「海馬万句合」第二回 総評

「海馬万句合」第二回は、次の4題での開催でした。

① 星月夜
② エノケンの笑ひにつゞく暗い明日/鶴彬
③ オーストラリアのアーティスト、パトリシア・ピッチニーニの作品
   (参照: Patricia Piccinini's hyperrealist sculptures
         https://www.youtube.com/watch?v=Z86MSk317nA)
④ おれ (西脇祥貴[第1回海馬万句合大賞受賞者]選)

投句者数は27名、投句数はぴったり400句でした。句数以上にぎりぎりまで攻めてつくった作品の水準は高く、〈厳選〉を謳っているこのイベントにおいては、選者にうれしくも厳しい山となりました。ご参加の方々に改めて深く感謝申し上げます。
 投句全体を見渡して、第二回は〈時事性〉、あるいは、社会的現実や時代との関係の取り方が作句のテーマになっている場合が多いように感じました。②の鶴彬の句については当然として、一句目の「星月夜」といった本来、人畜無害(?)なはずの題の句が特にそう見えたのが印象的でした。意図してというより、社会的な圧力が自然に作句のときの姿勢に影響している気がします(ということは、現実的にはいい状況ではないということですので、もっとのんびり句作したいとも思うところです)。
 投句者の中では、新規参加者、翠川蚊さんと白水ま衣さんが選句の初期段階から目立っていました。選句は名前を外してから行い、海馬に関しては無記名での選句が終わって以降変更を行った句は1句のみですので、新規参加者をえこひいきしたとかはないのですが、作品そのものから直接新しさを感じたというのはあったかもしれません(新しもの好きであることは否定できませんね)。選句発表後のコメント大会でも、「ここ 見てて ロバが立てなくなるシーン/翠川蚊」や「じゃない方のおれがおれと漫才をする/白水ま衣」がコメントを集めていました。
 入選数でいうと、太代祐一さん、川合大祐さん、翠川蚊さんが4句でトップ。前二人はTwitterでもよく見かけるとおり安定した作句で、句会のレベルを支えてもらったという印象です。川合さんについては、第二回での一番の問題句、「真空の完全がある/鶴彬」(カッコ内全体が川合さんの句です!)もあり、おそらく一番難度が高かった題なのに、やってくれますねえ(やっぱり)というところ。
 特選の句の選択について後悔はないですが、並選だからそれより劣った句ということはまったくありません。例えば、「乾いている暇のない鎌のカーブ/竹井紫乙」は選句発表の直前でふと気づいて入選とした句ですが、後でだんだん効いてくる佳句だと思います。「123とてつもない5678/今田健太郎」や「真夜中の脱衣所におれを捨ててく/高澤聡美」は、数字の思い切った使用や「捨ててく」の投げっぱなし方がいさぎよくてすごい。「人として生きる気はないウナギイヌ/西沢葉火」はまさに「ウナギイヌ」のようにとらえづらくて後を引く面白さ、「セックスの観覧席もあたたかい/水城鉄茶」の視点の取り方はグサッと刺さります。特選と並選の差はあってないようなものですね。
 特選と並選の差だけでなく、選ばれた句と選ばれなかった句の差も紙一重でした。二倍ぐらいの抜句にしても水準はあまり落ちないと思うのですが、本イベントでは句と句の相乗効果を高めるためにあえて絞りに絞っています。別の選び方をすれば、同じような水準で、まったく別の選ができるかもしれません。
 その点について実は、題④は西脇祥貴さんに選評をお願いしましたが、私もとりあえず別に選句だけはしておりました。さて、西脇選と海馬選、どのぐらいの句が重なったでしょうか・・・。答えは、以下のイベントで公開したいと思います。

「海馬万句合」第二回を語り尽くす会
 10月27日(木)20:00~ Zoom開催
 # 投句者の方々にはメールでZoomミーティングURLを送ります。ぜひご参加ください。他にもぜひ参加したいという方がおられましたら、メールアドレス umiumasenryu@gmail.comか、Twitterの「海馬@現代川柳」DMまでご連絡ください。

各題の選評はこちら。

「海馬万句合」第二回 題①「星月夜」選評
「海馬万句合」第二回 題②「エノケンの笑ひにつゞく暗い明日/鶴彬」選評
「海馬万句合」第二回、題③オーストラリアのアーティスト、パトリシア・ピッチニーニの作品
「海馬万句合」第二回 題④「おれ」選評(西脇祥貴)

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