに。

            
             —おわり—
                 (2012)


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