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「知っていれば守れる命がある」。気象データを扱うプロフェッショナルに天気を味方にそなえる習慣の大切さを教えてもらいました!

「今日は雨だから傘を持っていこう」「寒い日になりそうだから、シャツを一枚多く重ねようかな」など、私たちの暮らしは気象に左右されることが多いですよね。でも、この気象情報がわかるからこそ、私たちは事前に対策を立てることができます。日々、天気のニュースを当たり前のように見ていますが、これって実はとても大事な習慣。学校や会社へ行く時、海や川、山へ出かける時、自分の命を守ってくれるそなえの1つでもあるんです。

今回は、そんな大事な気象情報を扱う会社で、気象データを使ったアスリート支援を行っている浅田佳津雄さんにインタビューをさせていただき、気象データの活用方法についてお話を伺いました。海でのお出かけにも生かせる知識もご紹介しているので、ぜひ最後まで読んでくださいね。

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(プロフィール)

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浅田 佳津雄
気象データを活用したさまざまなサービスを提供する気象情報会社、株式会社ウェザーニューズ スポーツ気象チームに所属。スポーツ選手が試合等の本番で最高のパフォーマンスを発揮するため、気象情報によるスポーツ環境の向上やアスリート支援などに取り組んでいる。
株式会社ウェザーニューズ(https://jp.weathernews.com/

販促支援から命を守るためのそなえまで、あらゆるシーンで活用されている気象データ

―まずは、気象データの解析からアプリ開発まで、気象にまつわるさまざまな事業を展開されている株式会社ウェザーニューズについて教えてください。

創業1987年の気象情報を取り扱う世界最大規模の民間気象会社です。創業者の石橋博良が商社マンだった頃、自分の担当する木材船が爆弾低気圧によって沈没し、15名の船乗り達が命を落としたことがありました。この事故以来、石橋は、「この爆弾低気圧が来ることがわかっていたら、船を違うルートで行かせたのに」という後悔の念をずっと持ち続けていました。そして、「気象情報を彼らに届けて多くの船乗りの命を守りたい」という想いから、当時国内には他に存在しなかった気象を扱う民間会社、ウェザーニューズをスタートさせたんです。

現在は、主な事業として船舶会社向けに安全性と経済性を考慮した最適な航路を紹介し、全世界の船をサポートするサービスの他、気象情報を提供するアプリ開発などを展開しています。

―誰かの命を守るというのが起点にある会社なのですね。気象情報を活用というと、私達の暮らしに身近な所でもサービスを提供されていそうですね。

例えば、コンビニエンスストアなどでも、私達の気象情報を活用していただいています。過去の販売データと気象データを分析すると、天候、気温、湿度と売上状況の相関が分かってくるので、そのデータを基に商品を仕入れるといった所で使っていただいています。


「天気は変えられなくても、事前に知っていれば準備ができる」東京五輪でも活躍したスポーツ気象チーム

[Asada]お台場で観測している様子

都内で気象観測をする浅田さん

―入社されて気象データを活用してアスリートの支援を行う「スポーツ気象チーム」を立ち上げたとのことですが、立ち上げの経緯と実際のチームの取り組みについて伺えますか。

チームといっても、最初は僕一人だけのプロジェクトでした。立ち上げ当時、僕の中で確信していたのは、ラグビーW杯も東京五輪も気象とは絶対に切り離せない大会になるということでした。両大会、猛暑に台風、ゲリラ豪雨と気象の変動が激しい時期での開催でした。気象データを活用してアスリートをサポートするサービスは他にやっている所もないですし、間違いなく話題になると思いましたね。社内での起案時は賛否両論がありましたが、自分の確信を頼りに押し通させてもらって「スポーツ気象チーム」をスタートさせました。

―チームメンバーには、どんな方がいらっしゃるんですか。

現在、6名のメンバーがいます。全員スポーツ好きで、何かしらスポーツをしていたり、スポーツに対する熱い想いを持っている人が集まっています。好きなことをやっている人って底力がありますし、アイデアも好きだからこそ湧いてくる。実は、チームを作った時も、スポーツに対して情熱を持って仕事をがんばれる人を軸にしてメンバーを集めたんですよ。

―今回の東京五輪も参加されたんですよね。どのような取り組みを実施されたのでしょうか。

サポート内容はいくつかあります。気象データは、「過去」「現在」「未来」という3つの時間軸、そして気象の要素である「晴れ雨」「雨の量」「風向・風速」というものの組み合わせで成り立っています。簡単に言うと、我々スポーツ気象チームが気象データをチームに提供し、それを戦略や戦術、練習メニューの構成、移動の際の判断基準として生かしていただいたりしています。また、アスリートやスポーツチームだけではなく、大会主催側の開催判断のサポートを行うこともあります。

アスリートのサポートという点で我々がお伝えし続けているのは、「天気は変えられないが、あらかじめわかっておけば準備ができる。準備することで安心が生まれ、パフォーマンスをしっかりと発揮できる」ということです。気象データの活用においては“事前にわかっておく”ことが大事なんです。

