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書店業界の未来は?文教堂の#マーケティングトレース

最近、巣ごもり需要で本の需要が高まっているようです。本の卸売を行っている取次大手の日本出版販売株式会社によると、教育ドリルなどの子ども向けの本や、時短レシピが好調なようです。

みなさま、本は「紙派」でしょうか?それとも「電子書籍派」でしょうか?

私はほんの少し前まで紙の本オンリーでしたが、最近はAmazonのKindleでも本を読むようになってきました。スキマ時間にサクッと読めるのが電子書籍のいいところですね。

あと、読み上げ機能で「ながら読書」ができるのも便利なところです。抑揚がなかったり、途中で止まってしまったり、読み上げてくれなくなったりと、「すごく快適」とは言えないですが、掃除しながら、筋トレしながら本を読めるのは便利です。先日、初めて読み上げだけで、1冊読み終えることができました^^

と、電子書籍は便利なのですが、私はどちらかというと「紙派」です。気になった所に線を引いたり、書き込みしたり、手にとってペラペラとめくって情報が拾えるところが気に入っています。

そんな紙の本を扱う「本屋」さんが今ピンチなのをご存知でしょうか?私はよく文教堂を利用するので、文教堂の #マーケティングトレース をしてみたのですが、思った以上にピンチでした。

・なぜ、文教堂はこのような危機的状況に陥ってしまったのか
・他の書店は大丈夫なのか
・今後どのような施策を打っていけばいいのか

について、以下に書いていきます。

文教堂GHDの概要

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文教堂は国内141店舗を展開する大手書店です。
設立は1942年と、約80年の歴史を持つ書店となります。

主な事業は、「書籍・雑誌等の販売事業」で純粋持株会社の文教堂GHDの下に、書店の株式会社文教堂やその他の子会社がつらなる構成となっています。

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文教堂GHDの売上高の内訳です。
書籍と雑誌が売上の7割を占めています。

個人的に意外だったのが、文具が8%しかない点です。
よく行く文教堂は結構文具の品揃えが豊富で、文具が欲しい時は文教堂に買いに行っていたので、もう少し高いイメージを持っていました。

ただ、「文具は本を買うついでに買う」ことが多いと考えると、これくらいが妥当かもしれませんね。

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続いて、文教堂の業績です。
売上高、営業利益ともに厳しい業績となっています。
売上高は2015年を除いてマイナス成長が続いており、営業利益もここ最近では2017年を除いて赤字が続いています。

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業績不振のため、2018年以降は債務超過の状態となっており、現在は経営再建に向けた取り組みが行われています。
上場廃止を回避するためには、2020年8月31日までに債務超過を解消する必要があるという、かなり厳しい状況にあります。

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なぜ、文教堂はこのような危機的状況に陥ってしまったのでしょうか?
文教堂を取り巻く外部環境をPEST、5Forcesを使ってみていきます。

PEST分析(Economy)

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「出版不況」という言葉をご存知でしょうか?
本や雑誌などの出版物の販売額は、1996年をピークとして年々減少しており、「現在はピークの半分」と言われています。

プロダクトライフサイクルでは、衰退期にあるといえます。

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2011年から2018年の間だけでも、出版物全体の販売額は減少しており、雑誌は4割、書籍は3割も減少するなど、すべてのジャンルで販売額が減少しています。

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なぜ、そのようなことになってしまったのでしょうか?

様々な原因が考えられますが、個人的には「インターネット、スマートフォンの普及」が最も大きく影響していると考えています。

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出版物販売のピークと言われる1996年、ちょうど私は中学生でした。
その頃の電車の中や待ち合わせの間の暇つぶしといえば、「本か雑誌」が定番でした。(ゲームボーイなんかもありましたが少数)

高校生くらいから携帯電話(今で言うガラケー)が普及し始め、本や雑誌の代わりに暇つぶしに携帯をポチポチすることが増えてきました。
このときはまだ、パケット数に応じて料金がかかる従量課金制がメインだったこと、コンテンツもそれほどなかったため、本や雑誌の脅威になるほどではなかったと思います。

それが、大学生になってブロードバンドが普及してインターネットが大衆化し、以降、携帯電話が3G、4Gと高速大容量化し、iPhoneなどのスマートフォンが出現したことで、人々が「本や雑誌」を読む時間が、「インターネットやスマートフォンを見る時間」に一気に侵食されていったように思います。

その結果、本や雑誌などの出版物の販売額が劇的に下がっていったのではないでしょうか。

文教堂の経営環境が厳しいのは前述のとおりですが、他の書店はどうなっているでしょうか?
「丸善」や「ジュンク堂」を展開する丸善CHIHDと比較してみます。

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このように、丸善CHIHDは少ないながらも辛うじて利益が出ている状況です。
丸善CHIHDは書籍・雑誌販売以外の事業も手がけているため、分解してみてみます。

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事業別の売上高の割合を見てみると、書籍・雑誌販売の「店舗・ネット販売事業」の割合が最も大きくなっており、約740億円を稼いでいます。
では、利益ベースではどうでしょうか?

