海、川、プール、日本の水辺の安全に取り組む関係団体が集結!意見交換会を行いました!【前編】活動報告プレゼンテーション
2020年10月22日、水辺をはじめ、子どもの安全を考える活動や取り組みを行う関係者の意見交換会がオンラインにて行われました。海、川、プール、学校内などの枠組みを越えて、「子どもの安全」という大義の下、関係者が一堂に会するのは今回が初めて。各自が取り組んでいる活動の紹介や解決すべき課題、そしてこれからの展望について、知見の共有と意見が交わされました。
本会で水辺の安全における課題としてまず挙がったのは、水辺の事故に関わる情報の集約と管理。再発防止や予防につなげるための国内の水難事故の統計や調査に関する情報を一本化し、その上で教育現場で活用できるカリキュラムを作成する必要性を参加者全員が認識し、共有しました。また、本会を皮切りに、今後も水辺の安全活動を推進するための話し合いの場を設けて活動の発信をしていくということです。
以下、本会の模様を「【前編】活動報告プレゼンテーション」と「【後編】質疑・ディスカッション」の2部構成のレポートとしてまとめました。まず、こちらの記事では前編をご紹介します。各出席者の発表内容について詳しく知りたい方は、ぜひご覧になってみてください。
本会開催の経緯について
吉川:
今回の出席者の一部が集まって行った9月の検討会では、「安全教育の中で予防の視点」「学校の水泳授業の在り方」に対することなど、いくつかの意見が挙がりました。
有益な活動をされている皆さんのお話をぜひみんなで知る機会を作り、これからの活動に生かそうということで、本会を開催させていただきました。
【出席者】
ファシリテーター:
吉川優子/一般社団法人吉川慎之介記念基金 代表理事
稲垣良介/岐阜聖徳学園大学教授
大野美喜子/国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター NPO 法人 セーフキッズジャパン理事
小川恭子/株式会社さとゆめ 海と日本プロジェクト事務局 海のそなえ推進プロジェクトチーム
大井里美/川に学ぶ体験活動協議会(River Activities Council)
菅原一成/公益財団法人河川財団 子どもの水辺サポートセンター 主任研究員
田畑和寛/公益財団法人河川財団 子どもの水辺サポートセンター次長
田村祐司/東京海洋大学、水難学会理事副会長
松本貴行/公益財団法人日本ライフセービング協会副理事長・成城学園教諭 持田雅誠/公益財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団
吉村高寛/公益財団法人マリンスポーツ財団
出口貴美子/出口小児科医院長、NPO 法人 Love&Safety おおむら、日本子ども安全学会理事
西田佳史/東京工業大学、NPO 法人 セーフキッズジャパン理事、日本子ども安全学会理事
オブザーバー:
太田由枝恵/NPO 法人 セーフキッズジャパン
小佐井良太/愛媛大学教授 日本子ども安全学会理事長
渡邉泰典/仙台大学体育学科 講師
活動状況報告
① 稲垣良介/岐阜聖徳学園大学教授
中学生以下は川での事故が非常に多いですし、重大事故につながるという現実があります。着衣泳もいろいろな経緯で広がりを見せていますが、日本の川は基本的に流れが急で、私のいる岐阜県にある木曽川にしても水流が激しい。このことに対応する教育が必要だと考え、消防と協力して水難事故防止教育を実践しています。
まず、岐阜県中津川のある中学校と共同で行っているのは、ライフジャケット着用での川の歩行体験。学校の授業では「事故に遭った時にどうしようか」という事後に目が行きがちですが、未然防止も重要です。この活動を通して子ども達は、「水が冷たい、川の流れの変化、深い場所がある」など川の事故の原因となる要素を体感しながら学びます。
また、学校のプールで着衣泳を行った後に先生に自己指導をしてもらった所、50日後もその学びが残るということがわかりました。今は、よりよい自己指導にどんなものがあるのか検討中です。知識だけでなく、技能もセットでプログラムを作成できないかと考えていますが、そのためにも学習内容の根拠を蓄積する必要があるので、今後は学習効果の測定を行っていく予定です。
