見出し画像

【連載小説】転送少女症候群、もしくは黍島柘十武の長い回想 #02




 遊が何者だったか、僕にはわかりません。
 いや、女の子だった。女の子で……女の子だった。
 はは、僕が確信を持てるのはそのくらいです。
 ええ、話は随分としましたよ。でも、僕は、はじめ、彼女の言っていることは、SFか、おとぎ話か、つまり、嘘だと思っていました。語られる故郷や家族や経歴は、なんというか、嘘っぽかった。
 話しましたよ、充分すぎるほど。ただ、彼女は有り得ないことばかり話しました。
 謎の少女というほど、彼女は寡黙じゃなかった。でも、彼女の口からこぼれる言葉を僕は与太話くらいにしか思えなかった。僕は自分の常識というやつを今になって恨んでいますけどね。
 そうです、後悔しています。
 ……うん、女の子だった。
 特別な――少なくとも僕にとって――特別な女の子に彼女はなった。

 出会い、ですか。
 落ちてきたんです。落ちてたんです。いや、本当に。
 その時、レポートに必要な参考書を探すのに手間取って、夜遅く僕は最寄り駅のホームにいました。
 それが、席が空いていなくて、ずっと立ちっぱなしだったせいもあって、僕は電車から降りて、とりあえずベンチに座り込んでいたんです。
 体力には自信ありません。暑いし、人混みは苦手だし、だから、疲れていたんです。
 駅から部屋までは、ずっと上り坂ですから、それを上ることを考えるとうんざりしました。
 僕は俯いて、何も見ずに、ぼうっとしていました。何だか少し虚しい感じに囚われていました。
 何のために、僕はこんなに疲れなきゃいけないのか、どうして僕は坂を上って部屋に帰らなきゃならないのか、こんなことが一生続くのか……考えるほど虚しくなりました。
 僕には、取り立てて生きる理由も目的もない。
 なんとなく、目が、ホームの白線の向こうに行きました。そして、少し身震いしました。
 生きる理由も目的も無いのに、その白線の先へ足を踏み出すことは、どうしようもなく恐ろしかった。僕はまたうつむきました。僕に生きる理由が、もし、あるとするなら、そんな恐怖だけだったと言って良いと思います。
 どのくらいそうしていたかわかりません。いつしか顔には、苦々しい笑いが浮かんでいました。
 そして、どさっと音がしました。
 顔を上げても、何もありませんでした。気のせいか、と思いました。でも、すぐに、すすり泣くような声がしました。
 僕をのせてきた電車が過ぎ去って随分経っていましたし、ホームに僕以外のひとはいませんでした。僕はちょっと鳥肌が立つような思いをして、周囲を見回しました。誰もいません。でも、泣き声は、だんだん大きくなりました。
 僕は恐る恐る立ち上がりました。立ち上がると、目の前の線路に誰かひとがいるのがわかりました。僕は、やっぱり恐る恐る近寄りました。
 女の子でした。たぶん僕とそう変わらない年齢らしき女の子が、レールの上にへたり込んで、泣いていました。
 気づかないうちに間違って落ちたのか、と思いました。僕は勇敢な方じゃないし、知らないひとに声をかけることなんて滅多にないですけど、そのときは、非常事態だと思いました。それで、声を掛けました。
「大丈夫? 落ちたの?」
 彼女は、僕をちら、と見ました。そして、うう、とうめくような声を上げると、ここ、どこ? と訊きました。僕は、少し焦りながら、駅だよ、と応えました。わかるよ、そんなの、としゃくりあげるように言うと彼女は、濡れた瞳の、だけど、強い光を僕に向けました。
「だから、どこの国? 何県? なんて駅?」
「いや、そんなことより、そんなとこにいたら……」
「日本よね? 日本語話してる。それとも外国在住の日本人?」
「いやいや、だから、アブナイから……」
「だから!」
「……日本だよ。東京だ。外れだけど。○○線の○○駅、そんなことよりも――」
 彼女はくしゃくしゃにその短かめの髪を掻き回すと、参ったな、帰れてしまう、『連中』のテリトリーだ、と呟きました。
 どうも何かしら違う文脈で話していることは、そのあたりから気付いていました。でも、僕たちはまだ「知らないひと」同士でした。それに緊急事態でした。踏切の音が聞こえました。僕はまずい、と思いました。でも、自分も線路に飛び込んでまで彼女を助ける勇気も義理もありませんでした。僕は、ホームに膝をつき、手を伸ばしました。
「早く、上がらないと!」
 彼女は緩慢に僕に顔を向けました。涙で濡れたままの笑顔が儚く揺れていました。
「このまま、死のうかな」
「何言ってんの!?」
「それでもいいような気がする」
「馬鹿なこと言うな」
 僕は、何時の間にか必死になって、腕をさらに伸ばしていました。電車が近づく音がしました。
 もう疲れたよ、と彼女は呟きました。
 そんなとき、何かうまいことを言って、相手を説得するシーンを映画とかでは見ますけど、僕にはそんな機転もありませんでした。
 まあ、必要もありませんでした。彼女は、冗談だよ、と微笑いました。それでも、彼女は動こうとしませんでした。僕には、早く、早く、と手を伸ばすくらいしかできませんでした。電車の音がもうそこまで来ていました。
 彼女はゆっくり力無く立ち上がると、僕に身体を向けて、こう言いました。
「ここで住むとこがないんだ」
「だからっ!!」
「君の部屋に住んでもいいかい?」
「!?……あ……ああっ!!」
「それから――」
「だから、早く!」
「君に、恋をしてもいいかな?」
 その言葉の意味など、もうそこに迫る電車のせいで、どうでも良いし、理解もできませんでした。ただ、反射的に、わかった、良いから早く! と応えてしまっていました。
 彼女は、悲しげな笑みを浮かべて頷き、何か言いました。ただ、視界を電車のヘッドライトが焼け尽くすように照らしたような気がして、僕の聴覚は、ふ、とその機能を放棄しました。だから、彼女が何を言ったのかわかりません。でも、僕の伸ばした手は、彼女を、彼女の命を、ホームに引き釣り上げていました。
 乗客がまばらに降りて、そして、帰路へと向かい消えていきました。
 その間、僕と彼女はホームにへたり込んで、何も言えずに見つめ合っていました。僕は、半分腰が抜けていました。身体の震えを止められませんでした。
 彼女は、それを見て、可笑しそうに僕の肩をポンポンと叩きました。僕は、滅茶苦茶な心情で、その手を払いました。
 彼女は、すっくと立ち上がり、僕に手を差し出しました。僕は、それを受け取らずに、ガクガクと笑う膝を何とか立たせました。並んでみると、彼女は僕よりも十センチは背が高かった。
 僕は彼女を睨み付けました。戯けた様に左右に頭を振って、それを軽く受けとめると、彼女はその名を名乗りました。
「わたしは、ユウ。君は?」
「……ツトム、黍島柘十武きびしまつとむ
「じゃあいこうか」
「え?」
「君の部屋は、どっち?」
「え?」
 ユウと名乗ったその女の子は、僕の腕を引っ張り、そして、僕は訳も分からずその後についていくしかありませんでした。

