【展示レポート】塩田千春展
森美術館の塩田千春展に行ってきました。
ベルリンを拠点にグローバルな活躍をする塩田千春は、記憶、不安、夢、沈黙など、かたちの無いものを表現したパフォーマンスやインスタレーションで知られています。個人的な体験を出発点にしながらも、その作品はアイデンティティ、境界、存在といった普遍的な概念を問うことで世界の幅広い人々を惹きつけてきました。なかでも黒や赤の糸を空間全体に張り巡らせたダイナミックなインスタレーションは、彼女の代表的なシリーズとなっています。(公式サイトより)
たくさんの作品があったのですが、私の中で印象深かったものを3点あげます。
まず、1作品目。
真っ赤です。
展示空間の天井まで、赤いです。
形が微妙に異なる、鉄製の舟が6隻ほど。
そこから、赤い糸が噴き出しているかのようです。
入り口から入ってすぐの作品で、
「えっ、最初からこんなにいいもの(本来なら最後に出すレベルを)出してしまうの...?」という驚き。
寄ってみると、本当に普通の毛糸です。
対して、こちらは印象が変わります。
黒い糸と、焼け焦げたピアノ。
先程の赤い糸の作品と構成は似ているのですが、
こちらは不吉でトゲトゲした感じです。
《静けさの中で》
塩田が幼少期に、隣家が夜中に火事で燃えた記憶から制作されたインスタレーション。燃えたグランドピアノと観客用の椅子が、黒い糸で空間ごと埋め尽くされる作品です。音の出ないピアノは沈黙を象徴しながらも、視覚的な音楽を奏でます。(公式サイトより)
確かに。煙っぽくもある。
なるほど。
こちらは糸の種類が違うようです。
側面と正面で幅の異なる糸。
トゲトゲした印象を作るのに関係ありそう。
(どう留めてるか、気になってたのですが、
タッカーで壁や床に留めているようです。作業大変そう。)
最後は、無数の使い古されたトランクと赤いロープ。
この作品は是非とも現地で見て欲しいです。
実際にはガタガタ、ガタゴト、音がしておりました。
隣のトランク同士が当たる音です。
素材に「モーター」とあったので、動かすために何か入れているのかも?(ただ、見た目は空気の揺れで動いているようにしか見えず...わからない)
後ろにも入れる。
展示全体を見て、
テーマを明確に伝えるために、色んな工夫をしてそうだな、と思いました。
トランクと赤いロープの作品では
トランクを支えている赤いロープのみだと、おそらくスカスカ感が出て、ただ吊るされているだけに見えてしまうと思うのですが、
天井部のフレームにも赤いロープを巻きつけたり、トランクを支えない赤いロープを垂らしたり。
「大事なテーマである赤い糸の集合体にトランクと負けないくらいのボリュームを持たせること」の検証を行いながら、この形に落ち着いたのかなぁ、と思いました。
(まだまだ私が全く気づいていない工夫がたくさんあるんだろうな..)
副題の「魂がふるえる」には、言葉にならない感情によって震えている心の動きを伝えたいという作家の思いが込められています。...「不在のなかの存在」を一貫して追究してきた塩田の集大成となる本展を通して、生きることの意味や人生の旅路、魂の機微を実感していただけることでしょう。(公式サイトより)
塩田千春が扱っているテーマは、重く、暗さを含むものかと思います。
そのテーマを明快に伝えるための素材選びや、イメージを空間に落とし込み、実現するための工夫、空間のバランス感覚。
作品と向き合った時間の長さを感じる展示でした。
塩田千春の作品はアーティスト本人のサイトや、Instagramで見ることができます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?