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欲望って誰のものだっけ『愛と欲望の雑談』抜き書き

最寄りのデニーズが24時間営業に戻ったのをいいことに、こんな時間に担々麺を食べる。欲望まみれ。

今日もプレゼント本かなーと思って本棚探していたら、岸さんと雨宮さんの薄い本を発掘。本っていうか小冊子のボリューム。ラジオ番組30分×2回くらいの分量じゃないかな。社会学者の岸政彦さんと、ライターの雨宮まみさんの雑談が収録。結果的に雨宮さんの遺作となったもの。

『愛と欲望の雑談』(ミシマ社)

紹介しようがないな。自分のためにどぅわーっと抜き書きしたのでそれを貼る。

▼人が欲しがっているものを、私も欲しい
 […]「雨宮まみ」が、雨宮さんご自身の中に三人くらいいるじゃないですか。
一号が欲望で突っ走っていって、二号は後からすごいダメ出しして、三号がそれを言語化して書いている。雨宮さんの『女子をこじらせて』は自己嫌悪の文学やなと思いました。[…]基本的にチーム雨宮を引っ張っていくのは雨宮一号の欲望ですね。[…]

 ルネ・ジラールという昔の社会学者が、「欲望の三角形」ということを言ってるんです。何かの対象があって、それを欲しいから欲望しているのではなく、対象をすでに欲望している誰か(これを「媒介者」という)を「模倣している」んだと。

雨宮 わかります。モテる男の人がモテる構造ってそれですよね。二人にモテた時点で十人くらい寄ってくる。ちょっとモテているころによってその人の付加価値が跳ね上がるんです。カッコよさとか、持っているスペックよりも、誰かに欲望されているということのほうが圧倒的に有効ですね。

 みんなが欲しがっているのを私も欲しいってことですよね。ただ面白いのは欲望を経験しているときはそうじゃないでしょう。本当に自分は好きやと思っているわけなんだけど、いろいろ引いて考えてみると人が欲しがっているものを自分も欲しがっているだけだった…みたいな。

雨宮 ボロボロにされて捨てられた三年後くらいじゃないと「あっ、別にあんな人、全然欲しくなかった!」ってわからないですね。欲望の真っ只中にいるときは、死ぬほど欲しいです。

 (笑)。欲望自体が他者の欲望の内面化なので、自分自身の内面的な欲望っていうのはそもそもありえない

雨宮 流行なんかは、まさにそう。すごく張り込んで買ったバッグや服が色褪せる瞬間ってすごいです。こんなに人って変われるのかっていうくらい、そのものの見え方が変わっちゃうんですよね。
▼「アナーキーな欲望のほうが、より本当の欲望」という妄想

 でも、そうするとどれだけ満たしても満たされないですよね。内発的な欲望ではないので、模倣の対象は限りなく存在するわけです。無限にいるし、ある程度満たしたらOKってことはないわけです。
 それにみんなが欲しいと思っているものを自分も欲望するので、結局は自分のほんとに欲しいものとはズレる。だからそれは常に自分の自己嫌悪の対象になるんです。

雨宮 つまり幸せな欲望というか、自分が真に単独で求めて、その欲望が満たされてよかった、みたいなことはないと。

 ない。ないんやけど、突き詰めていくと我々の欲望って、すごくありきたりなんですよね。そんなにすごいフェチを持っている人ばっかりじゃないし、意外と穏健です。別にそんな美人でなくていいし、そんなに金持ちじゃなくていい。普通でささやかなところで割とそこそこ暮らしてるのと同じことの延長で、他者の欲望を大勢が内面化してるわけですから、欲望も平均値に近い穏健なものになっていくわけですよ。
 だから普通の幸せを得るとしたら、そこに可能性があると思う。他者の欲望の模倣だから、完全に満足することは永遠にできないけど、でも逆に他者の模倣であるからこそ、それほど「個性的」な欲望でなくても、そこそこ満足できるかもしれない。[…]

 […]個人的なことなんですけど、僕は「かけがえのない本当の欲望っていうのは社会規範と絶対違反するはずだ」みたいな考え方がすごい嫌いで、「俺は普通でいいぞ」と思うんですね。政治的に正しい欲望って、本当の欲望じゃない、みたいな考え方があるでしょう。

雨宮 ありますね。アナーキーな欲望のほうが、より本当の欲望だ、という。

 社会規範から抑圧されていてみんな欲望を我慢しているけど、剥ぎ取って裸になってもっといろんなことをするんだと言っても、たかがSMとかくらいでしょう。そんなもん別に普通のことですよね。


私はほんとうに担々麺が食べたかったんだろうか。夜遅くにファミレスに出向くというのも、小市民的のささやかなエスケープを楽しみたいからだろうか。太りそうな糖質過多麺類をすするのも、うっすらと背徳感を味わいたいからだろうか。欲望ってなんだっけ。しかし担々麺は旨い。

うめざわ
*ミシマ社のこの「コーヒーと一冊」シリーズは、新書よりもさらにコンパクトで読みやすくってとても好き。じっくり読んでも30分程度で読める。他に安田登さんの『イナンナの冥界下り』も買ったなあ…手つけてないけど…

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