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このように、利益ベースだと全体のわずか1%しか稼げていません。
「店舗・ネット販売事業」の利益は33百万円しかなく、利益率にしてわずか0.04%です。

紀伊國屋書店も直近会計年度の営業利益率は0.08%しかなく、「書店が儲からない」のは、業界全体の課題となっています。
(紀伊國屋書店の決算公告は、こちらのサイトを参照)

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では、出版・書店業界はこうした変化に対する打ち手はなかったのでしょうか?
出版・書店業界が変化に対応できなかった理由として、業界慣習と呼ばれる2つのルールの存在が考えられます。

PEST分析(Politics)

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出版・書店業界で業界慣習と呼ばれるものに、

・再販売価格維持制度
・販売委託制度

というものがあります。

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まずは、「再販売価格維持制度」について説明します。

食料品や飲料、洋服など、一般的にお店に売っている商品は、お店によって値段が違いますよね?
でも、本や雑誌は全国どこで買っても同じ値段です。

これを実現しているのが、「再販売価格維持制度」で、全国どこで買っても同じ価格なのは、この制度のおかげです。

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私たちがお店(小売店)で買い物をするとき、商品の値段はお店が決めています。

商品をつくっているメーカーは「このくらいの値段で売って欲しい・・・」(希望小売価格)と言うだけ、もしくは「値段は好きに決めていいよ」(オープン価格)と言うかのどちらかになります。

そのため、お店は儲けや集客など、様々な要素を考慮して自分のお店にあった値段をつけ、私たちに売っています。

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これが、本や雑誌の場合、私たちに本を売る書店には一切の価格決定権がありません。
本や雑誌をいくらで売るかは、全て出版社が決めています。
書店は定価で売ることが義務付けられており、値引き販売が許されていません。

これを「再販売価格維持制度」といいます。

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次に「販売委託制度」です。

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通常、お店(小売店)が商品を買う時は、仕入先(メーカーや卸売会社)から商品を買い取ります。

買い取った商品はお店のものなので、売れればハッピー、売れなければ在庫として抱えることになり、値引きをしてなんとか売り切ります。
なぜなら、買い取った商品は「返品できない」からです。

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これが書店の場合だと、「販売委託制」という形をとっているため、売れ残った本や雑誌は取次会社を通じて、出版社に返品することができます。

現在の返品率は4割程度と言われており、100冊仕入れても、そのうちの40冊は売れずに出版社に戻されてしまいます。

書店での販売期間は平均で2週間~1ヶ月、その後は売れる見込みが劇的に下がると言われており、話題の新刊でもこの期間に売れなかった本は、無情にも返品されてしまいます。
大きくスペースを取って平積みされていた本が、しばらくすると見かけなくなるのは、こうした理由があります。

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ちなみに文教堂は、「日本出版販売株式会社」に仕入れの7割を依存しています。

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日本出版販売株式会社は出版物の取次会社の最大手ですが、文教堂の経営再建の重要なパートナーとなっており、資本出資だけでなく、事業再生のための様々な施策の実行を支援しています。

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経済(Economy)のところで、「書店の業績は厳しい」と書きましたが、書店に限らず経営再建を支援している日販GHD(日本出版販売株式会社の持株会社)も、川上の出版社も厳しい状況です。

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先ほど、「再販売価格維持制度」のところで「本の価格は出版社が決める」と書きましたが、それによって業界として各社の取り分がほぼ決まっています。

・出版社 :定価の7割
・取次会社 :定価の1割
・書店 :定価の2割

というのが一般的な配分といわれており、各社の粗利もそれに近い数値となっています。
(KADOKAWAの粗利が少ないのは、上記取り分から、著者への印税や紙・印刷代等のコストが差し引かれるため、少なくなっていると想定)

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粗利はほぼ決まっている状況の中、本が売れなくなっていることに加え、最近は「物流コストの値上がり」が業界の大きな課題となっており、「出版流通の危機」ともいえる危機的状況にあるようです。

そんな中、この業界慣習を壊そうという動きがあります。
具体的には、Amazon、TSUTAYAが本や書籍の「買い切り」を表明し、業界慣習の変革に挑戦しています。

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次に、もう一つの業界を変える要因である「電子書籍」についてみてみます。

PEST分析(Society)

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出版物の売上は減少しているのは先に述べたとおりですが、電子書籍の売上はここ数年大きく伸びています。
2011年と2018年の比較では、約3倍に成長しています。

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インプレス総合研究所の調査によると、有料の電子書籍の利用者が増えたようです。20代~30代の男性、30代の女性の約25%が有料の電子書籍を利用しているとのことです。

冒頭に述べたように、私も最近電子書籍をはじめましたが、周りも増えてきた印象があります。
漫画村など違法サイトの摘発で「電子書籍はお金を払って読むもの」という意識が浸透したことに加え、Amazonの「Kindle Unlimited」のような月額制の読み放題サービスが増えたことで、アーリーマジョリティからレイトマジョリティへ普及していったものと考えられます。

サービス別でみると、やはりAmazonの「Kindle」が最も利用が多く、「LINEマンガ」も同じくらい多いようです。
(マンガBANG!使っていましたが、LINEマンガも見てみたいと思います)

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では、PEST分析の最後に「技術(Technology)」の業界への影響をみていきます!

