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引退年齢は自分で決める時代? 「年金開始75歳法案」に思うキャリア

 「年金開始75歳法案、審議入りへ」。
 50歳で早期退職したばかりの私にとって、年金がいくらもらえるか、老後のお金は足りるか、は今とても大事な問題。

 この機会にきちんと年金制度や改革の中身を理解しておこうと、今更ながらあらためてこれまでの報道を見直してみた。

 実は最初にこのニュースを朝日新聞で見た時、「どうせ、減額や先延ばしにされるのだろう」と早とちりした。その記事には詳しい改正内容の説明はなかったからだ。

 調べていくうち、「人生100年時代」という長寿時代の生き方・働き方に沿った改革だとわかった。日経新聞の記事から、ポイントを抜粋すると。

●公的年金見直しのポイントは三つ

1)年金の受給開始年齢を「60~65歳」→「60〜75歳」に
 「受け取り開始年齢を1カ月遅らせるごとに年間の受給額は0.7%増える。75歳まで遅らせると終身で年84%増になる」
2)「高齢者が働くと年金が減る」という仕組みを改善
 「60~64歳の場合、現行では賃金と年金の合計額が月28万円を超えると年金が減るが、この基準を月47万円に引き上げる」
3)厚生年金を納める事業者を拡大 501人以上の企業→51人以上へ 
 厚生年金の加入条件は、現行では「従業員501人以上の企業」「労働時間は週20時間以上」「賃金は月8.8万円以上」。この従業数基準を見直し、22年10月から「101人以上」、24年10月から「51人以上」に。中小企業で働くパートに対象が広がる。
(いずれも、説明は下記の記事から引用)

●選択肢が広がる一方、プラン次第で差がつく時代

 年金の受給開始年齢の選択肢が広がる。「働くことの楽しみ」よりも、「年金という『ご褒美』の楽しみ」が大きい人には、あまり意味がないだろう。仕事を辞めて、趣味や自由時間だけで人生後半を過ごしたい人もいる。

 一方、「働くことが好きな人」「働けるうちは仕事もしたい」人にとっては、ポジティブに受け止められるかもしれない。日経新聞を読む限り、今回の改正は、60歳から75歳までの好きな時に受給開始できるのだから、「人生設計」の自由度は高まったように思う。

 私自身はというと、会社勤めかどうか、フルタイムかどうかは別として、できるだけ長く仕事をしていたいと思っている。

 とはいえ、早期退職で会社を辞めたばかりの私は、年金を含めた老後への不安も大きい。いつまで働き、いつから年金をもらうか。今まさに、そのキャリアプランに向き合っている。

●65歳まで守られるキャリアを捨て、70歳まで働く挑戦へ

 先日まで私がいた会社では、平均的には50歳前後から給料が下がり始める。60歳以降に「再雇用」の道が用意されているが、給料はさらに半分になる。それでも、再雇用後まで残る先輩は多かった。でも、私は会社に残って、65歳までワクワクしながら働くイメージが、どうしても湧かなかった。

 そして、「50代の途中で離脱するなら、今のうちに新しいチャレンジをしたい。人生一度きりだから」と思った。
 22歳の入社時には「22歳〜定年(60歳)」までが一体に見えていたキャリア。だが、自分の定年を70歳と仮に決め、「22歳〜50歳」の28年間と、「50歳〜70歳」の20年間に分けて考えることにしたわけだ。
 「少なくとも65歳までワクワクできる仕事、できれば70歳まで働ける仕事をここからもう一度つくろう」と思った。

 自分の定年を仮に70歳と決めたのは、70代も今のように働けるかは、正直、自信がないからだ。ここ数年、仕事でシニアのコミュニティ運営をしてきた経験から、60代と70代では、体力、知力ともに大きな差があるように感じている。だから、今回の75歳への繰り下げは、いろいろな意味で「かなり限られた人」(能力的に恵まれた人)のためのものであるようにも感じる。

 たとえ75歳まで働き続けられたとしても、その時にいくらぐらいの給料に見合う仕事ができるものか、50歳の今はまだ見当がつかない。

 今後、いつの間にか支給開始が70歳から、あるいは75歳からになるということがあるかもしれない。そうあって欲しくない。70歳まで働くことを社会で「一般化」することも、かなり無理があると感じている。同時に、企業に「再雇用」の負担を強いることには、もっと疑問を感じている。