② 大野美喜子/国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター NPO 法人 セーフキッズジャパン理事
主に小学校5年生を対象に、そもそも予防とは何か、学校内の危険を学ぼうということで安全授業に取り組んでいます。カリキュラム前半は、校内、校庭、遊具の事故に関する座学、後半は児童がタブレットを使って校内にある危険を探し、見つけた危ない箇所に対する改善策を創出するイノベーションの考え方を学ぶワークショップを行っています。この授業で学校内の事故を防ぐ予防の考え方を学ぶことを通して、「事故を防ぐことを知りたい、学びたい」と思う生徒が増えるという結果も見られました。
2年前に大村市で取り組んだ時は、授業の終わりに子ども達にアンケートをとり、事後レポートやお知らせを作って学校に配布。他にも、子ども達が撮影した危険個所の画像をイラスト化して、学校内にどういう危険があるかを子ども達にわかりやすく教える活動にも取り組んでいます。
③ 大井里美/NPO法人川に学ぶ体験活動協議会(River Activities Council※以下、RAC)
RACは設立約20年の組織で、川で遊ぶための指導者の育成や国土交通省河川環境課をオブザーバーに、河川財団さんと一緒に川の安全についての活動を全国で行っています。活動には、河川事務所や市町村、民間の方からのご依頼を受けて行う、川で安全に遊ぶための水辺の安全講座もあり、水辺で活動する際のライフジャケットの着用と正しい着用方法、また、川遊びをする時の服装についてなどを啓発しています。
それから、学校のプールでライフジャケットを実際に着て、ライフジャケット着用でどのくらい体が浮き、沈むのかを学ぶ体験講座なども行っていますが、学校側も授業等が大変なのでそんなにたくさんは実施できていません。
また、20年くらい川の指導者養成講座をやっており、現在では日本全国に川で遊ぶための指導者が6000人くらいいますが、まだまだ少ないと思っています。今年は新型コロナウイルス感染症の影響下で、河川での水難事故の報道が多かったです。水難事故が起こるたびに、とても心を痛めています。やはり川で遊ぶための安全は、とても重要なことではないかと改めて感じています。
④ 田村祐司/東京海洋大学・水難学会理事副会長
東京海洋大学では、夏に千葉県館山や富浦の臨海実習場でシーカヤック、シュノーケリング、磯観察等の海洋教育実習を行っています。多くの子ども達や市民の皆様に、海辺自然体験活動に親しんでいただくために、海辺自然体験活動の指導者を養成することが本学の使命だと思っています。
水辺活動時にライフジャケットを着用することの重要性が指摘されていますが、それがまだ普及されていない現状を改善することも必要だと思います。そのために、ライフジャケット着用啓発活動も今後さらに行っていくことが大切だと思います。
一方、ライフジャケットを着ていない時に、溺れるのを防ぐために「背浮き」で呼吸を確保して「浮いて救助を待つ」溺水予防教育を、水難学会の一員として20年程前から全国の小学校で行っています。10年前の東日本大震災の時、避難所の体育館で津波に襲われた小学6年生の女子児童が背浮きで浮いて待って助かりました。この助かった児童に、背浮きを指導したのは水難学会の仲間であり、背浮き教育が一人の少女の命を守ることに貢献できたのではないかと思いました。
今年2020年度から始まった小学校新学習指導要領の体育科において、高学年の水泳領域で新たに「安全確保につながる運動」が入り、その中に「背浮き」が明示されました。「背浮き」は、簡単にはできないと言われていますが、やり方を覚えてしまえば簡単です。今後、全国の先生方にも背浮きの指導方法を習得していただいて、子どもたちに水泳授業の中で指導していただければ幸いです。そして、水着で背浮き技能を習得した後に、着衣を着た状態で背浮きをすると、着衣と皮膚の間に空気が入り、また靴を履いていると、さらに浮きやすくなります。服や靴を身に付けて背浮きをした方が、水着の時よりも浮きやすいことを体感してもらう授業展開なども、是非学校現場で行っていただきたいと思います。
⑤ 菅原一成/公益財団法人河川財団 子どもの水辺サポートセンター 主任研究員