 アパートの部屋に入った彼女は、うん、悪くない、と部屋を見回して言いました。まあ、安アパートでしたけど、確かに僕も悪くないとは思っていました。
 それはともかく、僕はただとまどっていました。確かに住んでもいい、と約束させられましたけど、知らないひとが親戚か何かみたいに遠慮無く部屋に上がり込んできたわけですから。
 彼女は、ちょっと乱暴に床に座ると僕を見上げ、わたしはここで寝る、君がベッドを使いなよ、いや、構わない、気を遣わないで、とまるで気を遣わない様子で言いました。ちょっと待って、という言葉が僕の口をついて出ました。
 彼女がこの部屋にとどまる気なのは理解できましたし、確かにあの時咄嗟のことでそんな言葉を受け入れてしまいましたが、本当はそんなことを許す義理はありません。会ったばかりなんだから。
 彼女は僕の当惑した顔を見詰め、そして、ああ、と何かに気付いたように声をあげました。
「ツトム、ツトムの字はどんな漢字?」
「いやだから――」
「字」
「……柘植の木の柘、漢数字の十、武士の武」
「なんだ? 知らない字があるぞ、難しいな、わたしはシンプルだ、わたしのユウは、アソブって書く、遊びのユウ」
「柘十武のツは、木偏に石って書……いや、そうじゃなくて――」
 彼女はなんの遠慮もない笑顔で僕を見詰めていました。すごく可愛いわけではなかったけれど、彼女には確かに女の子の魅力がありました。
 そんな眩しいものには、男子校出身の僕は慣れていなかった。僕の目は何故かそれてしまいました。でも、彼女は僕を見詰め続けて、そして、こう言いました。
「わたしたちは、もう、知り合いだ、仲間だ……親友だよ。遊って呼びなよ。わたしもツトムって呼ぶよ」
 そのたった一言の間に、僕はいろんな必要な手続きをすっとばして彼女の親友にされてしまいました。
 でも、戸惑いながら、それを僕は何故だか当たり前のことのように、受け入れてしまっていました。そうか、親友か、なら、彼女がここにいるのも仕方無い――そんな風に思ったんです。それは、やっぱり、彼女の魅力のせいだったかもしれません。
 下心もあったと思います。女の子とプライベートに二人でいるような刺激的なことには慣れてなかった。
 あの、脱線するかもしれないですけど、よく漫画で可愛い女の子がそばにいて、主人公が優柔不断でなかなか手を出さないっていうのあるでしょう? あれ、読者として見てると、なんでだよ、なんでそこで手を出さないの? ってイライラするじゃないですか? 早く付き合っちゃえよ、って。キスしろよ、って。
 でも、実際の女の子を前にすると、なんていうのかな、迫力? 圧力? そんなものを感じるんですね。触れちゃイケナイ、って。なんだろう、受けてきた教育というか、それとも女の子が持ってるパワーなのか、良くわかりませんけど。
 沸き立つ下心が上にも溢れそうになるのを感じながら、同時に、紳士たらねば、とそれと同じくらい自然と思っていました。
 まあ、その決意の真価は彼女の次の言葉で試されることになるわけですけど。
「とりあえず、セックスしとく?」
 そう言うんです。そう言ったんですよ、彼女。
 あはは、びっくりしました。びっくりして、ただ固まりました。
 彼女、着ていたTシャツをおもむろに脱ぎ始めました。それでも、僕は固まってました。ブラが支えているその膨らみが思い切り目に入って、そこから視線が動きませんでした。いくつか染みのような斑点がありましたが、そんなことすぐ気にならなくなるくらい見事なものでした。
 そんな僕を知ってか知らずか、焦らすことさえ、遊はしませんでした。なんの迷いもなく背中のブラのホックに腕をまわして、そして、隠されていた美しい先端を僕に晒しました。そして、こう言いました。
「ほら、おいでよ。やっといた方が何かと楽だ」
 その何の恥じらいも無い様子は、いささか色気には欠けていました。でも、そんなこととは関係なく、本や画面越しにしか見たことがなかったものが、もっと少年の頃あんなに実物に触れることに焦がれたものが、目の前にありました。心臓がドキドキとがなり立てて、僕を急かしていました。
