見出し画像

【散文】深海に潜む海月

まただ。

気が付くとあの人を目で追ってしまう。

友達があの人の話をよくしてた。
可愛い、可愛い、とよく写真を見せてくる。
「そうだね」とお決まりの返事をする度に、脳内にあの人の顔が刷り込まれていく。

艶やかな黒髪は少しクシャっとしていて、動物のように撫でたくなる。
少し垂れた黒い瞳は笑顔だと錯覚してしまう。
儚げに笑う顔はガラス細工のようで、触れたら粉々に壊れてしまいそうだ。

初めて姿を見たとき、綺麗な人だと思った。
好きという感情に発展はしなかった。
ただ見ていたいと思うだけ。

だけど友達があの人の話をよくするもんだから、見てるだけで良かった筈なのに、どんどん深みに溺れていく。

可愛らしい姿の中には、どす黒い感情を抱えている。
それなのにあの人はそれを隠そうともしないで生きている。


「何か問題でもあるの?」とでも言いたげなその態度に、何故だか妙に惹かれてしまう。

君の毒をもっと浴びたい。

近付こうとすれば毒針で、こちらが伸ばした手を振り払う。
その毒が体に蓄積され、致命傷になったとき、やっと気づくのだろうか?
あの人に抱くこの名も無き感情に。

今日もあの人の姿を追う。
毒が一気に回らぬように、触手が届かない安全なところから。


気づかれないようにしていたのに、黒い瞳はこちらを捉えて悪戯な光を帯びていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?