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もう君とは向き合わない、でもそこにいてもいいよ

秋になると、些細なことで気分が落ち込むことが多かった。

それは私が住んでいるフランスの、社会保障費と税金の支払いが大体秋に重なるシステムのせい(ステータスにもよりますが)で、うだつがなかなか上がらない私はいつも銀行口座とにらめっこをし、頭を悩ませていたからだった。秋に生まれたせいで、誕生日だというのに毎年旅行にも踏み切れず、ちょっとした自分へのプレゼントもつい尻込みしてしまい、ため息まじりどころかため息まみれになる。その上、妙齢(結婚とか、子供とかをつい考えたり悩むお年頃)かつシングルで周りの友人がことごとく既婚、もしくはカップルなこともあったり、色々重って結局毎年「私、このままでいいんだろうか。。。」と鬱々としてしまいがちな季節だった。

秋に生まれたのに、紅葉に染まった美しい街を愛でるどころか苦々しく思ってしまっていた暗黒の時期はとても長かった。


しかし私ももうずいぶん成長したのだ。ふふん。秋になっても、きちんと余裕を持って社会保障費分と税金分を分けておいた上で、多少はつかってもよし!と思える貯蓄をともなう経済的成長もすることができた。この1、2年で、「もしかしてこのままずっとひとりで、子供も産まないかもしれないな」とうっすらそんな人生の方向性が見えても、「それもいいじゃないか」「たまに友達の子供にケーキやおもちゃを与えて喜ばれる、そんなおばさんになろう」と本当に素直に思えるようにもなってきた。


しかしどうだろう。今日。久しぶりにその侘しさが帰ってきた。

映画 シャンチー・テンリングスの伝説を見に行った。

周りの友達は映画は好きでも、マーベルとなるとそこまで興味を示す人がいないので、一人で。普段から一人で映画館へ行くことが多いので、一人で鑑賞することは何も問題ない。なのに、鑑賞後、冷めやらぬ興奮を誰ともシェアできないこの持て余し切ったエネルギーのやり場に困り、ついついグループラインに投下してしまった。

いつも一緒にするオンラインゲームのことや、くだらないネタを送り合う、かなり早いテンポでやり取りするグループラインだったので、オタク心をわかってもらえそうと一縷の望みを託してしまったのだが、その日に限って1日誰からも、とんと返事がなかった。

よくあることだが、当然それぞれの生活があり、そんな全くもって急を要さないラインは後回しにされて当然だし、「みんないそがしいんだなー」とそれで済む話なのに、突然侘しさが とんとん、と私の肩をたたいた。「ひさしぶりだね」


***


ひとり旅も大好きだ。気心の知れた友達と行く旅も好きだけれど、気を使わずにいきたいところに行ったり食べたいものを食べられる。

でも、何かとんでもなく美しい景色に出会ってしまったり、これは!と言うほどの美味いものに遭遇してしまった瞬間の、フレッシュで乱暴なまでの興奮を分け合えないあのひとかけらの寂しさはひとり旅と絶対にセットだ。そしてそういう時、つい人恋しくなってしまう。

とにかくマーベルが好きな人なら「そうそうこれこれ!!」と思う爽快感と、伏線や別シリーズのキャラクター出演、脚本の完璧さ、音楽の巧妙さ、キャストの魅力、アクションの興奮。全部よかった!!!そしてトニー様。香港が誇る大スタートニー様がマーベルに出演するのに見ないわけがない!!と意気込んで見にいき、予想以上に最高だったから、つい体が熱くなるほどうれしくてたのしくてニヤニヤしながら劇場を後にした。

こういう感想を、ただ話せる相手が欲しい。別にマーベルオタクじゃなくったっていい。「へえ〜そうなんだー。マーベル好きだもんねぇ、よかったねぇ」くらいのゆるい相槌で十分だ。楽しかった時だけじゃない、誰かに心ない一言を言われて動揺したり、なにか置き所のない感情を抱えて家にたどり着く時、「あのね、今日ね、、、」と小さい子供のような気持ちでただそっと受け止めて欲しい時がある。そんな時、私は誰かがそばにいてくれたらなあ、と久しぶりに思う。


一人で生きていくのがどんどんうまくなってきたと思う。感情との向き合い方も心得てきたし、一人で楽しむ方法もどんどん増えていくし、同棲していた頃に存在した、相手が好きと言う感情が霧散したあとは、一体全体なんであんなしんどい暮らしを好き好んでしていたんだろう、よく我慢したな、一人の方が断然色々心地いい、と心から思う瞬間も多々ある。

ゲームさながら一人暮らしエンジョイランクが大分上がってきたな、と得意げになっていたのに、秋とともに侘しさがふらっと帰ってきた。でもたぶん、寅さんみたいにふらっとまたどっかいくんだろう。

それが経験でわかるようになってきたから、どうせきっと長居しないだろうと、侘しさも受け入れてやることができる。

これも、年齢を重ねて生きるのがうまくなっていくってことの一つなんだと思う。歳を重ねることのありがたさがしみる。


***


もう私は侘しさと真剣に見つめ合ったりしない。私の心の部屋の隅に、侘しさが居ることを認め、追い出すこともせず、ただそっとその日を共に生きる。

明日は仕事で早いから、さっさと床に就く。


翌日、夢に推しが出てきて幸せに目覚めた朝、気づいたらもう侘しさはまたどこかへ旅立った後だった。


侘しさ。おまえも達者でな。

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