 でも、意識は、もう、なんていうのかな、やばいやばいやばい、ってその言葉しか浮かばなかった。手足は固まったままでした。
 遊は首を傾げました。そして、訊きました。
「ホモ?」
 僕は、あたふたと慌てながら、なんとか首を振りました。遊は眉を上げて、そう、まあ、別にどっちでもいいけどね、とまた何か違う文脈で言いました。
 僕は、僕たち二人の文脈を合わせる必要がある、と不意に思いました。だからと言って上手い言葉も見つかりませんでした。でも、いやいやいや、と僕の口は勝手に動きました。
「しようよ」と遊は言いました。
「いや、ちょっと待って」と反射的に応えました。
 僕は少し後じさり、腰が抜けてしまったかのように床に落ちました。そしたら、遊は胸の豊かなものを揺らしながら、ネコみたいに手をついて、二歩三歩僕に近づきました。僕は恐怖で――そうとしか言いようありません――とっさに身を引きました。
 な、なんで? とまた勝手に声が出ました。遊は、いいじゃない、理由なんて、とりあえずやっちゃえば、そんなのどうでも良くなるよ、とまた一歩手を前に出しました。
……不思議なもんですね、迫られると本能的に逃げたくなるんだから。僕の方がまるで裸の女の子のように胸元を腕で隠して、身を屈めました。
 狭い部屋です。「ネコの手」を何歩も進ませる必要も無く、遊は僕の目の前に迫りました。そして、指を僕の顎に伸ばそうとしました。
 その瞬間、僕の口はまた勝手に叫びました。怖い怖い怖い、そう言ってしまったんです。
 ふ、と遊は伸ばそうとした指を止めました。そして、その場に座り直すと、そうか、そうだよね、と何かに得心したかのように言いました。そして、まじまじと僕を見詰めると、ごめん、ちょっと焦っていたからさ、と頭を掻きました。興奮と緊張と恐怖が僕の呼吸を震わせていました。でも、これも不随意に訊いていました。
「何を?」
「いや、恋を」
 まったく遊が何を言い出すのか、想像もつかなかったし、想像通りでもなかった。僕は、恋? と問い返すしかなかった。遊はちょっと戯けたように左右に頭を振ってそれに応えました。
「だから、あの時、訊いたろ? 恋をしてもいいかって」
「あ……ああ」
「わたしは、恋をしなければならない」
「は?」
「さる事情がある」
「は?」
「先にセックスをしとくと、割とスムーズかつ短期間に相手を好きになることが多い。経験上」
「は……?」
「大抵の男はわたしが裸になると覆い被さってきたぞ。だから、今まではそれでうまくいった」
「……はあ」
「君は違うのか」
「いや、あの……」
「まいったな、プラトニックは最近ご無沙汰だ」
 そう言って、ちょっと困ったように眉を歪ませる彼女を僕は見詰めました。顔と、はだけたままの胸を、交互に。多分二対八位の割合で。
 やっぱり、女の子の裸って、威力がある。魅力がある。
 でも、もっと見ていたいと思う心と裏腹に、やっぱり口が勝手に、服、着てくれないか、と言っていました。彼女は、ああ、そうか、と頷いて、何でも無いことのように脱ぎ捨ててあったTシャツをあっさり着込んでしまいました。
 もし、その時、彼女が僕をもう一押ししていたら、おそらく、僕も他の男が彼女にしたことをしてしまったかもしれませんね。隠れてしまった乳房に、少し、がっかりしましたから。
 でも、ほっとしたことだって事実です。僕は、座り直して、彼女に向き合いました。話をしなければならない、そして出て行ってもらわなければならない、と思いました。
 それとは逆の衝動は、繰り返しますけど、当然あったわけですけどね。
 事情を聞こうと思いました。僕は大きく息をついて、彼女を見詰めました。彼女はそれに首を少し傾げて応えました。見つめ合って、そして、僕が何から訊こうか迷っていると、彼女のほうから切り出しました。こんな感じです。