河川財団では、河川基金を通じて学校での水辺体験を増やす活動、河川の維持管理及びその技術開発、そして河川教育等の事業を実施しています。私が担当している河川教育事業は、学校含めて川への理解を深めることを目的としています。川は、人々の感性や主体的態度の育成、地域への愛着を育むなどいろいろな効果がありますが、そんな恵みを与える一方で災いの観点も持つ素材です。大人になってから川との関わり方を知ることができるように、子ども世代の教育を柱の一つとして推進しています。
安全利用、水難事故防止の研究にも取り組んでいます。どういった場面で事故が起きたかなどの調査データがなかなか手に入りづらい状況なので、2003年から新聞やテレビなどのマスメディアの情報を分析し、事故が起きた場所をマップ上にプロットして水難事故マップを作っています。特に都心からアクセスしやすい河川は利用人口が多いので事故は増えていますし、繰り返し起きている場所もわかります。川に遊びに行く時は、過去にあった事故チェックも予防の一つになります。
それから、川の水難事故に関する資料を公開しています。行動区分別の水難事故では、川に入ると圧倒的にリスクが高まりますが、陸で遊んでいて気づいたら川に入って事故になるということもあります。川の水際での遊びやスポーツも多いと思うので、川だけでなく陸域も注意が必要だということ、そのためにライフジャケットなどの装備はとても重要なアイテムとして紹介しています。流れが生み出す強大な力のメカニズムについての知識も重要です。これらについて知っていただく機会などを特に学校教育の場でも広げていきたいと考えています。
その施策の一つとして最近、「水辺の安全ハンドブック」を作成しました。家庭ではライフジャケット着用の最終決定権者は親だと思います。その保護者層に川との付き合い方をどうやって伝えられるかを考えながら、川の全体像、水際、水中、水上にある危険を知ってもらうことをポイントとしてさまざまな情報を冊子の中で紹介しています。
⑥ 松本貴行/公益財団法人日本ライフセービング協会副理事長・成城学園教諭
日本ライフセービング協会(JLA)の取り組みの一つの柱は、海水浴場のお客様をお守りすることです。現在、JLAでは全国1054か所ある海水浴場の内約200か所で延べ800万人の方々の海水浴の安全サポートを行っています。2019年のレスキュー件数は、約2000件。こうした状況の中で、より一人でも多くの命を守り、救う可能性を高めるために、ライフセーバーの養成や配備、さらには救急隊員にいち早くつなぐ連携対応についての審査会等も開催しています。また、夏の2か月のレスキュー件数では、年齢層でいうと20歳~24歳が最多、その次が5歳~9歳(小学生)の年齢期となっています。お子さんの行動範囲が広がるにつれ、事故は起こりやすい、だからこそ教育が必要なのです。子どもはもちろん、保護者の意識も高めなければなりません。JLAが教育へ目を向ける意味というのは、このような実践的なパトロール活動から得られたものです。
学校教育では新しい学習指導要領や文部科学省のGIGAスクール構想含め、ICT教育の推進が図られています。水辺の安全に関する知識と技能を身に着けるためには、主体的、対話的な学び(アクティブラーニング)が重要となってきます。それを可能にするために開発したのが、水辺の安全教育におけるICT教材「e-Lifesaving」です。学習指導要領にある「水泳運動の心得」や「安全確保につながる運動」は具体的に何を教えたらいい?という現場の先生方にとって有効かつ安心材料となると思います。「e-Lifesaving」は、学校のプールや海水浴場でのリスクを子ども達が想像し、学びを深めることのできる構成となっています。また、ある教育委員会からは「川の学びもあったらいいね」という声をいただき、河川財団さんと連携し「川編」の公開が実現しました。これからは子ども達が受け身で学ぶスタイルを脱却しないといけないですし、そのためには学びのリアリティーがとても重要になってきます。
昨今では一人一人の命を守るための体験活動が充実してきているように思います。水辺の安全への願いや楽しさを伝えたい想いは、どの団体も同じです。これからはオールジャパンで「水辺の事故ゼロ」に向けて発信、取り組んでいく必要があると思っています。
