『ルンナは夜明けまでに』についての覚え書き

 こんにちは。初めての方、はじめまして。

 私は小説をnoteに投稿したら、その都度「覚え書き」というものを付けることにしていました。あのとき、こんなことを考えながらこの小説を書いていた、という創作の裏話を紹介するのが目的です。自己満足であると同時に、自分のための備忘録でもあります。

 これまでは、過去に書き溜めた小説にだけ、「覚え書き」を付けていましたが、少し前に四つの小説の覚え書きという記事を作成したことで、新作にも「覚え書き」を付けるように方針転換しました。野暮と思いつつ、書いていて楽しかったのです。自己満足ここに極まれり……。

 今後も新作小説に「覚え書き」を付けていくかはわかりませんが、ルンナは夜明けまでには、二つの理由で「覚え書き」を書き残したいと思ったので、今回書くことにしました。

 まず、この小説は、伊藤緑さん主催の企画原稿用紙二枚分の感覚に応募するために書いたものです。

 実は最初、別の作品を応募する予定でいました。マルチタスクが苦手な男性が主人公で、恋人との濃厚なキスに夢中になり、つい胸を触っていた手が疎かになったことで、その恋人から「右手が遊んでる!」と叱責されてしまうお話です。(破廉恥な内容で申し訳ない)

 しかし、これを書いているとき、心理描写をすることが楽しくなってしまい、この作品での応募を断念しました。「原稿用紙二枚分の感覚」は、心理描写をなるべく排除することが応募規定にあったからです。

 そこで私は、noteに未発表だった自分の小説のことを思い出しました。『磯崎ルンナ、午前三時に町を彷徨う』(2015)という二十枚の作品です。非常にシリアスな内容のため、noteへの投稿を断念していたものです。トイレで出産したばかりの赤ん坊を抱えて、ひとり夜の町を彷徨い歩く女子高生の行動を描いています。そこには苦痛や叫びや孤独や哀しみも書き入れてあるので、読み終えたときに必ず重苦しい気持ちになるだろうと思い、表には出せないと判断しました。

 けれども、もしこの小説から、心理描写を取り除いたら……、そして、二十枚のうちの九割を削って、二枚分の長さに改稿したら……、この作品を日の当たる場所に出せるのではないか、と私は考えました。

『ルンナは夜明けまでに』は、引き算によって作られた小説です。

 どこを削って、どこを残すか悩みました。二十枚の小説から十八枚を削る過程で、主人公の心理描写が消えました。女子高生という肩書きが消えました。学校の友達が消え、相手の男性が消え、初恋の男の子が消え、仔猫の思い出が消え、町を彷徨う具体的な行程が消え、ルンナが痛がる描写と叫び声が消え、この小説を支えている物語までもが消えました。

 残ったのは、ルンナという女性の、出産から夜明けまでの行動だけです。私がこの小説で一番書きたかったものが、結果的には残ったのだと思います。

 削りだした原稿だけではあちこちに矛盾が出ているので修正し、原文にはない文章も一部加筆して、『ルンナは夜明けまでに』は完成しました。『磯崎ルンナ、午前三時に町を彷徨う』とは根が同じ作品ですが、別の作品と言ってもいいと思います。(最後の一行は同じです、変えませんでした)

 不思議なのは、私が二十枚の中で肉付けした女子高生のルンナより、二枚の中で生きているルンナという女性の方が、よりリアルな「体」を獲得しているように感じたことです。これは見逃せない点だと思いました。私にとっては発見であり、創作に関する重要な気付きになりました。

 この覚え書きを書くのに理由が二つあると私は言いましたが、ひとつは、これがその二つの作品の「覚え書き」の役割を担っているということ。もうひとつは、「原稿用紙二枚分の感覚」という企画がなかったら、この作品は生まれなかったということを、ここに記録しておきたいと思ったからです。(主催者の伊藤緑さんに、この場でもう一度感謝を申し上げます。講評の言葉、大切にします)

 最後に、二枚に分量を減らしても、この作品を投稿するときは何度も躊躇いました。重いテーマです。読んでつらい気持ちになった方に、心からお詫び致します。

 作品にはWEBでの読み易さを考慮して、適宜、行空けを入れました。お読み頂いた方に感謝を申し上げます。

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