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「古くてあたらしい仕事」を読んで、夏葉社に惚れてしまった。

初めてのnote投稿は、いちばん好きな本のことを書きたいと思います。

「古くてあたらしい仕事」 島田潤一郎

夏葉社という出版社をひとりで立ち上げた島田さんの静かな言葉から、本を出すという仕事への想いが伝わってくる著作です。
「出版社を起こし、いろいろ苦労して軌道に乗せるまでのお話」というようなものではありません。

「どうして会社を立ち上げたんですか?」
これまでにこういう質問を何度受けただろう。
そのたびにぼくは「転職活動がうまくいかなくて、会社をやるしか選択肢がなかったんです」とこたえる。

島田さんが出版社を起こしたもう一つの理由には、幼いころから兄弟のように仲良くしてきた一歳年上の従兄が事故で急逝したことがありました。

三二歳の無職のぼくは、ぼくを必要としてくれる人のために仕事をしてみたいと思うようになっていた。
そして、それは探しまわるまでもなく、ぼくのすぐそばにいた。その人たちは、従兄の父と母、つまり、息子を亡くしたぼくの叔父と叔母だった。

創業した夏葉社は新刊の発行ではなく、かつて出ていた本の復刊として三冊の本を出版します。

ある風景、ある台詞、あるシーンに、人生のすべてが凝縮されていると思わせるような、文章の凄みだった。
すばらしい本を読んだあとは、必ず人生そのものに触れたような感触が残った。
それは、本という物の美しさも関係しているだろう。

夏葉社の本は装丁がとても美しいのです。本好きにはたまらず、うっとりしてしまいます。
そのために定価が高くなっても、島田さん自身がお金を出して買わないような本は絶対につくらないと書かれています。

時流を読んでいるわけでもなく、マーケティングなんて一切ナシの復刊本、しかも価格が高い。
そんな売れそうにない本を簡単に置いてくれる書店があるわけもなく、島田さんが全国の書店に営業して歩く様子が綴られています。
たったひとりでの地道な営業の苦労はあれども、悲壮感というものがそこにないように感じるのは、島田さんは自分がつくったプロダクト(本)を商うことに一点の曇りも持っていないからであろうと思いました。

ぼくは先に、「本をつくるのに際して、考えたのはただひとつ。それは、ぼくが欲しくなるような本をつくる、ということだけだった」と書いたが、もうひとつだけ付け加えたい。
それは、できるだけ他社がやらない仕事をするということ。
そのことも、最初から決めていた。
(中略)
売上の多寡が問題なのではない。自分の仕事の場所を保持することのほうが、よほど大切だ。

私は夏葉社のことを知りませんでした。
この本を読んで夏葉社を知り「だれかのためにつくられた本」を持ちたい、「だれか」になりたい、と思いました。

「だれかのための仕事」をしたいと思って、今日もはたらいている人がいる。そして、そういう仕事を受け取りたいと思っている人がいる。

だれかのための仕事は、世の中がどんなに便利になっても、消えてなくなるものではない。
それが、この仕事を10年続けた、ぼくの結論だ。


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