交通事故は年々減っていて水難事故との逆転現象が起きていますが、これは国が予算を投じて様々な策を講じてきたからです。日本は海に囲まれ、多くの河川がある島国です。水難事故防止に向けての意識を国全体で持つべきなのです。その上で特に、子ども達の命を守るための教育は重要だ!と。次の学習指導要領改訂に向けて、学校教育における水泳授業の改革となるフレームワークやカリキュラム案、先生方への負担軽減を考慮した各団体との連携協力の仕組み作り等々。それらを策定していくのは、今ここにいらっしゃる方々とともに、と思っています。
■「水辺の安全」を学べる!e-ライフセービング
(https://elearning.jla-lifesaving.or.jp/)
■「e-ライフセービング」研修用動画
(https://youtu.be/p8Am1f5xsDc)
⑦ 持田雅誠/公益財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団
ボートレースの関係団体の公益法人で、設立後に無償譲渡した地域海洋センター(プール・ボートハウス・体育館)を運営している地域の地方自治体や指定管理者を通じて、健康づくり事業を地域に提供しています。
海洋センターには、指導員を必ず設置することになっており、海洋性レクリエーションをはじめとする自然体験活動などさまざまな事業を展開しています。その中で大きなウェイトを占めるのが水難事故防止への取り組みで、2009年から「B&G水辺の安全教室」を実施しています。2014年には今回参加されている東京海洋大の田村先生にも監修を受けて改善を加えました。教室では、ライフジャケットの効果や必要性を子供たちに伝えたうえで、ライフジャケットを着用した浮遊体験を行い、合わせてペットボトルなどの浮き具を使った浮き方や、身一つで浮く背浮きの方法を教えています。昨年度は全国の小学校1000校以上、20万人に体験していただき、来年は規模をさらに拡大していく予定です。
⑧ 吉村高寛/公益財団法人マリンスポーツ財団
財団で今注力しているのは、水上オートバイの公的利用者に対する安全運行教育の実施です。K38JAPANという内部組織を置き、国内の保安庁や消防警察、ライフセーバーの方々に水上オートバイの安全教育を行っています。
アメリカで水上オートバイを公的に利用する場合には、一般の操縦資格に加え、プロのためのトレーニングを受ける必要がありますが、日本ではそういうものがまったく確立されていません。我々が見ている行動の中でも適切ではない危険な要素があるので、これを日本に広めたいと思っている所です。K38JAPANを認定しているNSBC(National Safe Boating Council:全米安全運航評議会)が毎年、水上安全と安全運航に関する国際サミットをアメリカで実施していますが、我々も7年前から参加しています。参加して感じるのは、「日本にはまったくない仕組みで非常に効果的で効率的。なぜ日本にこういうものがないのか」ということ。普段、海や船関係の方々と安全に関する話をする中で、海や川それぞれ、分断された活動がなされていて統一感が見えない印象があります。ですから、業界の垣根を取り払った活動、それから基準や規格を一本化して標準化するというのが課題かと思っています。
また、特にライフジャケットに関しては、規格が一本化されているアメリカやヨーロッパに比べ、日本が抱えている課題は大きいと感じます。財団では、アメリカに便乗して「WEAR IT! ライフジャケットを着よう!プロジェクト」を行っている他、海水浴場でライフジャケットの無料貸出に取り組んでいますが、全国16か所、昨年は約4000名の方が体験してくださいました。こうしたことを広めていくことは大事ですが、闇雲に広げてしまうとよくないものも一緒に広まってしまうので、何が標準なのかを意識しながら情報を一本化して、統一した企画を広めていくことが大事だと思います。
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いかがでしたでしょうか?私たち海のそなえ事務局も、参加した皆さんの活動報告を通して、全国でさまざまな団体がいろいろな切り口で独自の活動を展開されていることを改めて知ることができました。
「【後編】質疑・ディスカッション」では、プレゼンテーション後に行われたディスカッションの様子をご紹介します。活動報告を以て見えてきた共通課題や取り組みの方向性についてが詳しく述べられているので、引き続き、ご覧ください!