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でも、それが僕にとってはおもしろい

今日もよく晴れている

今年、関東の年明けは
本当に天気に恵まれている

この空の青さみたいに
ウイルスなんて澄んで透き通って
どこかへ消えてしまえばいいのに

今日は、彼の実家に新年の挨拶に行く
彼の両親に会うのもかれこれ4回目
緊張も、以上な不安もだいぶしなくなった

「妹の義弟くんと12時半に待ち合わせしてるから、
それまでは駅でふらふらでもしようか?」

駅の人はそこまで多くなかった
今年はどこも静かなお正月だ

この街のどこかにも
ウイルスが存在しているのだろうか

店の前に立っていた義弟くんと合流して
彼の実家に向かった

ふと、思った
義弟くんは少し弟に似ている気がした

話し方、雰囲気、凛とした姿勢
数日前に会った、田舎の弟を思い出した

「大学は**で、就職してこっちに来ました」

なるほど
大学も学部も同じだった

学年は私の弟が一つ下らしいけど
感じ取った雰囲気が似ていた

小さい頃から、そういう勘や感じ取ることが
少しだけ得意だ
私は心の中で自画自賛した

彼の実家に私たちが到着すると
初めての静かな新年会の準備が始まった

「どうも」

彼の義弟さんだ

私達より少し遅れてやって来た
彼は自分の弟のことをあまり話さない
だからこれまで想像上の人でしかなかった

「初めまして、***と申します」
実在した人だった
義弟さんに会うのは、今回が初めてだ

イメージよりもずっと人間らしい人だ

たまに少し沈黙はあったが
ごく普通の家族の集いだった

初対面同士の人がいる中で
共通の話題を模索する大人達の中で
多少の無言の空間はあって仕方ない

なんだ、全然普通じゃない

私は心の中で彼にそう話しかけた

ふと彼の横顔を見た

なんでだろう
心ここに在らずって感じだ
何も見ないようにするためなのだろうか
何かを必死に考えないようにしているのだろうか
目の前のオマール海老の身をほぐすことに集中していた

そこに彼はいるのに、居ないように感じた

「***ちゃんの家族と僕の家族は違うんだ」

いつだったか
そう呟いていたのを思い出した

彼の出す空気を感じて
私は少し寂しい気持ちになった
今いる場所は
テレビドラマの中なんじゃ無いかとさえ思えた

「はい、ここ絶対美味しいから***ちゃん食べてね」

私に対しては変わらず優しい彼のままだった
場所がどこであっても
それは私の知っている彼のままだ

テイクアウトのフレンチ
高級な食材ばかりでおいしかった

ただ、彼と二人で食べる
スーパーで買った鯖の塩焼きの方が
私は好きだ

気づいたら3時間が経過していたので
お礼と挨拶を済ませて
急いで次の場所に向かった

半年ぶりに
おばさんおじさんに会いに行く


「あー、終わったね。
 ***ちゃんが居てくれて明るくなったよ。
 頑張ってくれてありがとね。」

彼は、
いつだって
どんな小さいことだって
精一杯の愛情を込めて
ありがとうを伝えてくれる

ホームに着く頃には
いつもの穏やかな彼が横にいた

「やっぱりここの街が落ち着く」
おばさん家の最寄駅に着いた瞬間に懐かしく感じた

いつか、彼とこの街で暮らせたら
そんなことを考えてしまうくらい
私はこの街があっている気がする

「寒かったでしょ、いらっしゃい」
「どうもどうも、二人とも元気だったか」

おじさんもおばさんも相変わらずだ
いつ来ても、まるで娘のように迎えてくれる

「どうだ、新婚暮らしは慣れたか?」

「飯は作ってるのか?」

「ご飯はちゃんと食べているの?」

たまに来ると
いつも決まって同じことを聞かれる

ちゃんとやってるか
生活しているかという確認
何となく、でもちゃんと
いつものように答えた

彼にも同じように聞いていた
彼は笑顔で楽しそうに答えていた

二人で来たのは今日で三回目
もうすっかりこの家に溶け込んでいた

「ちゃんとご飯作ってるよ、お弁当も。
 ただほとんどない毎日メニューは一緒だけどね」

「なんだ、代わり映えの無い飯か。そりゃつまらんな」

「昔と違って、すごく規則正しい生活してるの。
 週末は夜の7時には全部終わって、9時には寝れる」

「何だそりゃ、つまらん人生だなあ」

「夜中に自転車でバイトから帰って来るのが
 本当に心配だったのが嘘みたいねえ」

相変わらずの会話
おじさんの少し荒い言葉も
おばさんの優しい言葉も
私には何だか心地いい

愛情が込められている気がするからだ

「今年は何か植物を育てたいの。
 食べれるものとか。
 トマトか苺がいいなと思うんだけど、どうだろう?」

おじさんに聞いてみた
以前から庭の畑で家庭菜園をしている
都会の中では立派な庭だ

おじさんはいつもと変わらず
私には植物は無理だと笑っていたけど

「それなら豆苗がいいじゃないかな」

すると突然、
彼が僕の出番だと意気揚々に言った


「簡単だし、おもしろいよ。
 二、三回収穫できるしサラダとか使いやすい」

料理上手のおばさんも
それはいいわねと笑顔で賛成した

主婦の鏡と言えるおばさんも賛成するんだから
きっと豆苗の案は間違いないのだろう

おばさんのご飯はいつもどれも美味しい
大学時代、唯一3人で一緒に食べる夕飯が
私はいつも楽しみだった

おじさんが言ってたことは正しい
おばさんのご飯に比べたら
なんて面白みのない食事だろう

今日のおばさんの作った豚汁も
相変わらず絶品だった

「また来るね、良かったら結婚式、来てね」

「寒いから気をつけるんだよ」

あっという間に8時を過ぎていて
おばさん家を後にした

都会にもかかわらず
この街の星は綺麗だ

冬の夜の空気
とても澄んでいて気持ちがいい

駅に向かう途中、彼が言った

「きっと、周りからすると、本当に面白みの無い生活かもしれない。

 でもね、たとえ毎日同じご飯でも、
 お風呂に入ることが早くても、
 僕はそれでとても満足なんだ。

 そういう人生が、僕にとってはおもしろいんだ。」

彼の表情はとても清々しかった

私の大好きな彼がそこにいた

この横顔が
自分信じて真っ直ぐ進む彼が
私はたまらなく好きだ

自分の喜びを知っている
そんな彼が、私にはとても頼もしい
凛としていて、とても格好い

そんな彼と
これから先の長い人生を歩いて行く

今年の冬は
まだ、始まったばかり

私たちの生活も
まだまだ、始まったばかりだ

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#夫婦
#いつか伝えるために
#日常

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