【500字小説】苺のパックに入った桜の花びら

昨日、スーパーで二割引きになっていた苺を買った。
もそもそと食べていると、パックの底に桜の花びらが入っていた。2月だというのに、それは綺麗な薄ピンクをしていた。

「見て、これ」

隣でゲームをしている彼の肩を叩く。

「ん?桜?」
「やっぱそうだよね」
「季節じゃないのになぁ、、あっやられた!」

再び画面に夢中になる彼の横顔を見て、私は少し寂しくなった。

「まだまだ寒いのにね」

とぽつりと呟いて、私はベランダに出た。
見上げるとオリオン座がかなり低い位置で輝いている。冬ももう折り返しているということを、花びらに似た色に輝くベテルギウスが教えてくれている。


彼は知らない。

次に桜が咲き始める頃には私たちはもう一緒にはいられないことを。
寒空の下、蕾のように膨らんでゆく私のこの誰にも言えない思いは、いつの日か暖かくなった時にでも花開くことはあるのだろうか。

息を吐くと白い。


「いちごもいいけどさ、みかんも美味しいよ」

彼は皮を剥いたみかんを持った手で後ろからそっと腕を回す。私は、少しだけ首を傾けてそっとキスをする。んー、何?と照れながら笑う彼は愛おしい。彼の手にあるみかんを口にする。

持っていた花びらをそっとベランダから落とす。

もう少しだけ、もう少しだけ2人で体を温めていたい。

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