「わたしには、恋をしなければならない事情がある。それは、説明できない。
 いや、説明してもいいんだけど、できれば“恋の相手”には安全でいて欲しいからね。知らない、ということは、時に、知っている、ということより、身を守ることがある。
 だから、何故わたしが恋をしなければならないかについては、言わない。
 でも、わたしは早急に恋をする必要がある。
 わたしは、その先で出会った最初の男に恋をすることにしてる。もういちいち探して選ぶのも面倒くさい。そんな時間はもったいない。
 それに、恋なんて、誰に対してでもできるものでさ。要は妄想みたいなものだから。慣れればコントロールできるようになる。
 いや、わたしはそうならなきゃいけない。まあ、目指すは、恋に落ちるエキスパートだから。
 今はまだ少し時間はかかるし、それなりの手順が必要だけどね。セックスは割と大きなとっかかりになりやすいんだけど、まあ、それができないなら仕方無い。普段より時間はかかるかもしれない。その間、ここに居るよ。今までもそうしてきた。
 で、ここでは、つまり、君だ。君に恋をする。
 いや、君は何もしなくていい。わたしは勝手に恋をする。君にわたしを好きになってくれなんていわない。そんな必要もないし、しない方が君も辛くない。
 そして、わたしが見事恋に落ちることができれば、君は晴れて理不尽な同居人から解放される、という寸法だ」