●企業に「しがみつく人」を増やしてしまう

 今回、年金改革法案と同時に提出された「高齢者雇用安定法」などの改正では、企業に70歳までの定年引き上げや継続雇用を努力義務として求めている。パートタイムの厚生年金加入が広がる中小規模事業者が負担増となるだけでなく、「70歳まで雇用努力を」などと言われる企業にとって負担は大きい。
 社会全体として年金の財源確保につながるとしても、企業からすれば「ツケを回された」格好に映るだろう。

 そして、こうした制度の本当の問題は、社会として「働き方の多様性」や「雇用の流動性」を奪っていることにあると思う。

 65歳まで再雇用という現行制度、そして今回の「所得による支給制限」緩和で「得」をするのは、特に伝統的な大手企業にぶら下がるサラリーマンたちだ。それが70歳になれば、さらに「ぶら下がり期間」は長くなる。

 伝統企業は「役職定年」や「早期退職」「給与引き下げ」を導入し、組織の成長・イノベーションのための新陳代謝をしようとしてきた。
 にもかかわらず、今の「雇用延長」という仕組みは、今の50代や60代がいつまでも会社にしがみつき続けることを支援している。

 その結果、組織内で30代が活躍するポジションにつけなかったり、ひどい会社では若手社員を新たに採用する動きが止まったりしてしまう。
 今回の「コロナ」の問題をきっかけに、そうした動きが強まる可能性はないだろうか。それでは、社会全体として新しいサービス、イノベーションを生み出していく力は生まれないのではないだろうか。

 私は、50代が30代に劣ると思っているわけではない。失敗を積んできたからこそできる判断もあるかもしれない。
 それでも、組織や働き方は多様性が必要だと思う。そうしないと、組織に歪な年齢構成を与え、結果的に成長を妨げてしまうのではないかと思う。
 成長やイノベーションは勢いのあるベンチャーに任せておけばいい、という考えもあるが、社会全体でも流動化や新陳代謝は必要ではないだろうか。

●70歳まで働く方法に、フリーランスや起業もあり?

 一方、今回の年金改革法案とセットで提出された雇用関連法案では、企業の「努力義務」のなかに、「フリーランス契約」「起業支援」などが盛り込まれたようだ。個人にとってはさらに選択肢が増えるとも言えるし、企業にとっての「逃げ道」とも言えるのだろう。

●全体像と「自分に役立つ」情報をどこで得るか

 さらに最後にもうひとつ。今回、「75歳年金法案」をあらためて調べながら、感じたことがある。
 日経新聞と朝日新聞の過去半年間の記事、厚生労働省の国会提出法律案などのページをながめた結果、

 一言で言えば、「もったいない」

 方向として「人生100年。長く働く時代」というビジョンが明確になっているのだから、それをどう政策として実現しようとしているのか、もっと伝える必要があるし、伝わる伝え方もあるように感じた。

 わかりやすく伝える役割はメディアが担うものだとすれば、日経新聞は、施策としてどんな狙いがあるのか、年金を受給する人、サラリーマンにとって、どういう変化や意味があるのかを、いろいろな形で解説していた。

 一方、朝日新聞は、厚生年金改革の焦点を「パート適用拡大が中小事業者にも広がる」という点に当て、繰り返し報じていた。

 朝日新聞は、全体に政策批判の記事が多く、腹落ちするものもあった。批判の羅列にとどまらず、ひとつひとつの批判をもっと掘り下げて解説してもらえたら、議論が進むのではないかと思った。たとえば、以下で「見方もある」で終わらせずに議論ができたらと思う。

 年配の働き手を雇い続けたり待遇を保ったりするため、若手世代の待遇を下げる企業が相次ぐとの見方もある。(下記の記事から引用)

 少し違うところでは、「結局、今回の法案で『得する』のは誰?」ということを伝えていたのはこちらの記事。

 いずれにせよ、ひとつだけの情報源だけで、すべての「知りたいこと」を満たすのは難しい。とはいえ、時間は限られる。だからこそ、(サラリーマンならサラリーマン、起業家なら起業家といった)ひとつの立場から見た情報提供だけでなく、制度設計の本質をつくような批判や議論と役立つ情報とを一緒に読みたいと感じた。










#COMEMO #NIKKEI

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フリープロデューサー、国家資格キャリア・コンサルタント。新聞記者・編集者を経て、ソーシャルメディアエディター、マーケティング担当、新規事業創造など。紙メディアとデジタルメディア、ビジネスと編集の間を行ったり来たり。高齢社会×テクノロジー、働き方、お酒に反応。息抜きは風と遊ぶこと。
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