―競技に生かすために、どのように気象データを分析していくのでしょうか。

今回の東京五輪では、12競技、約20チームをサポートさせていただきました。場合によっては合宿にも参加させていただき、監督やコーチ、選手と話をさせていただきながら各競技の特性を学び、気象データをどう生かすかを提案させていただきました。

過去のデータの分析は、例えばマラソンの場合、開催日の過去20年のデータから、降雨確率や風向き、気温や湿度などの数値を確認し、その統計データを基に開催日の天気予報を割り出します。さらに、実際に選手が走るスピードでコースをまわり、日向・日陰の場所などのポイント箇所を映像や画像で残し、コースプランの助けになる情報を収集しました。ただ、今回の東京五輪では、開催場所が予定していた東京ではなく、札幌に変更となってしまったため、これらの情報はすべて無駄になってしまったのですが…(苦笑)。

[MiCATA]マラソン東京(風)

アスリート向け気象Webサービス「MiCATA」で
マラソンコースの気象情報を収集

こうした事前準備で当日のコースの状態をイメージしてもらい、さらに本番が近づいたら予報データを活用していきます。ここで活躍するのが、弊社が提供するアスリート向け気象Webサービス「MiCATA」です。「MiCATA」の特徴は、競技毎にわかりやすく、気象情報を読み解くことができる点です。マラソン選手からすると、南風といっても方角がどちらかはわからないんですね。「MiCATA」を使い、地図上で視覚的に風向きを把握して、対策を行えるようにしました。


気象情報を日常的に使うことは、「自分の命は自分で守る」習慣になる

―ところで、近年、突然の豪雨や極端な寒暖差がある日も増えてきた印象がありますが、昨今の気象については何か変化を感じられていますか。

変化はしていると思います。一般的にいえば温暖化ですね。場所によっても違いますが、この20、30年で気温は平均1度くらいしか変わっていないんですよ。自分の体感だともっと暑くなっている感じがしますが、これは40度の日もあるけれど、寒くなっている日もあり、平均としてみるとプラス1度くらいということなんです。気温の高低が極端な動きになっているというのが特徴ですね。でも、たった1度上がるだけでも南極や北極の氷はかなり溶けて、海の水位が上がってしまう。それから、蒸発する水分量の増加に伴い、雲に含まれる水分量も増えています。僕の調べた所、一度に降る雨量は過去の約1.5倍になっています。最近、集中豪雨や川の氾濫が顕著に増えているのは、過去に想定された雨量に対する浸水対策の設計になっているため、想定以上に雨量が増えたことで対策が追いつかなくなっている状況なのだと思います。

―そうなると、ますます個人の気象への意識を高める必要が出てくるかと思いますが、日頃、私達が気象情報を上手に活用するにあたり、アドバイスをいただけますか。

まず、生活の中で気象情報を日常的に使う習慣をつけていただくことです。これは、情報提供者としての一番大きな願いでもあります。習慣化することで、いざという時に避難するなどの行動できるようになることにもつながります。スポーツ界でこのようなサポート活動をしていることも、我々が「人の命を守りたい」という所を目指しているからです。「自分の命は自分で守る」習慣をつけてもらいたいという願いも込めて、気象情報を日々チェックしてそなえることを習慣化していただきたいです。

海へ行くなら風情報も要チェック!環境の特徴に合わせて気象情報を把握することが大事

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―例えば、海辺に出かける際などで情報として見るべきポイントとしては、どんなことがありますか。

大きなポイントとしては、「風をしっかり見る」ことです。海辺は、風の強さが波に影響する場所なので、晴れていても安心のできない場所です。それから、こうした気象情報を他の人と共有し合うことも大事だと思います。たとえば、お子さんがいらっしゃる方の場合、「こういう天気だから、こういうことに気をつけよう」ということを小さい頃から教えておかれると、大人になってからも気象情報をチェックする習慣が身につくのではないでしょうか。

―今後、気象データを活用し、さらにどんなことに取り組まれる予定でしょうか。

引続き、アスリートの皆さんをサポートしていきたいと考えています。さらにサポートを強化できるように、現在は気象データだけではなく、体調、睡眠時間などの健康にまつわる情報を含めて総合的なデータ分析にも着手しています。それから、アスリートだけではなく、子ども達を気象によって引き起こされるリスクから守るための啓蒙活動やサービスの展開も今後はやっていければと思い、学校での講演などの取り組みを始めた所です。子ども達へ教えることもそうですが、子ども達を守るための環境をつくるのは大人の役目です。大人の方々にも、もっと気象のことを学んでいただける機会を提供できればと思っています。

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浅田さん、気象情報を活用するためのさまざまなお話、ありがとうございました!気象情報は身近で手に入れられる情報だからこそ、しっかり活用して、暮らしの中のリスクを減らしていきたいですね。海では風にも要注意。しっかり頭に入れて、海辺へ出かける際は気象チェックをしてみてください。

●記事に出てきた情報はこちら
株式会社ウェザーニューズ(https://jp.weathernews.com/
アスリート向け気象ウェブサービス「MiCATA」(https://www.micata.site/service/