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四つの小説の覚え書き

 こんにちは。
 初めての方、はじめまして。

 私はこのnoteという場に、短編小説の新作を去年から現在まで四作発表することができました。そこで、それぞれの作品の「覚え書き」を、まとめて紹介したいと考えました。旧作にも同様の文章を付けていましたが、創作の裏話が趣旨であることは今回も同じです。

 それぞれの「覚え書き」に作品のリンクを貼りましたが、その下に、小説を紹介する意味で、本文の抜粋を転載してみました。これはTwitterでフォローさせて頂いている方々が、同様の趣向で投稿しているのを見て、あまりにも素敵なので真似てみたものです。自分が書いた小説をこうして宣伝するのは初めてですが、面白そうだと思って頂けるだけでも、作者としては望外の喜びです。

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『木星の翅を連れて』についての覚え書き

私が今、自分の身を守るためにできるのは、編み棒をキャンディーのように舐めること、つまり、蛾を箸で摘んで歩いているおかしな子だと思わせることだけです。

『木星の翅を連れて』より


 最新作となるこの小説は、『一方通行の愛』という詩を投稿した後から執筆を始めたので、およそ十日間で完成した計算になります。遅筆の私としては異例の早さです。

 最初、詩として作り始めましたが、不意にストーリーのようなものが浮かんできて、この詩は長くなるという直感が降りてきました。そのまま詩として完成させる選択肢もあったのですが、私は「小説」に切り替えることに決めました。

 自分には珍しく「です・ます調」の柔らかい語尾を採用した文体になっています。もともとの詩が「です・ます調」だったからですが、結果としてこの文体が、主人公の性格や年齢設定に影響を与えることとなり、同時に「新生活」というテーマを思い付くに至りました。

 この作品でもっとも苦しんだのが、終わり方とタイトルです。終わり方は書き出しよりも重要だというのが私の実感です。作品を書き終えてからは、タイトルが思い付かなくて半日悩みました。その場しのぎで『天空から地上へ』という案も考えましたが、急につまらないものに思えてボツにしました。採用したタイトルはとても気に入っています。


『鶏小屋の夫』についての覚え書き

夫のすべてを知りたいというのは、言い換えれば隅々まで自分の支配を及ばせたいという願望なのかも知れない。

『鶏小屋の夫』より


 森巣ちひろさんのnoteで、「断片小説」のお題〈官能的×鶏小屋〉を拝見したことがきっかけでこの作品が生まれたことは、本編の前に置いた「はじめに」で述べた通りです。

 最初に思い浮かんだのは、この小説の書き出しとなったこの一文でした。

 夫が激しく私を求めてくる日は、決まって夫が鶏小屋に行った後のようだ。

 この文章に牽引されるように私は小説を作っていきました。ミステリーの要素を取り入れたのも、私自身が、登場人物である「夫」の秘密を知りたいと思ったからです。先の事を考えずに書き始めると、大抵行き詰まります。でも、この作品は恵まれていました。天恵のように構想中の私に〈ダジャレ〉が降りてきたからです。

 そう、この作品は、そのダジャレを成立させる目的で書かれています。本当に真面目に、真剣に、私は取り組みました。いい加減に作ってしまうと、ダジャレという笑いを生み出す“おふざけ”が、台無しになってしまうと思ったからです。

 また、この小説には官能シーンも挿入されています。難しかったですが、描写の勉強になることは確かで、できればまた〈濡れ場〉というものに挑戦したいと思いました。


『挨拶に行く前夜』についての覚え書き

彼女は閉じた唇の間から息を吐き、ぷるぷるぷると音を立てて子供のように遊んでいる。余裕があるのだ。

『挨拶に行く前夜』より


 昨年、noteで募集のあった「旅する日本語」投稿コンテストのために書いたショートストーリー。

 いくつかの企業が協賛し、〈旅にまつわる美しい日本語〉の中から一語を題材に取り入れたエッセイやショートストーリーを募る企画です。キーワードとして提供された十一種類の言葉は、どれも美しく、普段の会話で使用する機会は少ないですが、それゆえに、いざ発語した際に伝達される心象は、色彩や情景や季節をも呼び込む日本語ならではの魅力に溢れています。

 題材となる言葉選びに悩んだ私は、旅、飛行機、という手がかりから、結婚を決めた際に、横浜に住んでいる両親の元へ挨拶をしに行った旅のことを書いてみようと思い立ちました。そういう意味では、このショートストーリーには実話成分が多く含まれています。

 難しかったのは四百字という制限でした。プロポーズのエピソードや両親との対面シーンを入れたら字数が超過するので、焦点を絞り、削りながら書き進めて今のような形になりました。

 そして昨年末に自分の中で天地がひっくり返るような僥倖、すなわち、企業賞受賞の報せが届きました。

 noteのフォロワーの皆様から祝福の言葉やスキを、感極まるほどたくさん頂きました。フォロワーでない方からもスキを頂き、ここは、本当に暖かい場所だと思いました。感謝しかありません。

 物語のモデルになった妻は、頂いたコメントを読んで聞かせると、照れたり喜んだりとても嬉しそうでした。そういえば、妻のぷるぷるを最近聞いていませんが、それは多分、いいことなのでしょう。


『知らなかった塔、知っていた島』についての覚え書き

「ひとりで行った?」
「はい、ひとりですよ」
 彼女はますます私の顔を凝視するようになった。その視線は、私の顔ではなく、私の顔よりもっと後ろの方に向けられているようにも思えた。

『知らなかった塔、知っていた島』より


 noteに新作として一番最初に発表した小説。エッセイのつもりで書き始めましたが、急遽、小説にすることを思い付きました。この小説がエッセイ風なのは、そのような成り立ちがあったからです。

 この作品も、事実の占める割合が多いです。T館山の場面とH山島の場面は、私自身の体験を、脚色なしでほぼそのまま書いています。「#ホラー」のタグを付けていますが、怖くないのであれば、それは事実を書いたからだし、怖いのであれば、やはり、事実を書いたからです。(こういう言い方を一度してみたかった)

 ただ、小説の中でT館山とH山島は、同じ日に訪れていることになっていますが、実際は、その二カ所は別の日に観光に訪れています。

 後半、Nさんという女性が登場しますが、この人物は私の知り合いをモデルにしています。いわゆる霊感のある人で、彼女が急に静かになると(……えっ、何か見えている?)と心配になるときがありました。

 観光案内を兼ねたつもりでこの小説を書きましたが、心霊スポットとして扱っているため、二つの場所はイニシャル表記にしました。わかりやすくヒントを散りばめてあるので、興味がおありの方は検索して頂けると見付けるのに時間はかからないと思います。T館山の乳白色の靄をときどき思い出しますが、あれは本当に奇妙な光景でした。

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 以上、四つの作品を覚え書きとともに紹介しました。

 改めて眺めてみると、何の偶然か「地方と都会」という要素が、四つの小説のいずれにも含まれていることに気が付きました。自分の底流に、このようなテーマが無意識のうちに潜んでいたのかと、この発見に驚いています。

 webで読むには、少し分量のある短編ですが、それぞれの作品にたくさんのコメントを頂いています。作者としては貴重な時間を割いて読んでもらえただけでもありがたいのに、お言葉も頂けたことに心の底から感激しています。頂いたコメントは、丁寧に拝読しています。ありがとうございます。

 これからも、折に触れて小説を発表できたらと思います。お読み頂いた方に感謝を申し上げます。

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