 彼女が何を言っているのか、やっぱりわかりませんでした。さっぱりわかりませんでした。
 ただ、彼女がその部屋に同居するつもりなのだけは、間違い無くわかりました。僕は慌てて、本気で同居するってこと? と訊き返しました。ああ、よろしく、と恬然と彼女はいいました。いや、困る、それは……と僕は言いかけて、それほど困ることも無い、ということにも気付きました。
 そもそも、僕には訪ねてくる友達もいません。カノジョも、もちろん。いや、気になる子は語学のクラスにいましたけど、遊の存在が、その子との関係に影響することなどありそうにも思えない。その時は関係と呼べるものだって、そもそもない。ただ、正体不明の女の子といる、おちつかなさ、ある種の怯え、そういうものが、僕に“困る”と言わせたに過ぎません。
 微妙な表情をしていたのでしょう。それを覗き込むように遊は笑って、ああ、食事はなんでもいいよ、君のあまりを少しもらうだけでいい、いや、食費はだせないから、贅沢は言わない、そういうののお礼もかねて、普段は抱いてもらうことにしてる、ほら、行くとこ行けば、女の身体にはそれなりの値段がつくだろう? 食費分くらいにはなると思ってるんだけど、君はそういうのはいらないみたいだし、だから、ほんと贅沢は言わないよ、ところで、ここにはゲーム機はないの? と言いました。僕は首を振りました。ちぇ、じゃあ、何して暇を潰そうかなあ、と遊はなんてこともなく天井を見上げました。
 彼女があっさり僕をプラトニックのひとと決めつけたことで、僕は、簡単にその行為への興味を言い出せなくなったのが、わかりました。そうなってしまうと、心の中の小さな落胆がやけにはっきり感じられました。
 まあ、前言を撤回するための言葉を発する勇気と厚かましさは僕にはありませんでしたけど。
 彼女は、何か納得したみたいに楽しそうに頷くと、じゃあ、そういうことで、と僕を見詰めました。僕は、じゃあ、そういうことで、と応じてしまいました。
 彼女は少しの間僕を優しく見詰めると、笑顔で――どこか儚げな、悲しげな、何かを諦めてしまったような笑顔で、こう言いました。
「わたしは、君を好きになるよ。本当に、深く、わけがたく」
 僕はその笑みの中の真剣な瞳の光に、反応できませんでした。
 すると、遊は僕の頬に指をのばし軽く触れて、それからゆっくりと、優しく温かな手の平で、固まったままの僕の顔を包みました。そして目を瞑り、こういいました。
「でも、それは君のためじゃない。ただひたすら自分のためだけに恋をすることを許して欲しい」
 僕に、躊躇いながらの頷き以外の何ができたでしょう。ふ、と鼻で息をついた彼女は、疲れていたのか、そのまま床に横たわって目を瞑り、すぐに軽いいびきをかき始めました。僕は本当にどうしていいかわからず、ぎこちなく、夜を過ごすことになりました。
 これが、僕たちの出会い、でした。

<#02終わり、#03に続く


 この物語はフィクションです。実在するあらゆる個人・団体・学校・組織および事件・事象などとは一切関係ありません。
 また、この作品は2016年にKDP・Amazonで電子出版された作品に読みやすくするため改行や若干の言葉の変更などを加え、分割して順次掲載する予定のものです。以前の電子書籍版と大筋において変更はありません。

この作者の作品をまとめたマガジンはこちら。


「スキ」などの反応があるだけでも、とても励みになります。特に気に入って下さったなら、サポートもよろしくお願いします!