PEST分析(Technology)

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みなさんは、本を売ったことはあるでしょうか?

新年度で引っ越しも多いこのシーズン、読み終わった本を売る方も多いと思います。
最近は、本棚の本をスマホで「パシャリ!」とするだけで査定額が確認できるサービスもあるようです。

読み終わった本を売る先として、以前はBOOKOFFなどの古本屋が主流でした。
ただ古本屋だと、よほど人気コミックの最新巻などでない限りは、安い買取価格しかつかないのが普通でした。(文庫本だと1冊10円とか、古いものは無料引き取りなど・・・)
しかしながら、こうした本の二次流通も、フリマアプリの普及によって近年変わってきています。

古本屋などの業者を挟むと、当然ながら業者は自分のマージンを考慮した買取価格を提示してくるため、販売価格と比較するとかなり安い値段でしか売れませんでした。
しかし、フリマアプリだと、自分の売りたい値段で出品できるため、手間や送料などのコストはかかるものの、古本屋の買取価格より高い値段で本を売ることができます。
これを利用し、話題の新刊を「ほぼ無料で読む」という方もおられるようです。

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マーケティングトレースの本は3割引程度、会計クイズの本は定価~1割引程度で取引されているようです。

なお、このnoteを読まれている方は、できれば新書をご購入ください。
このnoteが書けたのは、この2冊の本(を書かれた黒澤さん、大手町さん)のおかげと言っても過言ではありません。

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ここまで紙の本の二次流通について書いてきました。
では、電子書籍の二次流通はないのでしょうか?

現在、商用化されたサービスはありませんが、電子書籍大手のメディアドゥが、ブロックチェーンを用いた電子書籍の流通基盤の構築に取り組んでいるようです。

デジタルデータである電子書籍は、紙の出版物よりさらに二次流通が容易であるため、出版社などの業界から了解を取り付けるには、二次流通の場合に出版社にベネフィットが生まれるビジネスモデルなど、乗り越えるべきハードルは非常に多いと思います。
ただ、これが実現すると、紙から電子書籍へのシフトがより一層加速すると思いますし、私たちの読書体験も大きく変わると思いますので、今後の動向に注目です。

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PEST分析まとめ

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ここまでのPEST分析の結果をまとめます。

政治(Political)

「再販売価格維持制度」、「販売委託制度」という慣習に守られてきた業界ですが、ここに来て、業界慣習を壊す動きが出てきています。

経済(Economy)

出版物の市場の衰退スピードは早く、書店だけでなく、出版社、取次会社も厳しい経営環境にあります。
コロナウイルスの巣ごもり需要で、売上を伸ばしている所もあるようですが、需要が一巡するとまた元に戻る可能性が高く、このままの状況では業界全体として危機的であることに変わりありません。

社会(Society)

電子書籍・雑誌が年々普及しており、市場全体の2割弱を占めるまでになっています。
この動きは今後も続くと考えられ、「紙の出版物と電子書籍・雑誌が共生」する方法を考える必要があると思います。

技術(Technology)

フリマアプリなど二次流通を容易にするサービスの登場により、二次流通の量が増えてきています。
また、電子書籍の二次流通の仕組みも検討されており、近い将来実現するものと考えられます。

文教堂はどうすれば復活できるのか?

PEST分析のまとめで見たとおり、「出版・書店業界の変革」の動きは今後も加速していくものと考えられます。

そうした外部環境の中、文教堂の生き残り戦略として、「リアル書店ならではの価値提供」をあげたいと思います。

「思いがけない本との出会い」

は、リアル書店でしかできない体験です。
私が本屋が好きな理由も、ただ「本を買う」という体験ではなく、「本と出会う」という体験に価値を感じているからです。

「なんとなく気になって本を手にとってみる」

そうした本との出会いは、ユーザーの好みをAIで学習し、より購入可能性が高い本を選んで表示するAmazonのオススメでは実現できない価値です。

文喫という「入場料を取る本屋」が2018年12月にオープンしましたが、本を売るのではなく、「本を通じた体験価値」を売ることで、業界慣習で決まった取り分以上の利益を稼げるビジネスモデルになる可能性があります。

文喫は文教堂のパートナーである日販が運営しています。
文喫がどれくらいの収益を上げているかは不明ですが、「本屋に入るのにお金を払う」のが当たり前になるくらいに、価値を磨き上げることができれば、日販と共同で文教堂のビジネスモデルを転換し、再生することができるのではないでしょうか。

本好きの一人として、文教堂、そして業界の変化をこれからも注視したいと思います!






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