見出し画像

「このままだと枯れるよ」と夫に言われた日

「明日、エン様(子どものあだ名)見てるから出かけてきていいよ」

「うん、ありがとう。……なんかさぁ、最近一人で出かけても、エン様いないと寂しいな、てなってすぐ帰ってきちゃうのよね。買い物とか、絶対やるべき用事だけ済ませたらすぐ帰ってきてしまう。夫氏もそんなことない?」

「わかる。わたしもそうなりかけてる。でも、このままだと枯れるよ

 枯れる。私、齢31にして、枯れる。
 あと人生60年くらいあるのに、枯れる。
 それは相当ショッキングな言葉だった。


 私たちはフルタイム共働き。エン様は平日の8:30-17:30で保育園に預かってもらっている。送迎の分担はだいたい半々で、私の方がお迎えが若干多い。また4月に夫婦とも転職した影響で、平日は夕飯、お風呂、寝かしつけが夫婦それぞれワンオペになっている。

 毎日楽しく過ごしている。この子に幸せに過ごしてもらおう、という動機が内側から湧き上がってきて、一緒に遊び、リクエストに応えて歌い、絵本を読み、それなりにおいしいご飯を作り、望みを叶えてあげて、一緒に笑っている。結果的に私たち親がとても幸せな日々を送っている。

 子どもができる前は、幸せとはあたたかいお布団でぬくぬく過ごすことだと思っていた。今は6時半に「おはよー! あそぼー!」と平日土日関わらず起こされる。時間を気にせずゴロゴロすることはできない。
 しかし今は、幸せとはエン様を膝の上が膝の上にちょこんと乗ってくること。絵本読んでくれと頼まれることもある。エン様のあたたかさが何より愛おしい。

 夫氏はポーカーフェイスで無口で、外見上何を考えているのかわからないが、多分遠からず同じように感じている。だから「私もそう(エン様不在だと面白くない状態に)なりかけている」と言った。それくらい、エン様の存在が私たちの中で大きくなっている。


 問題は、自由時間の行動だ。
 土日はお昼寝前後でエン様担当を分担している。例えば土曜お昼寝前:夫、お昼寝後:私、日曜お昼寝前:私、お昼寝後:夫、という感じ。家族3人でお出かけすることもあるので臨機応変に調整している。
 エン様と遊ぶのはだいたい公園だ。日焼けするし、手も靴も服も砂ぼこりっぽくなるし、乾燥するし、汚れる。前は耐えられなかったのに、今は全然嫌じゃない。家に帰ったら手を洗えばいい。
 私の分担の時は、徒歩圏内か、車や電車で少し行ったところの公園で過ごすことが多い。一方、夫の分担の時は、かなり遠くの大きな公園に行ったり、時には特急や新幹線に乗っていたり、都内で遊んでいることもある。

 夫婦とも自由時間を多めに確保している方だと思う。夫からはよく「○○行ってきたら」と提案される。
 けれど、新しく何かをアクションするのは大変。絶対しないといけないことはこなせるが、買いたいものもないし、人込みしんどいし、誰かと会うにも日程調整の難しさとドタキャンのリスクを考えると自分から誘いにくいし……。
 子どもができて初めて分かったが、子ありの人と子ナシで会うには子を預けられる環境が整ってなければならず、パートナーがワンオペできる人か、実家近いか等で難易度は爆上がりする。そして子アリで会えば子のごきげんを取る必要があり、友人とゆっくり話すことはできない。ゆっくり話さなくてもいい友人なら子アリで会えばいいのだが、そもそもその友人に会うために労力を割く意味が分からなくなってくる。

 子育て自体が新しいことの連続なので、もうそれ以上新しいことを考えたり決めたりするキャパがない。

「このままだと枯れるよ。スタートアップの仕事をしているのに、それでいいの」
 夫はこう続けた。私は4月に転職してスタートアップ関連の会社にいる。新しい技術が毎日生まれ、起業し社会実装し、未来を創っていく仕事。スタートアップ業界の人が、そんな保守的でいいの? という批判だった。
 ちなみに夫もスタートアップ業界にいる。土日やたらあちこちの公園に行ったり、1人時間にはたいていサウナ開拓をしている。私はこの人も「特にやることないからサウナ行ってる」のだと思っていた。しかし認識齟齬があって、夫は常々新しい公園、新しいサウナを見に行っていたのだ。見た公園の量、サウナの量はすごい。とにかくN数を稼いでいるのも、スタートアップっぽい。

「このままだと枯れるよ」

 夫のこの言葉は、個人としての魅力、パートナーとしての魅力もこのままだと枯れるよ、と示唆していた。

 でもさ、母親の皆さん。そんなずっと新しいことしてられる? 無理じゃない? 子どもの相手で体力全部使い果たす。最低限の意思決定をするのもやっとこさ。産後はとりあえず生きて育児してるだけで万々歳だったのに、いつのまにか私たちへの要求水準が高くなっている。

 そして私は弁明したい。ちょっとでもきれいにいようとオールインワンから化粧水+乳液のケアに変えた。ワードローブはミニマムながら私に似合うと思う服を買っている。仕事用のバッグも新調した。

超熟も入るHIROFUのバッグ

 私なりに新しいことはチャレンジしてるつもりだった(レベルが低いかもしれないけどそれは私が決めること)。

 ただ、夫の指摘は「エン様不在だと面白くないと思ってる私の思考だと、枯れるよ」ということだった。
 今回は私の完敗。夫が発した10文字の裏に込められた今の私への批判は、的を得てグサッと刺さった。


 エン様との時間はもちろん大切にしたい。でも私はエン様の母である前に、本名の独立した個人だった。私が枯れていてはいけない。

 個人としてちゃんと咲いていられるよう、頑張ろう。まずは高校時代の友人2人と会う予定を入れた。子連れNGのホテルで、アフタヌーンティー。だいぶ久しぶりの女子会!

 子どもの話ばかりになってしまわないかな。ちゃんと2人の話聞けるかな(ちなみに独身とDINKS)。セイボリーとスイーツとお茶、ちゃんと味わえるかな(子どもが生まれてから早食いがクセになってしまった)。

 不安はある。けど私ならきっと大丈夫。
 新しい刺激に触れる日、スタート。

《終わり》

この記事が参加している募集

いま始めたいこと

with アドビ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?